7.出来ること
かなり遅れての更新です。
ハッピーハロウィン…
「!?」
紙一重のところで結芽を抱えながら俺は悪魔の攻撃を避ける。
さっきと同じように悪魔が傷を付けた木は、深くえぐられた爪痕から、ギシギシと音を立てて倒れる。「結芽、戦えそう?」
身体を縮め込み、俺の腕に抱えられている結芽を見て聞く。
「無理かも…」
自信があったのかはわからないけど、悪魔の攻撃で倒れる木を見て、自信無さげに結芽は答える。
まぁ、そうだろうな。
「オッケ。じゃあなるべく後ろに隠れてろ」
隠れろと言ったてまえ、正直俺も自信がない。
あるわけがない。
まぁでもここで戦わなかったら死ぬだろうからなぁ~。
颯はしゃがんだ状態から立ち上がり、座り込む結芽に背を向け、刀を正面に構える。
「!」
また、悪魔が突進してくるが俺は刀を振り上げる。
(ここ!)
悪魔が間合いに入ったタイミングで俺は刀を振り下ろす。
(!?)
しかし、颯の刀は悪魔に命中することはなく、虚空を斬る。颯が間合いを見誤った訳ではなく、間合いに入る直前に悪魔は羽を広げ、ギリギリの所で静止していた。そして悪魔は颯を無視し、回り込んで颯の後ろで座り込む結芽の方へ向かう。
(クッソ!!今からじゃ間に合わない!…なら!)
「!?」
颯を無視して自身の方へ来る悪魔を見て、結芽が硬直する。
「まずは女から!」
腕を振り上げる悪魔が結芽の真上に来た瞬間だった。
「ガッ!?」
何かに激突し、悪魔はそのまま結芽の後方の木に叩きつけられる。
「簡単に殺されるつもりはないって言ったけど、殺させるつもりもねぇぞ…!」
颯の右手にはグローブガンが握られており、悪魔に命中したボクサーグローブはワイヤーで引き寄せられ、銃口におさまる。
俺は結芽に駆け寄り、無事を確認する。
「大丈夫か!?」
「大丈夫。死ぬかと思ったけど…」
「立てる?」
座り込んだままの結芽に手を差し出す。結芽も俺の手を取り、立ち上がるがわずかにその手は震えていた。
「結芽…俺の後ろ、なるべく離れてろ」
『守れ』と本能が訴えてくる。
わかってる。最初からそのつもりだ。
「クソガキが…!」
悪魔が立ち上がり、翼を広げる。その目は殺意がこもっていて、俺ではなく結芽を見ていることもわかった。
「気が変わった。女より先にお前から殺す…」
「やってみろよ…!こっちも最初っから殺す気だから…!」
正直、怖くないのかと聞かれると怖い。
でも、それ以上に…後ろの結芽を守らなきゃいけないっていう使命感の方が強い。
悪魔の目はまだ結芽の方を見ている。口では俺を殺すと言っておきながら、隙があれば結芽を狙うつもりだろう。
悪魔がまた羽を広げ、右腕を振り上げ颯に襲いかる。
颯も同時に悪魔に切り込み、刀を降る。
刀の刃と悪魔の爪が触れ、金属音が周囲に鳴り響いた。
悪魔は怯まずに攻撃の手を止めることは無く、颯も刀を降ることを止めない。
金属音が鳴り響く中、結芽は戦う颯の姿を後ろで見ているしかなかった。
(結芽、もしかして足手まといになってる?)
