理不尽だとは思ったが、まぁ可愛いから許してやろうじゃないか
「この野郎、てめ、死ねっ!」
「えー……。言われの無い中傷……」
「うるせぇっ! てめ、死ね! とりあえず死ね! 奈落に落ちろ!」
「いや、あのさぁ。ちょっと待ってちょっと落ち着こうぜ。俺結構今混乱してるから」
「黙れ! うるさい! 喋るなこの野郎!」
「えー……。まぁとりあえずお前がそんなことを言う理由を教えてくれよ、エリカ」
「っ! 黙れ黙れ黙れ私の名前を呼ぶなあぁぁああぁ気持ち悪ぃぃぃぃぃぃいいいっ!!!」
酷い言い分だなオイッ! とツッコミを入れてから近くの椅子に座るよう薦める。
するとさっきまで俺に暴言を吐いていた奴とは思えないほどに素直に、俺が薦めた席に座った。
なんなんだよこのアマは。
夕暮れの放課後。しかも人がいない。
恋愛シミュレーションゲームとかでは、まぁ定番じゃないのかな。
ロマンティック性溢れる好条件のシチュエーションなのに、と俺は溜め息を吐きたい衝動を抑える。
俺の目の前に女の子らしく両膝を揃えてその上に手の平を添えている幼馴染。
そしてこれまた女の子特有の仕草(って言ったらいいのか分からないけども)の一つ、不必要な上目使いを行使してきやがる幼馴染。
いつもは男勝りのクセに、こういう時だけそれは無いと思うぜ、幼馴染。
とりあえずムカツクんだが、どうしよう。
エリカから視線を外さないように俺も椅子に座り、偉そうに足を組み偉そうに腕を組み偉そうに背を反らし上から見下ろしてやる。
それが感に触ったのか、目の前の顔が怒りに歪んだ。
「で、なんで怒ってるんだ」
「はぁっ!? しらばっくれてるんじゃねぇよ!」
「分からないから聞いてるんだけど」
「分からないから!? 嘘だ! 本当は分かってるのに卑怯だこの野郎! やっぱ死ね!」
「うるせぇ! ツバ飛ばしてんじゃねぇよ! 汚ぇなこのアマ!」
「ツバなんか飛ばしてねぇーし! それお前の幻覚だし! っていうか女性に向かって普通そんなこと言う!? うざいんだけど!」
「言っておくが俺はお前のことを一回も女としてみたことはねぇよ! ケツの青い中学生如きが女性とか言ってんじゃねぇよ! お前はまだ「女の子」止まりだよ!」
「女の子とか言うな! 私だってちゃんと胸あるし女性だ馬鹿!」
「ナマ言ってんじゃねぇよこのアマ! 女性というのはあれだ! ナイスバディで色気ムンムンでお前なんて足元どころ地球外だクズが!」
「うっわ何その妄想! 気持ち悪っ! うざ!」
「俺の描く女性像を気持ち悪いとか言うな!」
両者共椅子に座りながらギャーギャー騒ぐ中、俺は本題から逸れていることに気がつき、一つ咳払いをした。
エリカは俺の不自然な咳払いに、空気を読んで黙る。
流石俺の幼馴染。よくは分かってるじゃねぇか、と心の中で呟いて、再度口を開いた。
「で、なんで俺に暴言なんか吐いたんだよ」
「暴言を吐かれる理由は知ってんでしょ」
「だ、か、ら、それが分からないから聞いてるんだよ」
「嘘だ!」
「ストップ!」
「黙れ!」
「シャラップ!」
「死ね!」
「お前がし……いや、死なんでいいからとりあえずシャラァァーップ!」
無駄に続きそうな問答は早々に斬り捨てる。(はずだったんだけども、おかしいな)
夕暮れに染まる教室であげられる二人の声は、廊下まで響いているはずだ。
大声を聞きつけられて先生やら生徒やらが来られたら面倒だ。
説明するのもだけど、早くコイツをどうにかしないといけない。
俺の目の前にいるエリカは、すぐに問題を解決してやらないと知恵熱やら重圧やら思い込みで自爆をかます面倒くさい奴だ。
多分今コイツは俺に関してのなんらかの勘違いを起こしている可能性がとても高い。
その勘違いを早々に拭ってやらないと、コイツマジで暴走しやがるからあぁもうメンドクセェなこのアマ!
