4.不安
お待たせしました。
少しペースダウンするかもしれません…
暑さにやられております…
「やっと着いた…」
車を止め、恒一が息を着く。颯達は松良山に来ていた。
約40分。道はクラッシュした車だらけ、更には恒一の運転技術も相まって15分で着くはずが40分もかかってしまっていた。松良山に来た理由としては、木が生い茂っており、上空の悪魔から見つかりづらいからだ。これは尚也の意見で、逃げ場の無い建物の中に隠れるより、山に身を隠すほうが安全だと考えた。
「酷い目にあった」
「もう少し、ましな運転できなかったの?」
「吐きそう…」
和輝、尚也、治翔は車から降りるなり不満を口にする。
「…」
(あ、すげー落ち込んでる)
黙り込む恒一を見て、颯が察する。自ら名乗りをあげ、したことのない運転までしたというのにこの仕打ち。落ち込むのも無理はないだろう。
「とりあえず、中に入ろ?また襲われるかも知れないし」
結芽が松良山の入り口を指差す。
「…」
結芽と悠祐は車の中で学校での出来事を聴いたが、少し黙り込むだけで、すぐにいつもの調子を取り戻した。周囲が前を向いているのに、自分が下を向いている訳にはいかないという考えもあったのだろう。特に変化もなくいつも通りの結芽を花は見ていた。
「花」
「?」
不意に声をかけられ、花が振り向くと背中を向けしゃがんでいる颯がいた。
「おぶるから乗って」
「いやいや大丈夫!歩けるから!」
「大丈夫なやつは、そんな歩き方しません」
颯の言うとおり、花は右足を庇いながらここまで歩いていた。血は止まっているが、痛みが無くなった訳ではなく、右足を踏み込む度に若干顔を歪めている。
「…えっと、じゃあ…お願いします」
逃げられないと悟ったのか、申し訳なさそうに颯におぶられる花だった。
数分間山の中をひたすら歩く。これまで怒涛の連続で颯達は気が滅入ってしまっていた。お互いがそれを認識しているかはわからないが、自分の元気がないことは理解していた。これからのことを考えると気分はいっそう下がるばかりで、全員下を見て歩いている。
「?…あれ見て」
「?」
花の言葉に全員が前を向く。悪魔から見つからないために、日光がほとんど届かない薄暗い道を歩いていた颯達だが、前方には日がさしているのか、眩しく光る空間があった。
その場所へ足を運ぶ。
「!?…」
全員が息をすることを忘れた。それほどにそこは神秘的な空間だった。
直径約100メートルの円形の開けた空間。その空間の中心には一本の木が堂々と立っていた。高さは約15メートル、幅は約2メートルほどの大木。大木から伸びる枝は空間を覆うように伸び、周囲の木の枝と重なり、葉は日光を程よくさえぎっている。見上げれば、枝や葉の間から日光と共に青空が覗いており、足元からは程よくさす日光で育った雑草が5センチほど伸びていた。
「すごい…」
「綺麗…」
結芽と愛奈が口を開く。今まであったことが嘘の様に感じられる。地獄を見た颯達にとって、天国とも見間違うほどの景色だった。
「ここで休憩しよっか」
「そうだな」
「賛成~」
和輝と恒一の会話に全員が賛同する。気持ちが安らいだのかその場で座り込む人もいた。
「これからどうする?」
数分の休憩で、全員が座り込み円形に座るなか、尚也が口を開く。松良山まで逃げて来た颯達だが、この先の事は何一つ決まっていなかった。食料もなく、この場にとどまっていても助かるという保障はない。正直、詰みと言っても過言ではない状態だった。
「俺は戻る」
「!?」
颯の言葉に全員が目を見開き、颯の方を見る。
「颯君、気でも狂った?遂におかしくなった?」
「狂ってないし、何でお前はそういちいち余計な事をいうかな」
気が狂ったと思われても仕方のない発言とは颯自信も思ってはいたが、指摘されたのが和輝であり、やはり一言余計なのである。
「このままここにいても何も解決しないし、悪魔が襲って来たときに武器でもないと抵抗もできないだろ?家から武器になりそうな物をとっておきたいし、それに飯も調達しないと餓死するぞ俺ら」
「…」
一同が黙る。すべて颯の言うとおりだった。武器はともかく、食料に関しては少なくとも誰かが調達しに行かなければならない。危険ではあるが、それを颯が行おうとしていた。
「…わかった。ただし俺も連れてけ」
今度は恒一の方を一同が見る。
「いいけど…死ぬかもよ?」
あぐらをかいた状態から立ち上がり、恒一を見下ろしながら颯は微笑みかける。信頼からか、その顔はわずかに嬉しそうだった。
「上等!あと食料とか1人で持てないだろ?」
恒一も立ち上がり、颯に微笑みかえる。
「じゃあ、決まりで。行くか。」
「あいよ!」
歩き方出す颯に恒一が続く。
「絶対帰って来いよ!」
「…了解!」
治翔の言葉に2人は振り向き、気合いの入った声で返した。
「そういえば、どうやって家に行くんだ?」
「乗ってきた車」
「誰が運転するのそれ?」
「もちろんそれは経験者が」
「…え?…俺?」
(2人とも無事に帰ってくるよね?)
