20.学
先日のお祭りは今までと違った意味で面白かった。
家族とじゃない異性…しかも婚約者と二人でなんてついこの間までは考えられなかった。
毎年一緒に行くテュールお兄様には申し訳ないことをしたけど、お土産の異国の大剣をプレゼントしたらすぐに許してくれたので良し。
実践では役に立てないほど装飾がついていたけど、武器マニアなお兄様はとても喜んでくれた。
「お母様、少しお話がありますがお時間大丈夫でしょうか?」
「ええ大丈夫よ。何かしら」
楽しかったお祭りだけど一つだけ失態を犯してしまった。そう、魔導士の指輪のこと。
自分の力のことは解ったけど、魔導士についてよく知らない。
元々アティルナ家は魔力量が少なく、魔法が扱えない人ばかりだったから一般的な「魔法」「魔導士」とは何かぐらいしか勉強しない。
「魔法についてもう少し詳しく勉強したいので先生を雇って頂けますか?」
アレス様が嫌がるのもあり、知識は独学で学んで実践はアレス様に少しばかり教えてもらっていた。
でもそれだけじゃ足りない。もっと知識が必要。
そう思い、まずは優しく私の話を聞いてくれるお母様に相談に向かった。
「丁度よかった。セティもテュールも魔法について学ぶ予定だからシルも一緒に誘うつもりだったの」
「是非お願いします。先生はいつ頃いらっしゃるのですか?」
「少し前から探してるのだけど早々信用できる方が見つからないの」
「前にいらっしゃった魔導士ではダメなのですか?」
「うーん…ほら、怯えていたでしょう?」
「魔力吸収」は魔導士にとって天敵となる魔導士。怯える気持ちも解る。
「だからと言って適当な魔導士を先生にしてその力を悪用されるのも困るから…悩んでいるの。あ、でも魔導士についての書物は購入したから暇ができたら読んでおくといいわ」
「解りました、ありがとうございますお母様」
頬にキスをして急いで書物室へと向かう。
あ、指輪のこと聞くの忘れてた…。まぁまた今度でいいかな。今は魔法書が見たいし勉強したい!
途中、レイにお茶の用意をお願いして書物室の扉を開けると、本の山に囲まれたセティお兄様がいた。
「やあシルフレイヤ。今日も僕の妹は可愛いね」
「セティお兄様も書物室の妖精かと思いました」
「ははっ。男だけど嬉しいよ、ありがとう」
お父様譲りの輝く金髪に、お母様譲りの透き通った青い目。
自慢じゃないけどセティお兄様はアレス様に引けを取らないほど美男子だ。
性格も穏やかかつ冷静。おまけに21歳という若さでお父様を補佐する第一騎士団副団長を務めるほど剣の才能に溢れている。
おまけに「魔力吸収」を持つとなれば最強になれるのでは?
貴族としても気品を持ち合わせ、騎士としての勇敢さも持つセティお兄様は私の自慢のお兄様。
「シルも魔導士の本を読みに来たのかい?」
「はい。実は恥ずかしい話、つい先日魔導士は黒い指輪がないと魔法が使えないという法律があることを知ったのです。だから少しでも知識を入れておきたくて…」
「いい子だね。因みに僕はこの間登録してきたよ。指輪も貰った。ほら」
そう言って見せてくれたのは、右人差し指にはめられた宝石などがついていないただのシルバーリング。
あれ、私が見たのは黒い指輪だったと思うんだけど…。
疑問を感じてセティお兄様の顔を見ると、フッと目を細めて笑い、隣の椅子を引く。
「僕もまだあまり解ってないけどシルよりは知っているから教えてあげる」
「ありがとうございます」
引かれた椅子に駆け寄り座ると、優しく頭を撫でて一冊の本を広げる。
「前皇帝陛下が戦争好きで即位から廃位の間ずっと戦争を続けていたのは歴史で習ったよね?」
「はい」
我がルードラ帝国は建国より戦争と平和を繰り返している。
そのおかげで大陸一の国とはなっているが、そのせいで周辺国からは常に警戒されている。
そして前皇帝陛下が即位してすぐ周辺国を巻き込み戦争が始まった…。まだ小侯爵だったお父様も何度も戦争に参加したらしい。
「たくさんの国を巻き込んで戦争したのに領地を奪われることもなく、しかも領地は荒れていないのは何故か解るかい?」
「……魔導士のおかげだったと習いました」
「そう。お父様達も勿論活躍したけど、それ以上に魔導士達の活躍が凄かったんだよ」
他国に比べて人口が多いのは勿論、同時に魔導士の数も他国に比べて明らかに多い。
前皇帝陛下はその魔導士達をほぼ全員戦場へ送り、一方的な侵略をしたという…。
「前皇帝陛下自身も魔導士だったから魔導士の使い方をよく知っていたしね」
「…」
