なぜ怒鳴られたのかよく分かっていないコチノカミカミキリ
コチノカミカミキリが、シロー・ムラサキのもとへ、映像化の話を持ってきた
「そうは言いますが、原作と映像は別物でございます、原作は、なんと申しましょう、そうでございます、映像のための素材とでも申しましょうか」
これには、ムラサキ、たちまち憤怒した
「わたしの原作は、完成されたいわばひとつの料理のようなものだ、素材なんかじゃあないよ、原作と映像は別物と言うけれどねキミ、原作を用い、他のものにノセカエル行為というのは、違う料理に見せているだけで、けどね、原作とおんなじ料理であることに変わりはないんだよ、別物に見えるのは、無理矢理こねくり回して別物に見せているにすぎない、間違っても、原作が素材なんてこと、ありはしないよ、できないだと? できないと言ったか? できないのは、キミたちがやろうとしてないからだろう、それを別物だからと話をすり替えおって、ふざけたことを口にするのもたいがいにしたまえ、わたしは、キサマらに魂を売ったりはせんっ」
一気に捲し立てるとムラサキは、ふう、とひと息つき、そして
「帰ってくれっ」
高らかに宣した
コチノカミカミキリが辞してからも、ムラサキは、おさまらなかった
まったく、ニンゲンとやらが住んでるあたりから来る連中はこれだから、奴らニンゲンどもに毒されおって、人がつくったものを素材などとバカにしおって……
ムラサキは、その後、何週間も、ずうっと機嫌が悪かった
機嫌が戻ったムラサキは、辞書を持ち出し「魂」をこっそり調べてみた――