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稲荷さま滞在奇譚  作者: 墨染
はじまり
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「神議―①」


 旧暦十月・神在月。

 八百万の神々が出雲の地へ集い神議(かむはかり)と称して人生諸般や縁結びを行っているというのは、よく聞く逸話である。

 しかし、それだけではない。神々の母とされる伊邪那美命(イザナミノミコト)が、出雲(ここ)にて崩御された。その孝行として、全国各地・津々浦々の神々が一度に出雲へと足を運ぶという一説もあるのだ。

 諸説あり、とはよく言ったもの。はてさて、その真実や如何に。


 〇


 舞台は平成末期の神在月。十月十日の晩――出雲大社から見て、西に一キロほど向かった先に稲佐の浜がある。海からやってくる神々は、神職や氏子達による神事にて迎えられ、翌日から一週間『十九社(じゅうくしゃ)』という神籬(ひもろぎ)にて宿泊する。

 「さあさ、お立ち合い。お手を拝借。皆の者、出逢えや出逢え!」

 宿所に入ってしまえばこちらのものだと言わんばかりに、神々サミット開催の合図と言えよう。

 存外、神というものは自由であった。日本古来の書物をはらりと覗けば、それらの生態は想像に難くない。神々は祭事を好み、飲めや歌えや、踊れや笑えやのどんちゃん騒ぎをする事だって大好きだ。その中で、人間一人一人の行く末についても同時進行で熟考し、談義する。

 「縁結びだってやっちゃうぞ」と、茶目っ気たっぷりに人間同士を繋ぐのだ。

 それらを行うに当たり、先ずは神とて親戚同士で挨拶をして回らねばならない。……だというのに、『十九社』の宿泊数は八百万も居たものだから骨が折れる。自分の家族を探すことさえ一苦労だ。しかし神々にも血縁というものがある以上、避けては通れない作業であった。


 喧騒に紛れて姿勢よく正座をし、食を進めるは宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)。京都・伏見稲荷大社を総本社とする主祭神である。総じて稲荷大神――以降、稲荷と記す。

 淡い金色の長髪を、耳下で大きな宝玉の髪飾りの間に通して二つに結んでいる。中性的な風貌で、狐を神使としているだけあってその美しさは神々の間でも評判であった。

 「此処に居たのか、探したぞ」

 「おや、兄様(あにさま)

 長身で体格の良い、爽やかな風貌の青年が稲荷を見下ろしていた。名は大年神(オオトシノカミ)。――以降、大年と記す。

 外にはねた無造作で長く多い髪を、紅白の綱紐で一括りにまとめている。彼の顔左半分には、額から頬にかけての縦一筋と、目下に横一筋の十字傷があった。

 大年は、正月になると初日の出とともに現れ、松飾りのある家に顔を出しに来る。悠々自適という言葉がよく似合うこの男神は一見、稲荷とは接点がなさそうにも見えるが、彼は正真正銘、血の繋がった兄なのである。

 稲荷の食している膳と向き合う形で置かれた膳前に、大年は腰を下ろした。人間が用意した食事を箸で丁寧に扱いながら口へ運ぶ稲荷を見て優しく笑うと、抱えていた瓢箪に入った酒を手元の盃へと注ぎ始める。

 「こうも親戚が多いと、家族を探すだけで一日が過ぎてしまうな」

 「ふふ。兄様も冗談がお上手になられましたね」

 「我々も時代と共にアップデヱトなるものをせにゃならんと、俺は思うのだ」

 「……ああ、だから若者の姿をされているのですか」

 「信仰を得るためのプレゼン活動というものだ」

 慣れない横文字を使いながら、「どうだ、格好良いだろう」と胸を張って言い放つ大年に、いつまでも愛らしい兄だなあと稲荷は思うのだった。

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