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ネガティブ同士が出会ったら。

作者: MOZUKU

僕は日影ひかげ 章介しょうすけ

28歳で童貞で、彼女いない歴=年齢のしょうのない男だが、友達の紹介で出会系アプリに登録することに相成った。

自己紹介は何とか書いて、写真も何回も撮影し直して一番良いモノを載せた。あとはタイプの女性の好みを書くだけか・・・なんだか気恥ずかしいな。とにかく気の合う人が良いのだけど・・・そうだ、こう書いてみよう。

"ネガティブな人"

その時はこれでいいと思ったのだけど、あとから友達に見せたら呆れられた。こんなこと書いて誰も見向きもしてくれないと言われた。

僕もそうだと思い、書き直そうと思ったけど、そんな折にメッセージが届いた。

"こんにちは。私、とてもネガティブです"

それが浦部うらべ 美紀みきさんとのやり取りの始まりだった。



浦部さんと二週間ほどやりとりをして、偶然にも意外と住んでいるところが近所ということが分かり、二人共が知っている喫茶店で朝に待ち合わせて会うことになった。

顔写真のところは猫のキャラクターの画像にしており、容姿など、まるで分からなかった。話をしていると女性らしさは感じられたが、これでからかわれていただけならショックは大きい。

彼女は目印として花柄のワンピースを着ているそうだが、喫茶店に着いて辺りを見渡しても、花柄ワンピースを着た女性は見当たらなかった。まぁ、待ち合わせの時間30分前なので、来ていなくても当然なのだが。

とりあえずテーブル席に座って浦部さんが来るのを待つことにした。

ドキドキする、女の子と待ち合わせするなんて僕史上初めての経験だ。落ち着け、落ち着け僕。美容院で髪を切ってもらったし、服だってオシャレな友達に見立ててもらったから大丈夫だ。

「あの、すいません。日影 章介さんですか?」

きゅ、急に呼びかけられて心臓が飛び出るかと思った。

見るとそこには、目が隠れるぐらい黒い髪を伸ばしたロングヘアーの花柄ワンピースの女の人が立っていた。

「う、浦部 美紀さんですか?」

「は、はい。」

僕もそうだが、浦部さんもオドオドしていた。前髪からチラチラ見える大きな丸い目、その目に下には黒いクマがあって、不健康そうに見えるのだけども目鼻立ちは整っている。

オマケにワンピースの開いた胸元には立派な谷間が出来ており、僕は目のやり場に困った。

「あ、あの、この格好おかしいですかね?と、友達に選んで貰ったんですが。」

「い、いえ、よくお似合いです。」

友達に選んでもらったって、僕らは本当に似てるかもしれない。

「す、座っても良いでしょうか?」

「あっ、ど、どうぞ。」

テーブルを挟んで僕の向かい側に座る浦部さん。僕と同い年らしいが、大きな目も相まって何処か幼い印象を受ける。

さて、何を話せば良いのだろう。今日に至るまで女子とまともに喋ったことのない僕だ。何から話せばいいのか見当もつかない。

そうこうしている内にウェイトレスがやって来てしまった。

「いらっしゃいませ〜、ご注文はお決まりですか?」

「あっ、えっ、えーっと・・・」

注文表なんて開いてすらいなかったけど、とりあえずパラッと開いてみる。すぐに何か決めようするけど、こういう時に限ってすぐには決められない。焦ってしまって何も考えられなくなる。

するとここで、浦部さんも同じようなことをしているのが目に入った。

「え、えーっと。」

メニューを開いて見ているが、すっかり目が泳いでしまっている。凄く親近感が湧くなぁ。

「あっ、お決まりになりましたら、お手元のベルでお呼びください。」

ウェイトレスは中々注文を決められない我々に見切りを付け、他のテーブルの客のところに行ってしまった。

「はわわ、店員さん嫌な気にさせちゃいましたかね?」

「ど、どうでしょう。注文決まってないのに時間かけて悪かったですかね?」

二人してそんな心配をしている。普通の人ならそんな心配はしないかと思うが、我々はネガティブ人間。この程度のことでも気にしてしまう。

「あ、あのですね。」

何か言いづらそうにモジモジしている浦部さん。

「どうしました?」

「ネガティブ同士、日常で気にしていること言い合いませんか?」

「はい?」

突然の提案に目が点になる僕。

「あっ、すいません。変なこと言い出して、忘れてください。」

「い、いえ、突然のことに驚いただけです。分かりました。言い合いましょう、気になること。」

こうして出会って大して話もしてないのに、日常の気になることを話し合うことになった。

「ま、まず私からで良いですか?言い出しっぺなのて。」

「どうぞ。」

さて、どんなネガティブが飛び出すことやら。

「朝、車運転していて、登下校中の小学生を見掛けると、『もしも、この子達を轢いてしまったら人生終わるなぁ』と考えてしまうんですよね。」

「あー、凄い分かります。ずーっと罪背負いながら生きていかないといけないな、とか考えてたら、横通る時も冷や冷やもので。」

「分かってもらえて嬉しいです♪」

パァと笑顔になる浦部さん。こうなって来ると、僕も何かネタを言わないと。

「僕、趣味でランニングするんですけど、この間、反対側の方から高校生らしき子達が、自転車横並びで五、六人程来まして、よく見たらその子達はニタニタしてお喋りしてたので、何か感じ悪いなぁ、すれ違いたくないなぁ、と思ってすれ違う前に、僕は途中の曲がり角で曲がったんですけど、曲がり角に入った瞬間、その高校生たちの笑い声が聞こえてきて、もしかしたら僕のことで笑われてるかと思ったら、なんかその日一日モヤモヤしちゃって。」

「分かります。そういうのありますよね。私も同僚の二人に仕事のことで聞きたいことがあったので、遠くから声掛けたんですけど、その同僚達、私を見たあとに、二人で向かい合ってニタニタ笑って何か話してて、もしかして私の悪口言われてるかと思ったら、精神的にダメージが・・・。」

「分かる分かる。聞こえても聞こえてなくてもモヤモヤするんですよね。ネガティブあるあるです。」

そこから僕と浦部さんはすっかり意気投合して、アイスコーヒーとケーキを食べながらネガティブの言い合いをずーっとしてたら、気づけば夕方になっていた。実はショッピングモールにでも二人で行こうと思っていたのだけど、しまったな。

「浦部さん、すいません話し込んじゃって。退屈じゃなかったですか?」

「いえ、元は私が言い出したネガティブの言い合いですから、それにとっても楽しかったです。こんなに楽しかったのは久しぶりです♪」

彼女の笑顔はとても可愛らしく、直視していると、なんだか気恥ずかしい。

「日影さん、宜しければ、また会ってくれませんか?異性の方とこんなに楽しく話せたのは初めてでして、もっと日影さんとお話したいです。」

「ぜ、是非、こちらこそ宜しくお願いします。」

まだ彼女が好きとか言えるような段階ではないけど、浦部さんと居ると心がとても楽になる。僕はこの出会いに感謝したい。





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― 新着の感想 ―
[良い点]  すごく微笑ましくて、応援したくなる2人でした。 [気になる点]  続きますか? [一言]  と、いうか、できることなら続いてほしいお話でした。
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