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シークレットサバイバー  作者: ツキグマ
第1部
5/7

5.生存者の決意

遅くなりました!すみません!

続きです!どうぞ!

「なんだぁ?ま~だ生き残りがいたのか」



悪魔は颯と恒一を見るなり言った。



「…」



颯の手からバットが落ちた。カランッと音が響く。



「は、颯…」



恒一の足が震える。運転中に追いかけられたときとは比べ物にならない恐怖。足がすくみ、恒一は逃げ出すことすらできなかった。



「まぁいい。最後の晩餐くらい贅沢に喰っても良いだろ」



悪魔は立ち上がり、先程まで食べていた腕を後ろに放り投げた。


一歩一歩確実に距離を詰め、悪魔は颯の目の前まで来て立ち止まった。



「安心しろ。痛みも感じないようすぐに殺してやる。喰ってる間にギャーギャー騒がれんのは耳障りだからな」


「…」



悪魔の言葉に颯は何も返さない。それどころか先程から何の反応も示さないのだ。



「じゃ」



悪魔が腕を振り上げる。指先の爪は鋭く尖っており、人間などあっという間に殺してしまえるだろう。



「死ね」



そう悪魔がいい放ち、腕を振り下ろした瞬間だった。恒一の目には信じられない光景が映り込んだ。



「なっ!?」



悪魔が一歩後退りし、ドサッという鈍い音が聞こえる。悪魔が振り下ろした筈の腕は床に転がり、颯の右手には鞘から引き抜かれ、刀身から赤い液体を滴らせた模造刀が握られていた。



「このガ…っ!」



悪魔はもう片方の腕を振り上げた。しかし、その腕は振り下ろされることはなく、いつの間にか颯の模造刀は悪魔の喉元を貫いていた。

颯は悪魔を蹴りとばし、模造刀を引き抜く。

悪魔は、床に倒れたまま動くことはなかった。



「っ!」



颯が振り返り、恒一の息が詰まる。

振り返った颯は、返り血を浴び、殺気だった目をしていた。



「…」


(…気まず!何か声かけたほうがいいのこれ?あれから颯、全く喋らないし、どうするのが正解なんだ?)



車を運転しながら恒一は考える。



(あの後、2階から何か持ってきた時も、コンビニで食料あさってる時も、ずっと黙ったままだったし)