「でも病気には勝てなかった。現皇帝陛下が即位し、速やかに戦争を終わらせた。その中で魔導士は危険と判断した皇帝陛下は魔導士全員に首輪をつけたんだ」
「魔導士達による暴走を抑えるためですか?」
「これはお父様から聞いた話だけど、前皇帝陛下の信頼を受けた魔導士達はかなり傲慢だったらしいよ」
「自分が強いと思い、その状態で理性を失うと何をするか解りませんよね」
「そう。だから皇帝陛下は首輪をつけ、管理しているんだ」
「それがこの指輪ですか?」
チラリとお兄様の指輪を見ると日の光を浴びてキラリと光った。
宝石はついていないけどシンプルで綺麗な指輪だ。
「うん。そして魔力量によってこれが変わるのは知ってる?」
「え?」
「魔力量によってランクがあり、下から黒い指輪、銀色の指輪、そして紋章がある」
開いていた本のページを何枚かめくると、二つの指輪と紋章の絵が描かれていた。
「基準はまだ僕も解らないけど、一般的に魔獣を倒せるぐらいの魔力量だと黒い指輪。それ以上だと銀の指輪らしい」
「なるほど…」
「そして人害、災害を起こせるほどの魔力量を持つ人間や、性格に問題がある魔導士には身体のどこかに制限がかかる紋章が刻まれる」
「ふんふん」
「戦争で活躍した魔導士達には紋章が刻まれているらしいよ。もし悪用しようとしたら制限がかかり、動きを封じ込めるようになっている」
「でも誰がその紋章を? そんな強い魔導士達なら紋章を刻む相手もかなり強くないと…」
「いるでしょ、一人」
アレス様。
すぐに誰かが解った。
なるほど。確かに彼以上の魔力量を持つ人なんていない。本の中でも彼は帝国最強と謳われていたし、登場していない。
「ああ、あとね。魔力量が少ない…そうだね、この能力に気づく前のシルフレイヤや僕の魔力量だったらこれは必要ないんだ」
「そうなの?」
「魔導士達の反発から数年後、とうとう限界を迎えた魔導士が反乱。それを鎮圧したのが当時8歳のアレス王弟殿下だ」
「…どこでも出てきますね」
「偉大な御方だからね、ああ見えて」
少し棘がある言い方に笑いがこぼれた。
「それを見た皇帝陛下が考えを少し改め、妥協案として一定の魔力量を持たない人間には発行しないことにしたんだよ。ようは今の形に落ち着いたというわけ。あ、勿論魔法を使って危害を加えれば普通に捕まるけどね」
「それで私は持っていなかったんですね」
「僕もまさかこんな年齢になって持つとは思わなかったよ」
「でも私は陛下が直々に発行して下さったとアレス様から聞きました。お兄様と同じ指輪ですか?」
私の言葉に一瞬だけ眉をしかめる。
何か変なことを言ったかな?セティお兄様は普段温厚な分、怒らせるとかなり怖い。
「そうだね、そう聞いているよ」
「セティお兄様?」
「ところで知ってる? アレス大公殿下が作った魔道具でしか魔導士登録できないんだって」
「え、そうなのですか?」
「まぁあの魔力量だし、そういう知識は誰よりも豊富だ。ああ見えて第二騎士団団長と魔導士部隊隊長を兼任しているぐらいだしね」
私の旦那様強すぎませんか…?
第二騎士団団長として国を守り、魔導士としての知識も豊富。しかも魔道具まで作れるなんて…。
「わ、私ももっと勉強しますね!」
「シルフレイヤはそのままでいいと思うけどなぁ」
「それでは横に並べません。アレス様の名誉に傷がついてしまいます」
「傷つけばいいよ」
「お、お兄様までそんなっ…!」
「だって僕の可愛い妹はあと数年したらいなくなっちゃうでしょ? しかもアレに」
「お兄様…」
「シルフレイヤ。せめて成人式が終わっても一年はここにいよう? 君はまだまだ可愛い子供なんだからさ」
来年には成人式を迎え、結婚式を行えばそのままアレス様が治める東部のトラキアへ嫁ぐことになっている。
そしてトラキア城で大公妃として振る舞わないといけない。だけど家族と離れるのはまだ寂しい…。
勿論アレス様は今のところ怖くない。寧ろ紳士的。
今までの無視は何だったのかと思うぐらいには頻繁に会うし、連絡もしている。
この魔法契約書(指輪だけど)があるから本のようにアレス様に殺されることもないし、割と平和に過ごせると思っている。
だからなのか、家族ともっと過ごしたいと欲が出てきた。
寂しい顔をしたセティお兄様が優しく頭を撫でて、胸がキューと苦しくなる…。
本では何歳になって結婚したとは書かれていなかったし、好きに選んでいいのかな?
「私も…私もまだお兄様達と一緒にいたいです。それにせめて二年は家族と暮らしたいとアレス様には伝えております」
もう14歳なのに子供のように甘えた言葉をこぼすと、朗らかな笑顔で抱きしめてくれた。