涙目になりながら俺を睨んでくるエリカを見返し、荒れる心情とは裏腹にできるだけ優しい口調で語りかけてやる。
「俺にはまったく心当たりが無いんだ。お前はよっぽどのことが無い限り人に暴言を吐かない人間だと、俺はよぉーく知ってる。だから話せ。何があったんだ」
「う、ぅ? わ、私のことをよぉーく知ってんの?」
「俺はお前の幼馴染だろうが。何年一緒にいると思ってるんだよ」
「何年? ……12年?」
「当たり。俺とお前の年齢そのままだな。もうこれ幼馴染というより家族でいいだろ」
「家族? 幼馴染じゃなくて家族?」
「お前はどっちが良い」
「わ、私は……家族、かな……」
「ん、じゃあ家族だな」
とりあえずエリカを落ち着かせるために意味の無い会話も挟んでみる。
幼馴染から家族に格上げしてやったおかげで、エリカはさっきよりも落ち着いたようだ。
教室の窓に視線を置き、「家族……家族かぁ……」と呟く姿は、いつものエリカと違って気色が悪いが、まぁ結果オーライでいいな。
しばらく目の前の物体を観察していると窓から俺に視線を戻し、俺のことをじぃっと見た後、何回か頷いて笑顔をみせた。
「うん。家族だったらいいよね。……死ねとか言ってごめんね」
「別にいいけど。もう名前呼んでもいいのかよ」
「え? ……あ、うん。ごめん」
「別にいいって」
俺が言葉を重ねずとも自分の中で解決したのか、エリカはいつも通りのエリカに戻った。
そのことに安堵の息を洩らしながらも、俺はエリカが勘違いしていたことが気になった。
毎度毎度エリカの勘違いのことを聞くが、全部といっていいほどに勘違いだらけで、どうやったらその結論に至る! と冷静沈着で有名(自称)な俺が声を大にして叫んでしまうぐらいだった。
毎回相談にされる俺にしてみれば、たまらないものだが……。
あ、いやでも、その勘違いっぷりが楽しいから別にいいか。
問題も解決したし、早速恒例の笑い話タイムを始めるか、と身を乗り出す。
「今回はどんな勘違いだったんだ?」
「きょ、今日のは勘違いじゃない! 友達がおかしなことを言ったから少し動揺しただけで……」
「動揺して俺に突っかかってきたのかよ」
「だからごめんって言ってるだろーが!」
「後十回ぐらい謝って欲しいから、もっと謝れ謝れ」
「陰湿! めんどくさい男! 陰険眼鏡! 馬鹿!」
「はっはっは。眼鏡に罪は無い」
エリカが怒りながら掴みかかってこようとしているのを、華麗に躱して宥める。
乱れた眼鏡の位置を直し、ニヤニヤしているとエリカは俺を睨みつけながらまくし立てた。
「私の友達が、男女の幼馴染関係って、恋人に転じやすいよねって言って、私がカズヒトと恋人になるだなんて考えられないって言ったら、もしかしたらカズヒトがあんたのことを気にしてるかもしれないよって、それで周りの友達が私とカズヒトをくっつかせようとして、私カズヒトと恋人なんて嫌だからカズヒトにあたっちゃって…………うぅ…………ごめん…………」
「そういうことだったのかー」
次第に勢いを失っていくエリカに棒読みのセリフを返してやると「マジメに聞いてよ!」と言われた。
いや、マジメに聞いてやりたかったが、途中の俺と恋人が嫌、って、地味に傷ついたんだからな。それの些細なお返しだ。
しょぼくれてうじうじとしているエリカを見る。
エリカは、周りの奴らに比べればかわいい部類に入る。
確かにこんな彼女を持ったら自慢だろうなとか、エリカみたいに知った人物だったら一緒にいても楽しいだろうなとか、思ったことも無いとは言えないが、もしエリカが恋人になったらと考えようとしても、……考えられなかった。
おかしいな。俺思春期真っ盛りのはずなんだけどなぁ。
何故だかエリカを異性と見るのが難しかった。
多分エリカも同じ気持ちなんだろうな、と思うと納得ができる。
「でも、カズヒトが私のことを家族って言ったから……。家族が恋人になることなんて、無いよね」
「あるわけないっての。ていうか家族ってのは恋人よりも上級だし。恋人ぐらいの関係と一緒にすんな」
「流石カズヒト! 言うね!」
「はっはっは。カズヒトお兄ちゃんとでも呼べ」
「うん。カズヒトお兄ちゃん!」
「うえぇええええぇぇ思ってたよりも酷い破壊力だな! 気持ち悪い! やっぱり言うな!」
「はぁ!? こんな可愛い女の子になんてこと言ってんの!? 馬鹿じゃない!?」
「女の子と認めたな! このアマ!」
「あ! 違うし私女性だし!」
「ふっはっは! 残念だったな。俺の女性像では男言葉を使わんしゲームもしない!」
「差別かよ! 女性だって男言葉ぐらい使うしゲームぐらいする!」
「俺はそんな女を女とは認めない!」
「陰険で眼鏡でめんどくさい男なんて男と認めない!」
「黙れ!」
「カズヒトが黙れ!」
「勘違い女が黙れ!」
「だからごめんって言ってるだろ!」
「そうだったな! まぁお前可愛いから許してやるよ!」
「はぁぁぁっ!? 可愛いって、バッカじゃないの!?」
「うわーエリカちゃん顔赤くなってるぅー。かーわーいーいー」
「黙れ黙れ黙れ陰険眼鏡ぇぇー!!」
教室でギャーギャー騒いでいると、見回りに来ていた先生に見つかり、軽く怒られた後二人して帰路についた。
恋愛にするつもりが、友達以上恋人未満の関係に。
カズヒト君が眼鏡なのはただの自分の趣味。
眼鏡が似合う人って、いいよね。
自分でこの小説を読み直して思ったこと。
楽しいことが繰り返されるというのは、とても羨ましいな。




