ニワトリの響ちゃん
ある日、母がヒヨコを買ってきた。
「わぁ~。かわいいー。お母さん!!名前つけていい?」
私は、ピヨピヨと鳴く小さな姿に一瞬で魅了されてしまった。けれど
「別に付けてもいいけど、最後には食べちゃうわよ?だからと言っていたずらに死なせていいものじゃないけどね。」
と、母の態度はそっけない。
「こんなにかわいいのに食べちゃうの?」
そう聞くと
「当たり前でしょ?それにすぐ大きくなっちゃうわよ。」
と、返される。
「決めた!!この子は響くって書いてキョウちゃんって名付けよう!!」
私は、大きくなったらいっぱい声を響かせて欲しいと、願いを込めてそう名付けた。
「これからよろしくね。キョウちゃん♪」
「ぴよ♪」
それから響ちゃんはあっという間にすくすくと育ていく。
「おはようキョウちゃん。少し羽の色が変わってきたかな?」
「ピヨピヨ!」
「おはようキョウちゃん。そろそろ外にも出られるようになってきたかな?」
「ピーヨピヨ」
「キョウちゃん!今日はご機嫌だね」
「ぴよ♪」
「キョウちゃ~ん。こっちまで来れるかな?私のことわかる?」
「ピーヨピーヨ♪」
私が毎日のように響ちゃんに話しかけてるおかげか、まるで人の喋っている言葉が分かっているかのように、響ちゃんは返事をしてくれる。
その事をお母さんに話すと
「そんなわけ無いでしょ。あんたが毎日餌をくれるから呼び掛けてるだけよ。」
なんて夢の無いことを言ってくる。
それから更に日が経つと、響ちゃんはだいぶ羽根の色も変わってきて、庭に出られるようになった。
「キョーウちゃーん。おいで~。ご飯だよー。」
「ピヨピヨー♪」
「キョウちゃん、とさかみたいなのが出てきたねぇ。」
「ピョーピョー」
「キョウちゃんもうヒヨコってよりもニワトリみたいになってきたねー。」
「ギョーギョー」
響ちゃんが家に来てから、気が付いたら数ヶ月経っており、もうすっかり響ちゃんと会話をするのが日課になってしまった。
お母さんは、ヒヨコはすぐに大きくなるって言ってたけど、大きくなっても響ちゃんは、私にとってかわいいままだった。
だって、私が話しかけると、相づちをうつようにコケコケと鳴いてくれるんだもん。きっと響ちゃんはとっても賢いんだ、と、私はすっかり親バカになってしまった。
「キョウちゃん、もうすっかりニワトリの顔になっちゃったねー。」
「コッコッ♪」
「キョーちゃん、もうそろそろ大きな声で鳴けるんじゃない?」
「コケッコケッ」
なんて日々を過ごしているうちについにその日は来た
「コッケコッコー!!」
「キョウちゃんすごーい。上手に鳴けたねー!。」
響ちゃんが鳴いた日、私は嬉しくなって布団から飛び起きた。
庭に向かうと、まるで私が来るのがわかってたかのように、響ちゃんがこちらを向いており、私の姿を見たとたんに、パタパタ羽を鳴らしながら、嬉そうに
「コケッコケッ♪」
と、こちらに駆け寄ってくる。
やっぱり響ちゃんは賢くてかわいい!!
それからしばらく経つと、母が
「だいぶあのニワトリも大きくなってきたし、そろそろかねぇ。」
と言った。
とうとう響ちゃんとお別れの日が近付いてきたようだ。
この頃には、もう私は、響ちゃんは人の言葉が分かるんだと確信しており
「キョウちゃん、いよいよお別れの時が来ちゃったね。でも、心配しないで。最後の日までいっぱい思い出を作ろうね。」
と、いつものように声をかける。
すると、賢いはずの響ちゃんは、餌を食べ終えたのか
「コケッ?」
とだけ言って私から離れて行ってしまった…。
キョウちゃん…