悪魔を倒した後、颯は銃のようなものを2階の自室から持ってきていた。

その後、家を出て近くのコンビニで食料調達。食料を車に詰み、今に至る。

その間、颯は一言も話さなかったのである。



「…」



恒一が横目で颯を見る。颯は窓から外を見て黙ったままだ。模造紙とバットは立てかけており、銃の用なものは膝に乗せている。


恒一には見覚えがあった。


プラスチック製で色は黄色、銃口は非常に大きく、中からは赤色のボクシンググローブが覗いている。


小学生の頃、夏休みの図工の宿題で『工作しなさい』とあった。颯の持っている銃はその時のものだ。


作品名は『グローブガン』


引き金を引くと中のボクシンググローブが前に伸び、引き金を離せば戻ってくるという仕様だった。射程距離はせいぜい30センチ程度で武器としてはいまいちである。



「ごめん…嫌なもん見せた…」



外を見たままではあるが、ようやく颯が口を開いた。



「やっと口開いた。帰るまでずっと無言かと思ってたぞ?」


「それは…まぁ…なんか話せる気分じゃなかったし」


「ごめん…そりゃそうだよな」


「いや、別にいいよ。何となくわかってたし…」



一瞬の間を置き、颯がまた口を開く。



「覚悟してたはずだったんだけどな…」


「…」


その言葉は震えていた。窓ガラスには、落ちていく光の粒が映った。



「…」



恒一はそれ以降、口を開くことなく運転を続けた。





「あ、帰って来た。え?」



和輝はパンパンになった袋を持って歩いてくる、颯と恒一に気づいた。しかし、颯の服は悪魔の返り血で汚れており、事情の知らない和輝は動揺した。


「颯君、それどうしたの?」



歩いてきた颯の服を指差し、問いかける。



「あー…いろいろあって。」


「いろいろって何…?」



はぐらかす颯に和輝が更に問いかける。



「転けて、血溜まりにドボン」



颯の後から恒一が言う。事情を話したくない颯の変わりに嘘を言う。それが今、恒一にできる一番のフォローだった。



「え、ダサ」


「死にたい?」



颯は袋を地面に置き、腰にかけている模造刀に手をかける。



「ごめんて」



和輝は両手を上げ、降参のサインをする。



「えっと、武器ってそれ?」



手を上げたまま、和輝は颯の模造刀とバットを見る。コンビニで大量に食料を調達したせいで、手がふさがった颯は左腰に模造刀、右腰にバットを制服のベルトで挟んでいた。



「そう。武器になりそうなものを一応持ってきた。あとこれ」



そう言って颯は袋からグローブガンを取り出した。持ちきれないため袋に入れていたのである。



「グローブガンだっけ?…武器になる?これ?」


「…牽制程度には」



正直、何故持ってきたのだろうと思う颯だった。



「俺、これ配ってくるわ」



恒一は食料の入った袋を持ち上げ、他のメンバーのもとへ駆け寄った。



「颯」



恒一と入れ替りで花が颯に歩み寄る。まだ傷が痛むのか、歩き方はぎこちない。



「大丈夫…?」


「…」



心配そうな眼差しで颯を見つめる。ただの心配なのか、何かを察したのか、颯には判別がつかなかったが、花の目を見ていると、とても申し訳ない気持ちになった。



「ん」



花の頭に手が添えられる。



「大丈夫だから、心配すんな。怪我もしてないしな」



花の頭を撫でながら颯は微笑んだ。



「うん。わかった。」



颯に答えるように、花も微笑み返す。



「颯君、僕と対応違くない?」


「自分の発言を振り返ってみろ」



横から話しかけてくる和輝に颯は呆れた。しかし、和輝の発言で落ち込んだ気分が少し明るくなったのも事実。やはりほんの少しだけ和輝に感謝する颯だった。

そんな会話をしている時だった。

辺りが異常なほどに明るくなった。射し込む光が強くなった訳でもなく、颯達のいる空間から光が発せられているようだった。



「何!?」



花が辺りを見回す。しかし、光が強くなっていること以外で特に変わったことはなかった。

光はだんだん強くなり、颯達は眩しさのあまり腕で光をさえぎり、目を細める。

宙に球体が現れ、光はその球体から発せられているのがわかった。

目を細める颯達の前に球体が舞い降りる。

やがて光は弱くなり、球体から人影が出てくる。



「…」



光は収まり、人影の正体が明らかになる。


頭上の黄色く光る輪、背中からは白く美しい羽、金色に輝く長い髪、胸元にバラのししゅうが入った白のワンピースを身にまとう少女がそこに立っていた。



「…」



少女はゆっくりと目を開き、青く澄んだ瞳が現れる。



「良かった…まだ生きてる人間がいて」



安心した様子で少女は呟く。そして一息つき、もう一度口を開く。



「初めまして、私は天使。あなた達を助けに来ました」



その言葉を聞き、花が呟く。



「天使…?」


「えぇ、あの悪魔どもからあなた達を助けるために来たの。と言っても、人任せになっちゃうけど…」