会話をしながら歩いていく2人を花は不安げに見つめていた。
「いないな、悪魔」
「不気味だな」
運転しながら恒一は周囲状況を確認する。颯も助手席にから外を見るが悪魔らしきものは確認できなかった。2人は今、車で田んぼ道を走っている。一般道はクラッシュした車が多く、通るとなると時間がかかる。一方、田んぼ道であれば車が頻繁に走っている訳ではないので時間の短縮ができるという訳だ。実際、障害物になるような物はなく、すんなりと走れている。といっても、運転しているのは中学生。スピードはほとんど出ず、出たところでせいぜい時速20キロ程度だった。
「ところで恒一、運転大丈夫?さっきから首が固定されてるみたいに前向いてるけど」
「全然大丈夫じゃない。」
そう言った恒一の顔は固まっていた。
「…周りは俺が見るわ」
「そうしてくれると助かる」
田んぼ道だけを見ると、平和だと勘違いしてしまうほどその状態は良かった。人がいないからか、被害は全く感じられない。
(あの学校にいた悪魔と追ってきた悪魔の他にもいるはず…なのにどこにもいない?)
学校。学校から松良山までの道。颯達が通ってきた場所はどこも死体や血、燃えた車でいっぱいだった。実は、松良山までの道のりでその状態を見たのは、颯、花、恒一、和輝、結芽の5人だけで、他のメンバーは気が滅入っていたり、恒一の運転の影響で体を痛めたりで外を見ている余裕がなかったのである。故に今、颯と恒一は外の被害状態をだいたい把握しており、悪魔がまだ大量にいると考えている。
「あ、田んぼ抜けた」
「ここまっすぐで家に着くぞ」
「オッケ」
気がつくと一般道に出ており、颯の家のすぐそこまで来ていた。
「着いた…」
「お疲れ様」
車から降り、2人は颯の家を見る。外見は普通の家で特に変わった部分は見当たらない。
「とりあえず倉庫に行く。武器になるかはわからないけど無いよりはマシだからな」
「了解」
颯は庭の倉庫に足を運ぶ。倉庫から出てきた颯が手に持っていたのは、刀とバットだった。
「その刀って本物?」
「いや、模造刀。中学入学祝いでお爺ちゃんからもらったやつ。多分切れないけど、武器としてはまぁまぁじゃない?金属バットは普通に凶器になるしな」
颯はそう言い、模造刀を腰にかけ、金属バットを手に持ち、玄関の前に立つ。
颯には3人の家族がいる。父と母、そして妹だ。
もしかすると家族が死んでいるかもしれない。そんな考えが颯の脳裏をよぎる。それでも、もし生きているなら助けなければならない。そう思い颯はドアノブを握る。
「入るぞ」
颯の言葉に恒一は頷く。
玄関に入り、中の様子を確かめる。
「?」
リビングから微かに物音が聞こえ、それを確かめるため、2人がリビングを覗く。
「!?」
2人は自分の目を疑った。
そこには、ぐったりと詰み上がった3人の上に腰を掛け、まだ幼さが残る引きちぎられた腕を頬張る悪魔がいた。
「あ?」
その悪魔は2人に気づくなり、不快な表情で睨み付けた。
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