16.プロポーズ
「ランドールに帰ったら──俺と結婚して欲しい」
リリーはエディの突然のプロポーズに固まった後、
「ええええっ!?」
と、耳まで真っ赤になって頓狂な声を上げた。エディは片膝をついたままの体勢で、リリーにくらいつく。
「俺は君より強くて美しい女に出会ったことがない。ずっと言えなかったけど、これが本心だ。その様子だとリリーは全く気づいてないんだろうけど、君は君が思うより、見た目も内面も凄く可愛い。そのせいか、見ていて危なっかしくて、変に隙があって……いつもハラハラさせられる。だからずっと君のそばにいて、君を見守っていたいんだ」
リリーは目を白黒させた。エディの、哀願するように見上げて来る表情が心に刺さり過ぎて、脳がどうにかなってしまいそうだ。
リリーは心を落ち着かせるべく深呼吸した。
「ふーっ。分かりました、話をまとめましょう」
そして話を整理する。
「つまりエディは私を薬草園へ連れて行き、け、結婚したいと……」
「そうだ。出来ればすぐにでも一緒に暮らしたい。俺はランドールに邸宅を持っている。部屋は余っているから、君はそこに住むといい。住まいを探す手間が省けるだろ」
「でもそれは……お父様のご病気を治してからでないといけないわね」
「そこは上手に流れを作らなければならない。まずは、君を客人としてうちに迎え入れる。それから万能薬草で父の病を治す。最後に、この薬が出来たのは君の手柄だということを強調する。そうすれば、結婚への道が整うという寸法だ」
「なるほど……っていうか、エディ」
「何?リリー」
「その……私まだ、何の返事もしてないんだけど」
エディは真っ赤になって固まった。リリーはくすくすと笑う。
「エディったら、凄く先走ってるもんだから驚いちゃったわ。そんなに私と結婚したいの?」
エディはむすっとしてから、思い出したように破顔した。
「したい。すごくしたい」
静けさが戻って来る。
海の波の音が絶えず耳をくすぐる。夜空は星が瞬いているが、沈黙している。
リリーはエディの手を引き上げ、彼を正面に立たせた。
「私、突然のことでまだ覚悟が出来ていないけど──」
エディは固唾を飲んで頷く。
「〝結婚を前提に〟お付き合いをする、っていうことでいいのかしら」
エディはぽかんとしたあと、こくりと頷いた。
「……いいの?リリー」
「ええ。でも、まずは新しい環境に慣れてから正式に受け入れたいの。だって、私たちはまだお互いのことを知らな過ぎる──そうでしょ?」
リリーの発言に、エディはハッと我に返った。
「そうだよな……」
「もう少しエディのことが知りたい。どこに住んでいて、ご兄弟が何人いて──とか、業務のこととか。もちろん、エディにも私のことを知ってもらいたいの。結婚はそれから考えればいい、よね?」
「ごめん!感情に流されて先走り過ぎた……!」
「ふふっ。でもそんなふうに余裕がなくてせっかちなエディも……可愛くて好き……かな」
リリーはそう言って微笑んだ。エディの顔色がぱっと晴れやかになったのが、月明かりの中でも分かる。
二人は見つめ合うと、予期していたかのように顔を寄せ合った。
互いの柔らかな唇が触れ合う。
それからエディの遠慮がちな指先が、リリーの耳の真珠に触れた。
どくどくと、リリーの中に初めての経験と感情が注がれる。
(これが……恋)
唇を離すと、今度はぎゅっと抱きすくめられた。リリーはじっとして、体全体でエディを知ろうとする。
その時間はリリーの中にあった、過去の辛い思いや父母へのわだかまりを溶かして行く。
(エディの腕の中……なんて温かいんだろう。とっても幸せ……)
それから二人は少し火照った顔を夜風に当て、体を寄せ合って星空を眺めた。