水曜日
水曜日。 最終更新日 2023/03/02/13:04
目が覚めた。
昨日の朝とは違い、体のだるさや頭痛などはさっぱりとれ、心地よい朝を迎えることができた。少し暑苦しかった布団を取っ払って、体を伸ばす。
月曜日と違い今日はあまり時間に余裕がないので、少し慌ただしくハンガーにかけてあった制服に袖を通す。
朝食を食べている途中、せめて天気予報だけでも見ようとテレビをつけた。
「速報です。岐阜県真栄市にて通り魔の事件が多発しています。」
……通り魔、か。この辺りにも一応被害が出ているみたいだ。路地裏とか薄暗くなる場所も多いし、私も気を付けたほうがいいかもしれない。
と、テレビの左端に表示される電子時計が、出発時刻を指していることに気付く。こんなことしてる場合じゃない!
急いで天気予報の表示へ視線を向ける。今日は晴れ時々曇り。降水確率は70%。けど、帰りの時間帯は降っていなさそうだ。玄関の傘立てから傘を引っ掴む。
「行ってきます!」
◇◇◇
いつも通り学校へ向かう。天気は晴れ時々曇り。ちょっと暗い青空に灰色の雲が覆いつくそうとする中、対照的に空気はじっとりと重く、肌にまとわりついて不快感を与える。気温は比較的高いが、少し肌寒い部分もある。梅雨って感じがするな……。今日は雨が降る予報なので傘を手にぶら下げておいた。
一応、まだ遅刻する時間帯でもないし、ぼーっと呆けながら歩く。
ふと、視線が夢の姿を捕らえた。日曜日と同じく制服に身を包んでいる。比べて違うのは帽子を被っていないことと、右往左往していないこと。
あの時と同じように何も深いことは考えず、声をかけようと一歩踏み出す。
「おはよ、夢」
今度は声が出た。掠れても強張ってもいない、普通の声。足もちゃんと動く。糊付けなんてされていない。
やっぱり、あの時感じた「あれ」は勘違いだったんだ。そう自分で納得する。
……周りの気温が一段と下がった。気がした。
「夢?」
夢は返事をしない。それどころか、私に気付いていない様子だ。おかしいな、聞こえる距離だったと思うんだけど。
「おはよ!」
「ひゃ!」
今度は近くで、肩を叩きながら声をかける。夢から変な声が聞こえた。
「あ、朱里ちゃん!?」
「そうだよ、朱里だよ。そんなに驚かなくても」
私が不服そうに言葉を返すと、夢はごめんと笑った。その後、二人で歩きながら、特に他愛のない会話を交わし、無事に学校につく。
いつもの日常。いつもの毎日。
また、繰り返された日常が返ってきた。
昼休み。
灰色の重たい雲が残りつつも、一応は晴れている。教室で話すのはちょっと気まずいので、夢とは外で話すことにした。校庭の端っこのほうで、夢と一緒に話す。交わすのは、本当に、そこに意味なんてないただの会話だ。
今日の授業どうだったとか、テストの点数とか、家であったこととか、テレビの話題とか、最近あったハプニングとか。
意味なんて求めてない。求めてるのは夢との時間だけ。
そうこうしているうちに、昼休みの二十分があっという間に終わってしまう。
少し名残惜しく思いながら、私は教室に戻った。
……夢と一緒の帰り道。
「またね」
「……うん、またね」
表情は複雑で、梅雨の空のように曇っていた。