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公爵家の謀略

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30.マリーの策略

 エディとレナルドの話し合いに、サイラスが入って来た。


「何だ、お前もいたのかレナルド」

「……早く用件を言え、筋肉」

「万能薬草の効能はスゲーな。俺も軍に是非補給して欲しいと思って、来たわけなんだよ。万能薬草の発見は軍人の間でも、かなり衝撃的な事件として受け止められている。これがあれば、敵地へ行くにも怖くない。リリーやエディは勿論知っているだろうけど、その地域にはその地域の熱病がある。軍人が敵地で何度も似たような熱病にかかっちまうのはそのためだ。万能薬草があれば、その心配もしなくていい」


 確かにこの万能薬草は、リリーやエディの暗黒大陸の熱病をも治したのだ。ランドール土着の熱病とカラバル国特有の熱病双方に効いたという情報は、繰り返し敵地へ赴く軍人には心強かろう。


「万能薬草がお守り代わりになれば、戦術もかなり尖ったものに変えられる。ランドール軍は、どの国軍よりも強い軍に変貌するかもしれんぞ!」


 兄たちの話を聞くにつれ、エディの目の色が変わって行く。その様子をつぶさに眺めながら、リリーはどきどきと胸を鳴らした。


(エディと私の持ち帰った薬草が──世界を変えて行くんだ)


 王位争いはリリーたちの万能薬草の獲得という事件によっていつしか霞んだ。それと入れ替わるようにして、国としてどう万能薬草で利益を上げるかという段階の話題に移り変わったのだ。


 しかしリリーは、万能薬草にもうひとつの光明を見出した。


 それは──


(万能薬草の実権を握れば、もしかしたら陛下の考えも曲げられるかもしれないわね)


 ヤルミルからの信頼を得ている者は、ランドール周辺では現状リリーしかいない。リリーだけが万能薬草を譲ってもらうことが出来るのだ。


 彼女と同じことを考えていたらしく、エディが言う。


「いつしか万能薬草がランドール経済の要となれば、王とてそれを管理するリリーを無視出来なくなる」

「そうね。万能薬草の権利を掌握すれば、王にとって私の存在は〝格〟などというものに左右されなくなるかもしれないわ」


 しぼんでいたリリーの心に、メラメラと炎が立ち上った。


「では、まず万能薬草の管理局を衛生局内に作らなければなりませんね」


 リリーの言葉に、エディとその兄弟は頷いた。


「その管理はリリーに任せるということでいいか?」


 いきなりエディがそう言ったのでリリーは兄弟たちの手前ひやりとしたが、彼らは異論なさそうだった。


 レナルドが言う。


「そうだな。実は、王やあの王太子連中に任せるのは不安というのが正直なところだったんだ。リリーはこの国でカラバルの首長に話を通せる唯一の人間だ。更に、エディの言うことならば確実に聞くことが分かって来た。エディに監視してもらえれば、我が国を裏切ることはないだろう」


 サイラスが言う。


「俺は、暗黒大陸で王とエディのために命をかけたリリーから、万能薬草を誰かが攫うのは違うと考えている。リリーが適任だ」


 リリーは自分が信頼されていたことを意外に思う。


 それにサイラスもレナルドも、どうやら国が栄えるために万能薬草を使いたいという気持ちは確実にありそうだ。たとえ心の中では何を思っていようとも、リリーがいなければ万能薬草が手に入らないであろうことは理解してくれている。


 リリーは、彼らを信用しようと思った。


「かしこまりました。トリス大臣とも相談するべきですね、エディ」

「信頼出来る相手から根回しを開始するか。分からず屋の王と王太子は後回しでいい」


 兄弟たちが吹き出して、場の空気が和んだ。


「話が進んだらこっちにも情報を回してくれ」

「どうせ次の王はエディになるだろう。好きにやればいい」


 話し合いはそれで終了した。レナルドとサイラスが意気揚々と客間を後にする。


 リリーはようやくエディと向かい合うと、抱き合って喜びを爆発させた。


「そうよねそうよね!私ったら、なぜ今まで万能薬草の力を過小評価してたのかしら!?」

「あいつらもたまにはいいことを言う。ま……性格はアレな奴らだけど、仕事熱心ではあるからな。業務拡大のために万能薬草が使えるとなったら、弟に頭を下げるくらいは何とも思っていないらしい」

「早速各大臣に根回しを」

「トリス大臣にも協力してもらおう」


 二人がこれからの計画を話し合っているのを眺め、使用人がそっと部屋を出て行く。


 彼が向かった先は、王太子妃マリーの部屋──


「失礼いたします」


 マリーはほくそ笑むと使用人に近づいて行き、その手に金貨を一枚握らせる。


「で?万能薬について何か分かったことは……?」


 使用人は答えた。


「万能薬草はカラバル国に群生しています。そこの長が管理しているそうです。リリーたちは長の信頼を得、その苗も持ち帰っていました。苗は温室に。木の表皮は現在王宮の病棟で管理されていますが、管理は相当にずさんです。そのため、レナルドとサイラスがそれを問題視し、エディにいましがた注進したようです。近々万能薬草の管理部門が作られます。管理者には現在、リリーの名が挙がっています」

「あら、そうなの。いいことを聞いたわ、また何かあったら教えてね」


 使用人は一直線に出て行った。マリーはサックウィル公国へ向けた書きかけの手紙にこう付け加える。


〝追伸:


お任せください。薬師聖女リリーを追い出し、ヒューゴの力を利用して、私は必ずや万能薬草を祖国にもたらします〟

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i629006
 第三回アース・スターノベル審査員賞受賞作品
― 新着の感想 ―
[良い点] あらー、マリーったら。 なんて分かりやすい! これはわくわくですね!
[良い点] マリーちゃんは間諜さんなのですね。 変に知恵が回りそうだから困ったもんです…… (私の脳内では若い頃の夏木マリで画像化されていますw)
[一言] あわわわわ……!
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