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02.謝

「準備できたか?」

「リサ、もう大丈夫?」

「はい。本日も完璧なレディです」

「ありがとう!」


私付きの侍女リサに身支度を整えてもらい、騎士団見習いの制服に着替えたテュールお兄様が迎えに来てくれた。

部屋の入口に膝をついて両手を広げて待ってくれるお兄様に駆け寄ると、いとも簡単に抱きかかえ食堂へと足早に向かう。


「(テュールおにいさまとは5歳離れているから今は15歳。たった5歳なのに視線の高さがちがう)」

「おっと、揺れすぎたか?」

「いいえ。いつもと違う視線に感動していたところです」

「兄さんや父さんには負けるけど、こんな視線でよかったらいつでも!」


ニカッと笑い、私を抱える腕に力がこもった。


「おはようございます」

「おはようございます」


一階の食堂にたどり着くとすでに両親と長男のフォルセティお兄様が席についていた。

入口でおろしてくれたテュールお兄様と一緒になって頭をさげると「おはよう」と温かい返事。


「本当だったら一緒に寝てあげるのも、連れて来てあげるのも僕がしたかったんだが…」

「シルのベッドは兄さんには狭すぎますからね」

「大きいベッドに買い替えてもらおう。シルフレイア、昨日はあれからよく眠れたかい?」


いつもの椅子、セティお兄様の横に座らせてもらい少し不安そうな声で私を案じてくれる。

昨晩は本当に取り乱してしまった。

今はあれが私が何者かを教えてくれたきっかけだから怖くない。…本当、本当に怖かったから思い出したくない気持ちもある。


「テュールおにいさまのおかげでぐっすりです」

「可愛い妹のためだ! 気にするな」


私の返答に安心したのか頭をぽんぽんと撫でて、自分の席に座る。

一番にはお父様が座っていて、どこかぎこちない様子で私をチラチラ窺っていた。その横、セティお兄様が座っていてその真正面にはお母様が座っている。

いつもは優しい笑顔を浮かべ、私達を見守っているのに今日は少し機嫌が悪そうに見える。

私が何かしたのだろうか…。

10歳にもなったにも関わらず悪夢で泣いたりしたから情けなくて…?騎士の娘だというのに心が弱いと怒られたらどうしよう。

不安になって俯くとすぐにセティお兄様が右手を握って「大丈夫だよ」と小声で教えてくれる。

無条件にホッと息をついて再びお母さまを見ると、どうやらお父様を睨んでいるようだった。


「シ、シルフレイヤ」

「はい、お父さま」


メイド達食事の準備を整えはじめると、お父様は歯切れ悪く私の名前を呼んで、横目でお母さまを見ながら言葉を続ける。


「せっかくの誕生日なのに婚約者の話をしてすまなかったね」

「え?」

「確かに幼い頃から戦場に出て勝利だけを掴んできたお方だが、全然恐ろしい方ではないから安心してほしい」

「…」

「どこかで悪い噂を聞いたかもしれないが彼がこの国の英雄であることには違いない」

「あなた?」

「いや、ごほん…。そうだな、折角の誕生日に婚約者の話をして本当にすまない」


…何を謝っているんだろう。

ああ、誕生日…私が主役だっていうのに婚約者の話を出したから私が驚いて気絶し、悪夢にうなされたと思っているんだ。

確かに驚いたけど彼が嫌いだとか、怖いだとかで気持ち悪くなったわけじゃない。寧ろ私は悪役であろうと彼を尊敬している。…いや、殺されることを考えると怖いけど。

8歳には既に戦場で戦い続け、その度に勝利を掴んできた勇将。まさに軍神。先々月に15歳になった彼に皇帝は「大公」という最高位の爵位を授けたほど。

王弟であり帝国唯一の大公であり、そして第二騎士団団長。アティルナ家としては尊敬せざるを得ないお方。

そんな方の婚約者になれるのは嬉しかったけど、本のことを思い出すとかなり複雑。

本のように殺されたくないから婚約破棄したい。でもさっき考えた通り断れる状況でもない。


「ですから誕生日に言うのは止めましょうと言ったではないですか」

「少しでも早く伝えたほうがいいと思ったんだ…」

「いえ…。まだ10歳ですが婚約者ができたということはレディとして認めたということですよね? とても嬉しいです、ありがとうございますお父さま」


また考え込んでしまい返答が遅くなってしまった。

お母さまの機嫌が悪くなる前に答えると両親は揃って目を丸くして固まる。


「シルフレイヤ。君は生まれたときから立派なレディだよ」

「ありがとうございます、セティお兄さま。いつかはと思っていましたがこんなに早くレディとして認められたことにおどろいただけです。あのような態度をとってしまい申しわけございません」


再び言葉を発すると両親だけでなく、お兄様達やメイド達も固まってしまった。

何か変なことを言ってしまったのかしら…。


「前から年齢不相応だとは思っていたが…。シル、嫌だったら嫌って言ってんだぞ?」

「ですがお父さま。大公殿下とつりあう家柄は私の他にいません」

「シル! 婚約者と言ってもまだ確定していないって言っただろ! ですよね、父さん!?」

「そうだ。無理強いはしないと陛下も仰ってた。ただ一度はお会いしないといけないが…」


勿論知っている。

口では「お試しに」とか「会うだけ」などと軽いことを言っているが、皇帝陛下は彼と私の結婚を強く望んでいる。

何せお父様が務める第一騎士団と彼が務める第二騎士団は相当仲が悪い。

それじゃなくても前皇帝による他国侵略による余波がまだ残って色々と忙しいのに、帝国内の騎士団が仲が悪いとなると連携も取り辛い。

そういう理由もあって私と彼を結婚させたいと強く願っている。

主であり皇帝陛下による勧めであるし、色々な状況もあって逃げられないけど家族は私の気持ちを尊重してくれる。それがとてつもなく嬉しくてたまらない。

本当は嫌だ。尊敬していると言っても殺されるかもしれないと思う結婚はしたくない。でも断れない。だって私は貴族なんだから。


「いいえ、しょうだくすると皇帝陛下にお伝えしていただいてかまいません」


だから殺されないように頑張らないと!

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