少し離れた位置から戦う颯を見て、結芽はふと思う。先程から、颯に助けられてばかりだと。
戦っている颯はどこかぎこちなく、背後を庇いながら戦っているように見える。
自分が女だから、戦いに加勢しろと言わないのか。そんな考えは結芽の頭からすぐに消えた。
颯はそういったことはしないのだ。男と比べて女には優しいが、基本男女平等主義。少なくとも9年間、結芽が見てきた颯はそうだった。
故に、『女だから庇っている』のではなく、『戦えないから庇っている』のだ。男であろうと、女であろうと、戦えないなら颯は庇うと。
(だったら…)
何かを決意した結芽は、颯に背を向け走りだし森の中へと消えた。
「ちっ!逃げやがった!クソッ!」
(…せめて逃げてる最中に鉢合わせはすんなよ)
つばぜり合いの中、結芽が逃げたことに対して悪魔は
苛立ち、颯は不安と安心を感じていた。
不安は他の悪魔に遭遇しないか、安心は目の前の悪魔から逃げれたということ。できれば自分が手の届く範囲にいることが颯の望みだったが、状況が状況だけに、結芽の判断が正しいと思うことにした。
「クソガキが邪魔しやがって!生意気なんだよ!」
怒鳴りながら悪魔は腕を振り下ろすが、颯は刀で受け止める。
「ガキは生意気なんだよっ!」
「っ!?」
腕を振り下ろした悪魔の一瞬の硬直を颯は見逃さず、すかさずグローブガンで悪魔の腹部を打つ。
グローブガンで押し飛ばされた悪魔は背後の木にぶつかる。
(やっとまともに当たった…)
グローブガンが命中したことに颯は安堵する。ほぼゼロ距離で打ったのだから命中しない方がおかしいが、何度刀で斬ろうとしてもなかなか当たらなかった戦況の中、ようやく入った攻撃だった。
(早めに終わらせないと俺が不味いか…?)
制服に滲む血を見て、颯は悟る。悪魔と戦えてはいるものの、戦闘経験も、まともに刀を振った経験もない颯に攻撃をすべて防ぐ技術などあるはずがなかった。故に、防げなかった攻撃は身体で受け止めるしかない。
(傷は浅いけど、いつもろに食らうかわかんないからな~…ん?)
ふと颯の視界で何かが動いた。悪魔の後ろの茂みの中。
(…バカかよ)
思わず笑みが零れ、颯は刀を両手で握り、刀身を垂直に右へ構えた。
自分が思っているより、自分はバカかも知れない。
だって逃げるべきだし。他の人でもそうする…はず。
でもなんか癪にさわった。他の誰でもない自分に。
『足手まとい』
それが嫌だった。何でと言われてもうまく説明できない。でもみんなあるじゃん?そういうの。多分それ。
だから結芽は逃げなかった。
(ここで大丈夫なはず…隙ができたときがチャンス…!)
茂みの中で身を潜めながら、結芽は考える。
逃げたと思わせて、悪魔の後ろに回り込む。森の中というのもあって、悪魔にばれることはなく背後を取れた。
「調子に乗りやがって…!」
(きた!)
木に打ち付けられた悪魔が腹部をおさえながら颯を睨み付ける。
そして、後ろで見ていた結芽からすると悪魔は隙だらけ。
結芽は両手を悪魔に向けて構える。
「こい!結芽!」
「はぁぁ!!」
颯の掛け声で結芽は茂みから身体を出し、能力を発動する。
「っ!?」
悪魔は身体に衝撃を受け、颯方向に勢いよく飛んでいく。
(ここで決める!)
颯は刀を握る手に力を入れる。
僅な時間で距離を測り、刀を振り下ろすタイミングを待つ。
(ここ!)
颯は力一杯刀を振り下ろす。
しかし、刀は虚空を斬った。
「!?」
颯が刀を振り下ろしたタイミングは完璧だった。にもかかわらず、振り下ろした刀は悪魔をとらえることはなかった。
「っ!」
悪魔との衝撃に備え颯は目をつむる。
「…?」
しかし、その衝撃はいつまで立っても訪れることはなかった。代わりに聞こえたのは背後で地面をする音だった。
目を開き、振り替えるとそこには左肩から右腰にかけて両断された悪魔が血を流して倒れていた。
「え?」
颯の理解が追い付く間もなく、悪魔は塵になって消えていった。
「…え?」
何が起こったのか颯には理解できなかった。実際、颯自身は仕留めそこなったと思っていたのだから、両断された悪魔、さらには塵となって消えていく光景を見た颯は困惑するしかなかった。
「尾月!」
声の方に振り向くと結芽が駆け寄って来ていた。
「結芽…えっと…無事?」
「それ結芽に言う?まぁおかげさまで。」
結芽からすると、血まみれの颯に安否を確認されている訳だからこういう反応になる。
「そっか。で、何があったかわかった?」
「まぁ、一応」
結芽が歯切れの悪い返事をする。
「説明よろ」
「いや、結芽も意味わかんないけど、尾月が刀を振ったら、青色の斬撃みたいなのが飛んできて気づいたら悪魔が斬られてた」
説明をしている結芽もよくわかってはいなかった。
「…帰るか」
「うん…」
颯と結芽は広場に戻るために足を進めた。
読んでいただきありがとうございます!
次回も楽しみにしていてください。