申し訳なさそうに天使が答える。



「…あなた達に悪魔を倒して欲しいの」


「助けるとは?」



意を決して言ったであろうその言葉に颯が間髪いれず疑問を口にする。

助けると言いつつ、悪魔を倒すのは颯達。颯だけでなく、他のメンバーもこの矛盾に疑問を抱いていた。



「えっと…簡単に言えば、悪魔と戦える能力をあなた達に授けることね。」


「怪しい…」



結芽が目を細めて言う。



「怪しくないわよ!?そこ疑うところなの!?」



意外な言葉だったのか、天使は取り乱す。



「具体的に戦える能力ってどんな能力なんだ?」


「そうね。言うよりも見た方が早いわ。あなた、ちょっとこっちに来てくれる?」


「?」



天使は質問した恒一を呼び出し、恒一も天使の前に立つ。



「あなたが悪魔と戦う時をイメージしてみて」


「…?」



恒一は不審に思いながらも、目を閉じイメージする。恒一に合わせるように、天使は両手をかざした。

その瞬間、恒一の全身がうっすら光始めた。ほんのわずか数秒で光は収まり、天使も手を下ろす。



「これで完了よ。もう一度イメージして全身に力を入れてみて」


「ふっ!」



恒一は天使の言う通りに力を入れる。すると両手両足に黒光りする鉄の籠手こてと靴が現れた。籠手と靴には細く緑のラインが刻まれている。



「何…これ?あと…少しだけ…?身体が軽くなった気がする」


「気がするって…」



恒一の曖昧な発言が颯は気になった。おそらく、恒一自身もあまり自覚がないのだろう。



「そのまま…そうね、あの木を殴ってみて」



間髪いれず天使はそう言い、広場の端の木を指差す。

木の前に立ち、恒一は深呼吸をする。他のメンバーは何が起こるのかをマジマジと見ていた。

恒一が思い切り木を殴ったその時だった。



「!?」



恒一が殴った木はギシギシと音をたてながらゆっくりと倒れていった。

恒一はもちろん、天使以外のその場にいた全員が目を丸くする。天使はと言うと、ドヤ顔で腰に手をあて仁王立ちをしていた。



「今、あなたは悪魔と素手で戦うことをイメージした。だから、木を殴り倒せるほどの力が備わったのよ。もちろん、能力を授けると誰でも身体能力は強化されるけど、あなたは素手に特化しているから、それほどの力を身につけたのよ。その手足についているのは、あなたの能力をサポートするための装備と思ってくれていいわ」



ドヤ顔で説明する天使に全員空いた口が塞がらない。と言うよりも、恒一が木を殴り倒した段階で頭が追い付いていなかった。その上、説明もいきなり吹き込まれるのだから当然と言えば当然だろう。



「これで少しは信じてもらえたかしら?」


「あ…はい…」



理解が追いつかない颯達はあっけない返事を返してしまう。



「デメリットとかは無いから安心して」


「恒一君、大丈夫そう?」


「別に変な事とかはないな」



和輝が恒一に確認をとるが恒一に変わった様子はないようだ。



「どう?私達の変わりに悪魔と戦ってくれる?」


「さっきから気になってたけど、何で天使が戦わないの?」


「今は、悪魔が人間界に来ないよう他の天使達が足止めしてるの。それに私達天使は一対一では基本勝てないの。だから、あなたは達にお願いしてるのよ」


結芽の質問に答えた天使の説明は筋が通っていた。結芽同様、『天使の変わりに』と部分に疑問を持っていたメンバーも納得する。



「…」



一同が黙る。悪魔と戦う恐怖。一つ間違えると死ぬかも知れないということになかなか決断が出来ない。


ただ一人を覗いて。



「…やるよ。このまま隠れてても、死ぬのを待つだけだしな」



悪魔と戦うと聞いたときから、颯の答えは決まっていた。すでに悪魔を倒していることもあり、決断するのに時間はかからなかった。



「俺も。能力もらっちゃったし」



恒一が後に続く。



「花も…死にたくないし」


「僕も、断る理由はないかな」



花と和輝もそれに続く。



「結芽も死にたくないし…愛奈ちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫…頑張る…」



結芽は横の愛奈を見て心配するが、覚悟を決めたのか愛奈も結芽と前に足を踏み出す。



「みんなすごいな、俺はまだ怖いよ」


「いや、それはしょうがないと思うけど」


「…俺ば決めたぞ!」



悠祐の言葉に尚也は同情する。治翔も意気揚々と前に進み。悠祐も覚悟を決め、尚也と足を進める。



「決まったみたいね」



天使の言葉に全員が目を合わせる。

たった9人。地獄と化した世界に取り残された中学生たち。その未熟な身体で恐怖と絶望に立ち向かう。



この日、普通の中学生は普通の日常と共に『普通』を手放した。


読んでいただきありがとうございます!


次回も楽しみにしていてください!

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