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月曜日

月曜日 最終更新日 2023/02/26/15:58

ピピピピピピピピ――

機械的で甲高い目覚まし時計の音が、寝起きの耳に鋭く刺さる。布団から手だけを伸ばし目覚ましをとめ、時間を確認するべく手元に時計を引き寄せた。表示された数字を確認。

「6:47」

私の場合、七時四十分までに家を出れば余裕で学校に着くのであと一時間弱もある。


朝特有の体の重さと眠気に耐えつつ、せめて身体だけでも起こそうと布団の中で丸まり、数秒後もそもそと起き上がった。

カーテンの隙間から漏れ出た光が、部屋を照らし出す。夢現の間をしばらく遊泳。そろそろ意識がはっきりしてきた。寝ぐせのついた髪の毛を手櫛で梳かしながら、私は階段を下りた。


「おはよう」

「おはよー……」


眠い目をこすりながらリビングに辿り着くと、そこにはお弁当の準備をするお母さんの姿があった。お母さんの横を通り過ぎ、流れるような動作で棚から食パンと冷蔵庫からハムとチーズを取り出す。


食パンにハムとチーズをのせてトースターに入れる。

その間にまた自分の部屋に戻り、壁にかかっていた制服を乱雑に取る。パジャマから制服へと着替え、急ぐ必要なんてないけど洗面台へとダッシュ。鏡の中に映る自分とにらめっこしながら、うねってしまった髪の毛を櫛で直す。納得がいくまで真っ直ぐになったら身支度完了だ。

リビングに再び足を踏み入れる。ちょうどトースターがチン、と軽快な音を鳴らし、食パンが焼き上がったことを知らせたところだった。焼き上がった食パンにはきつね色の焼き色がついており、トースターの扉を開けた瞬間香ばしいにおいがリビングに漂う。朝目が覚めてから十分。くう、とタイミングよくお腹が鳴った。


トーストに齧り付く。とろ、といい感じに溶けたチーズと間に挟まるハムがとても美味しい。最近は割と寝坊気味だったから、朝をこんなに満喫できたのは久しぶりだな。

トーストを食べながらテレビの電源をつける。と、丁度ニュース番組がやっていたようで、今日の天気予報が始まった。今日の降水確率は……30%。今は六月、梅雨の真っ只中。今月は雨ばかり降っているような気がする。たまには晴れの日も来てほしいな、と誰かに願う。傘、はぎりぎり持っていかなくて大丈夫かな。


朝食を食べ終え、しばらくテレビと朝を堪能してから、自分の部屋へ鞄を取りに行く。今日使う教科書とノート、文房具を詰め込み、準備は完了。

時計を見ると、針は七時二十分を指していた。たまには早めに出てみようかな。

鞄を背負い、玄関へ向かう。靴紐が既に結び終わっている状態の靴に足を突っ込む。

最後に鏡の前で歪んだリボンを結びなおし――、


「いってきます!」


いってらっしゃい、という母の言葉を背に、私は学校へ向かった。




◇◇◇




学校に着いた。

時計に視線をやれば、針が七時と五十分を指していることがわかる。教室にはまだ片手で数えられるほどの人数しかおらず、ここが昼間の賑やかな空気に包まれた教室とは見当もつかない。

どさ、と教科書が入ったカバンが鈍い音を立てながら机に乗る。教科書を机の中に仕舞いつつ、無意識のうちに夢の姿を探す。見当たらない。まあ直にくるだろうと軽く過信する。

やがてがやがやと教室が騒がしくなってきた。教室内に団体が訪れたようだ。いつも場を盛り上げる、所謂「陽キャ」という分類に属する人たちがぞろぞろとやってくる。

……夢の机は空席のままだ。どうやらまだ来ていないみたい。遅刻かな? 夢にしては珍しい。

そう思った矢先、すぐに始業のチャイムが校内に鳴り響く。担任がカラカラと音を立てながら教室に足を踏み入れた。




昼休み。

結局夢は来なかった。この時間まで来ると、流石に休みなんだろう。


いつもは夢と一緒に話しているため、夢がいない今日、どこか寂しい昼休みとなった。

ぼー、灰色の雲の隙間から顔を出す太陽を呆けながら見つめる。今にも雨が降り出しそうな曇天だ。見ているとこちらまで気分が重くなってきそうだ。冷たい風が肌を刺す。か細い日の光で日向ぼっこを続け二十分。そういえば、こんなふうに一人で昼休みを過ごしたこと、何気になかったかもしれない。いつも夢が隣にいたような気がする。

中学生に上がってから、一番退屈な昼休みだった。


帰りのホームルームも終わり、私は自分のカバンを掴んでそそくさと教室を出た。普段、夢としか話していない私は、中学校へ入学してから二年になるにも関わらず、クラスに友人がほとんどいない。そんな教室に長居しても気まずいだけであり、そこに留まる理由なんてものはない。

一人という心細さと月曜日の憂鬱な気分に押しつぶされそうになりながら、今にも降ってきそうな雨雲の下をとぼとぼと歩いた。

……ふと、帰路を辿る道中、夢の家が目に付いた。

夢が休んだことなんて知り合ってから一度もないし、風邪でも引いたのか、少し心配だ。一応、様子だけ聞いておこう。

一瞬だけ躊躇した指先で、夢の家のチャイムを押す。ピンポーン……と、少し遅れてチャイムの音が聞こえてきた。しかし、暫く経っても誰も出てこない。誰もいない? 夢のお母さんとか、この時間帯は仕事なのかな?

だったら仕方ないかと思う反面、ざわざわと、どこか胸騒ぎがした。胸騒ぎの理由が分からず、不快感を抱えながらも誰かが出てくるのを待つことにした。

辺りがふっと暗くなり、顔を上げると頬に水滴が当たった。

……雨だ。

ポツリポツリと雨が降り始めた。まだ小雨だけど、あと少しで豪雨になるだろう。傘は持っていないから、急いで帰らないと。そう思った矢先、目の前の玄関が動いた。視線を玄関先に向けると、夢のお母さんがそこにいるのがわかった。


「こんにちは。夢――さんの友達の棚橋朱里です。」


困惑の表情を浮かべる夢のお母さんに慌てて自己紹介をすると、「ああ、棚橋さん家の」と頷いた。


「今日、夢が休みだったので様子を見に来ました」


その時、お母さんの表情が曇った。気がした。


「夢は――」


ザアアアアアア……。

案の定、バケツをひっくり返したような大雨になった。

手のひらには、あの時のアイスの結露のような感覚が残った。

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