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21.王との対面

 リリーとエディは王座の間から少し離れた王宮内医院まで歩いて行く。その一室に、エディの父セドリック王は横たわっていた。


 今日から看護係の一員となるリリーだが、王には彼女の情報は特に伝えられていない。王はベッドの上で熱病に喘ぎ、しきりにうわごとを繰り返していた。


 白いエプロンと看護帽を身につけ王宮内の看護係の一員と化したリリーは、看護係に交じって王を見つめる。


 リリーは今日は前に出ず、エディに投薬を任せることにしていた。


 エディが医師に尋ねる。


「また熱が上がって来たのか?」

「はい。おとといまでは小康状態が続いていたのですが……」

「よくぞここまで陛下を持たせておいてくれた。感謝する」


 リリーはエディの王子らしい振る舞いを、少し熱い眼差しで追った。エディは近くにいる看護係から万能薬草の粉末を受け取ると、早速王に飲ませることにした。


 彼は肩を抱いて起き上がらせ、


「父上、父上」


と声をかける。その優しい囁きが、セドリックの意識をこの世に引き寄せた。


「おお、エディ……」

「父上、暗黒大陸から持ち帰った万能薬草の粉末です。私も一時熱病に犯されましたが、これを飲んで生還しました。ぜひ、飲んでみてください」

「そうか……」


 セドリック王はまだ夢うつつの中にいるような、焦点の合わない視線で薬を捉える。


 それから折った紙の上の粉薬を開けると、さらさらと口の中へ流し込んだ。


 王は慣れない味のせいで少しむせたようだが、水を含むと不思議と安堵したような表情になった。


「む……甘いな」


 リリーは、患者が自分と同じ感想を述べたことを少し不思議に思う。


 エディは父の声を久しぶりに聞いたらしく、目をごしごしとこすっている。リリーは健気なエディを今すぐにでも抱き締めたかったが、周囲の目がある手前立ち尽くすことしか出来ない。


 少し経つと、セドリック王は安らかな寝息を立てて昏々と眠り始めた。


 それを見て、周囲の看護係が小さく湧く。


「陛下、ようやくお眠りになったわね。三日三晩うなされてましたのに」


 かなり長いこと、ろくに眠れぬまま熱にうなされていたのだろう。すぐに眠ってしまった。リリーはこれも、想定通りだと思う。


 エディは父の寝顔を見届けると、医師と看護係の方へと振り返った。


「これからのことだが──」


 全員が身構える。


「実は私が暗黒大陸で同じような熱病にかかった時、そこの薬師リリーに万能薬草の薬の量を調整してもらいながら服薬をした。その投薬量と時系列の全てがシスター・リリーの手によって記録されている。リリー、そのノートをここへ」


 リリーは急に自分に話が降って来て驚いた。が、周囲の視線が明らかに変わったのを肌で感じ、リリーは内心エディに感謝する。


「はい、殿下」


 リリーはテーブルの上にノートを広げた。勉強熱心な看護係たちは、リリーの横からノートを覗き込む。


「基本的には、食前に飲ませます。一日三回です。今のところ、食事による複合的な副作用は確認されていません。薬品の効き目を悪くしがちな牛乳や柑橘類を取っても、効能に変化はなさそうでした。薬の副作用としては、先程の陛下のように催眠効果、酩酊などの症状が出ることがあります。私が服用した時は、夢見が悪くなったり、幻覚が見えることもありました」


 看護係たちはうんうんと頷き合う。実際にリリーが服用したと言う事実が、より彼女たちを安心させたらしい。


「殿下とシスターリリーは、どれくらいの期間服用されたのですか?」

「一週間ほどです」

「予後はいかがです?」

「この通り、ぴんぴんしております」


 話し合う内、リリーは段々周囲の目が変わって行くのを感じていた。


「シスター・リリーも今日からこちらで看護に当たるのね?」

「はい。今日から十日間ご一緒させていただく予定です。よろしくお願いいたします」


 リリーはぺこりと頭を下げた。看護係たちは頷きながら、ふとエディにこう尋ねる。


「エディ様も、こちらでお過ごしになりますか?」

「ああ。久しぶりに、城内の客間で寝るよ」

「シスター・リリーはどちらに?」

「リリーも客間だ」


 リリーは一瞬、看護係たちとの待遇の差に「嫉妬されるのでは」とひやりとしたが、彼女たちはむしろそんなことではなく、別のことが気になっているようだった。


「ということは殿下。シスター・リリーは殿下にとってただの看護係ではなく──特別な女性、ということですね?」


 看護係たちはそう尋ねるなり、キャッキャとはしゃぎ合っている。リリーは急に何を言い出すのだろうと思い、真っ赤になって否定しようとしたが、


「うん?バレた?」


 エディが軽いノリで認めたものだから、二の句が継げなくなる。すると雪崩をうつように看護係たちは口々にこう言った。


「やはりそうでしたのね!エディ様が以前とだいぶお変わりになられたので、そうじゃないかと思っていたんです」

「目線を合わせる時なんか、完ッ全に恋人同士でしたものね!」

「久しぶりにいいニュースが聞けましたわ。最近は王室もきな臭い話ばかりが取り沙汰されていましたから──」

「妃殿下になるお方なのだから、リリー様とお呼びした方がいいわね。十日もこき使って大丈夫でしょうか……?」


 リリーが唖然としていると、くすくす笑いながらエディがリリーの肩を抱いた。


「心配するな。彼女たちとは昔ながらの間柄で、信頼関係が出来ている。それに、看護係は薬草園に所属している。全員、私の部下ということになる」


 リリーは目を瞬かせながら、ほっと息をついた。


「リリー、夜は晩餐会がある。忙しいと思うが、迎えに来るまでここで看護を頑張ってくれ。私は別の用事があるから、少しここを離れる」

「はい」


 エディが別れ際、軽くリリーの頬にキスを落として行く。


 それを見るなり、看護係の面々は歓声を上げた。

 

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