48.恋
「午後のお茶会はとても楽しかったみたいですね」
「ふふっ。解る?」
「はい、それはもう」
「あのね、西部の方とは仲良くなれそうなの。それに領地によってこんなにも性格や雰囲気が違うなんて初めて知ったわ」
「あれ、お嬢様知らなかったんですか?」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方を迎える前にテントに戻って来るとリサが笑顔で出迎えてくれた。
少し疲れたのでベッドで身体を休めながら西部のお茶会であったことを話していると、私が知らなかったことを教えてくれた。
「北部の人達は帝国で一番閉鎖的で、余所者に厳しい個人主義が多いんですよ」
「それは知ってるわ。冬の訪れが早いからよね?」
「そうです。それに東西の戦場では沢山の人間が集まってくるのに対し、北部では第一騎士団や第二騎士団の限られた人間しか集まらず、それもあって余計に外部の人間に冷たいです」
「へぇ…」
「逆に西部は帝国一の領地を保有し、首都である【古都シオン】は観光地としても有名。兵士や武器商人、そして観光客などのたくさんの人が行き来しています」
「それであんなにも積極的で明るいのね」
「西部の公爵家や侯爵家は別として、伯爵家や子爵家、男爵家は平民上がりが多いと聞きますし、何より強い者が正義! という感じですね」
「うん、そんな感じだった」
それはもうとても楽しそうに筋肉とは、強さとは!と語られた。
私もどちらかと言えば強い方が好きだけど、筋肉についてはよく解らない。
南部の船乗りを見ても「凄いなぁ」という感想しか出てこないし、そもそもそ令嬢が男性の身体を見て完走を言うなんて破廉恥すぎる!
と思っていたけど、あの雰囲気は楽しかった。また一緒にお話したい。
「北部や西部に比べて一番温厚的で大人しいのが南部です」
「そう? 皆元気いっぱいだし、船乗りがよく喧嘩しているって聞いたことある」
「あくまで北部と西部に比べたら。と言う意味です」
「じゃあ西部の喧嘩を見たら気絶しちゃうかもしれないね」
「そうですよ! 今の西部は落ち着いているとは言え、一応隣国と戦争中ですし帝国内で一番治安が悪い領地としても有名ですから!」
でもあんなにも明るくて元気な人達だし、有名な闘技場も見てみたい。
いつかアレス様と一緒に行けたらいいな。
「あ、それとねリサ。テュールお兄様に春が来るかもしれないの」
「テュール様にですか?」
「今度は絶対に変な人じゃないと思う。お相手が良ければ紹介して貰うつもりなの!」
「テュール様は女運に恵まれていませんからね…。お嬢様がそう言うなら今度こそ上手くいくかと」
テュールお兄様に女運がないことは私達家族のみならず、アティルナ家に所属する人間全てが知っている。
それどころか、仲がいいアティルナ騎士団や南部のお兄様の友達からは「今度は何か月持つか」と賭けの対象にされたり、「地雷発見器」などど揶揄されている。
最初は同情したり嫌悪を抱いていたけど、ここまでくると本当にそんなんじゃないかと思って何も言えなくなっている。
「何であんなに女運がないのかな…」
「あまり大きな声で言えませんが、優しすぎるのが問題かもしれませんね」
「優しすぎるとダメなの?」
「んー…限度はありますかね? テュール様は女性相手に誰でも優しいですから、自分だけの優しさが欲しくなってしまうものです」
「自分だけの優しさ?」
女性に対して優しいのに問題があるの?
でもセティお兄様も女性に優しいし、お父様だって優しい。
だからと言ってグリトニル様やお母様を適当に扱っていない。ずっと一緒にいる。
「好きな人には自分だけを特別に扱って欲しいものです。テュール様はその境目が解らなくお相手は苦しくなるんです」
「そういうものなの…?」
「まぁ元々おかしい女性に引っかかったりしてますのでハッキリとは言えませんが…」
「よく解らない…」
「例えばですが、大公殿下が他の女性に対して、お嬢様のように接していたらどう思いますか?」
「アレス様が?」
「そうです。他のご令嬢をエスコートしたり、微笑んだり、貴重な魔道具を贈ったりしたらどう思いますか?」
リサに言われて想像してみる。
だけど男性が女性をエスコートするのは普通のことだし、微笑むのも別に…。魔道具を贈るのだって何か意味があってのことだろうし…。
いくら想像しても解らず、首を捻っているとベッドで寝ていたマルスが駆け寄って膝に飛び乗った。
モフモフして癒される…。
「んー……。あ! ではそのお相手が…えーっと……。今日の北部伯爵令嬢だったらどうですか?」
「えっ」
いくらテント内とは言え、失礼なことは言えないので小声で耳打ちされる。
北部の令嬢…。あの人をアレス様がエスコートかぁ…。
「……怒らないでね?」
「はい」
「ちょっと嫌、かも。だってアレス様に愛人がいるって嘘つくし、ずっと私のこと睨んでくるし…」
私のことを嫌ってて、私もあんまり好きじゃない人をアレス様が笑顔でエスコートするなんて…。
想像すると、勝ち誇った笑顔を浮かべる伯爵令嬢が簡単に思い浮かび、モヤモヤする。
何か理由があって。とかなら……まぁ………うーーん…。
「それですよ! テュール様のお相手もそう思って、想い続けて耐えられなくなって喧嘩別れをするのです!」
「な、なるほど…。確かにこれはあまりいい気持ちにはならないわ…」
「その気持ちが「嫉妬」と言うものです。大事な感情ですよ」
「この嫌な気持ちが?」
「ふふっ、その気持ちを利用して色々できるのです! それはお嬢様がもう少し大人になってからですね」
「えー…。教えてくれてもいいじゃない」
「お嬢様はまだ子供ですから。それに使いどころが難しいのです」
「そうなんだ…。マルスもそう思う?」
膝の上で大人しく座っていたマルスを見下ろすと、キャン!と一声鳴いてグリグリと身体を寄せ付けてきた。
これが小説でよく読む嫉妬なんだ…。初めて体験したけど、少し胸がムカムカ?モヤモヤ?する。
ここが本の世界であることを思い出して以降、アレス様…いやこの生活、世界から一歩引いて見てしまっている自分がいる。
ふと思い出される「シルフレイヤ」の結末にこれ以上感情移入しないようにと、線を引くのが癖になっている。
だから色々な噂を聞いたり、笑われても嫌な気持ちになるけどそれなりに我慢できる。サルトラ様のときもそうだった。
なのに将来のことを考えて動いたり、皇帝陛下の命令に忠実だったりと自分の行動に矛盾しているけど…。
中途半端な気持ちを抱えながら生活しているから、たまに苦しくなるし悲しくなる。
だけどアレス様と一緒にいる時だけは何も考えず、ただあの雰囲気に癒される。
果たしてこれは「恋」と言えるのだろうか。見たくないもから目を反らして、居心地のいいアレス様に癒されているだけでは?そんなことを思ってしまう。
だから早く誰かにこれが恋だと言ってほしい。違うと否定してほしい…。
「それらも含めてグリトニル様にご相談ね」
「ですね! さぁ、そろそろ夕食のお時間ですよ」
「お兄様達は戻って来てるかな」
「昨日は遅くに戻って来ましたし、今日はもう最終日ですからさすがに戻って来てますよ」
「最終日だからこそ戻って来なさそう」
「それも一理ありますね」




