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36.マリーの陰謀

 一方その頃、王太子妃マリーは祖国サックウィル公国に手紙を出していた。


 公国形式の暗号文を作成したので、検閲は容易に通過した。


 レミントンがどこまでの情報を得ているのかは不明だ。今回のことでシェンブロ家から万能薬草が接収されてしまう前に、奇襲で攻め込んで強奪しなければならない。


 シェンブロ家はレミントンの中にあり、国境を接していない。なので辺境伯に気づかれることがないよう、少数精鋭の部隊で警備の手薄な山側から攻め入る。公爵領ぐらいならば、これぐらいの部隊でも一網打尽に出来る。


 問題はレミントン国の出方だ。彼らが早く情報を仕入れ守りに入れば、サックウィル側の計画は失敗だ。一番避けなければならないのは、レミントン軍とサックウィル軍が同じだけの兵力を携え、同時に公爵領に着いてしまうことだ。そうなれば衝突は避けられなくなる。国の規模から言って、衝突してしまえば公国は負け戦の道を進むことになる。本当に、スピード勝負の賭けなのだった。


(危ないところだったわ……ランドール一強になるか、全ての国に万能薬草が行き渡るようになってしまえば、全てが安定してしまうもの)


 サックウィル公国のような小国が生き延びるには、他国が常に衝突してくれている状態が望ましい。コウモリのように各国にいい顔をして誰の味方でもあると演じることで、国に利を流し込むことが出来る。


 どの国もバランスが取れてしまえば、公国はジリ貧に陥るであろう。独自の戦略も産業も持たない小国は、ただただ貧しい国家運営を余儀なくされる。


 マリーがヒューゴの元に輿入れ出来たのも、コウモリ外交の賜物なのであった。


(それに万能薬草があれば、公国も安泰だわ。苗木も欲しいところね……)


 しかし苗木は育てるのに何年もかかる。やはりまずは、樹皮の方を手に入れるべきだろう。


(あとはヒューゴの気をそらして……衝突をなるべく気づかせないようにしないと)


 マリーはヒューゴの部屋へ向かうことにする。と、廊下で万能薬草の苗木を抱えたセドリック王に出くわした。マリーはどきりとして視線を外したが、セドリックは彼女を見下ろし、すれ違いざまにぽつりと呟く。


「お前が自由にしていられるのも、今の内だぞ」


 マリーは青ざめた。まさか、手紙の内容でも解読されてしまったのだろうか。一見すると近況報告にしか見えない暗号文の手紙だが──


 マリーはヒューゴの部屋に入った。ヒューゴはデスクに座ったまま寝ている。マリーは近づくと、なるべく驚かさないように彼の耳元で囁いた。


「起きて下さい。そんな格好で寝ていたら、風邪を引くわよ」




 セドリックは素知らぬ顔で、会議室へと歩いて行く。


 何も伝えられていない使用人たちが、苗木と共に現れた王の登場を受け怪訝な顔をした。


「申し訳ありませんが、陛下。ただ今、会議室は使用中ですので……」

「緊急に話したいことがある。通せ」


 使用人たちは王の持つ苗木に困惑しながらも、王の命令は無視出来ないので扉を開けた。


 会議室では、エディとレナルド、それからサイラスが膝を突き合わせて話し合っている。彼らは父親の姿を認めるなり、やはり使用人と同じく怪訝な顔になった。


「父上?あの、勝手に温室から万能薬草を持って来られては困ります」


 エディの言葉を無視し、王はポケットから万能薬草の粉を取り出した。


「大丈夫だ、トリスに許可を得て持って来て貰った。お前が出て来るのを待っていたんだ」


 会議室に緊張が走る。セドリックは使用人に指示し、水を持って来させた。


「いいか、エディ。お前はもう少し万能薬草を飲まなければならない」

「?」

「この万能薬草の苗が、私にそう言ったのだ」

「!?」


 息子たちは、一気に顔面蒼白になった。


「どういうことだ?父上は熱病のせいで、せん妄の症状が出たのではないか?」

「いや、きっと万能薬草の副作用だ。幻覚の症状が出ることがあるらしいとは聞いているが──」


 そう言いかけたエディに、セドリックは告げる。


「これは幻覚などではない。騙されたと思って、お前も粉をもう少し飲んでみろ。体重に対し、服用量が少なかったようだ。これをもう少し飲めば、万能薬草の声が聞けるぞ」


 エディは怪訝な顔になったが、ふとリリーの言葉を思い出した。


「そういえば……リリーもそんなことを」

「一度飲んでみれば分かる。こいつは意外と重要なことを知っている。何でもこの木は、蕾のつく時から花がしおれるまで、万能薬草の粉末を一定量服用した人間と話すことが出来るらしい」


 レナルドとサイラスは互いに首を横に振ったが、エディはあの時のリリーの言葉を信じることにした。


「俺にも万能薬草の声が聞けるようになるのか?」

「多分な」


 エディは粉末を飲んだ。一日三回までなら、変調を来すことはないはずだ。


「聞こえないようなら、また夜に飲め」

「……ちょっと静かに」


 エディが耳を澄ますと、耳鳴りの後に謎の声が降って来る。


『リリーはシェンブロ公爵居城の幽閉塔に監禁されているぞ!アレクシスとか言う奴、謝ったら結婚してあげるとか超キメーことリリーに言ってた!』


 それを聞くや、エディが怒髪天を衝く。


「ふっ……ふざけんなよアレクシス!!」

「おっ。聞こえたようだな」


 セドリックが笑い、サイラスとレナルドはより眉間の皺を深めた。

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i629006
 第三回アース・スターノベル審査員賞受賞作品
― 新着の感想 ―
[良い点] 公国! 銀英のフェザーンを連想してしまいますね! だがそれも国王にはバレてる!? 色々と楽しみですね! そして植物ネットワークすごい!
[良い点] 植物ネット、開通(笑) マリーは後ろ暗いぶん、カマかけられたら動揺しますね〜
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