6話 ひまりちゃんを探そう
次の日、僕は印鑑を持ってひまりちゃんの家に行った。
一緒に市役所に行って婚姻届を出す為だ。
でも、ひまりちゃんの家には誰もいなかった。
パチンコに行っているんだろうか。
しまったなあ。ひまりちゃんの電話番号を聞いておけばよかった。
仕方がないので、僕はパチンコ屋さんに行った。
広い店内はお祭りみたいにギュウギュウピコピコジャラジャラとやかましく音が鳴っていて、不思議と落ち着く。
ひまりちゃんが、いた。
隣にはお兄ちゃんもいた。
二人ともパチンコをやっている。
「ひまりちゃん」
僕は声を掛けた。
「…………」
でも無視されてしまった。
「ひまりちゃん」
「確変来そうだから黙ってて」
「ごめん」
僕はお兄ちゃんに声を掛けた。
「お兄ちゃん」
「…………」
「お兄ちゃん」
「黙れ」
「……ごめん」
仕方がないので、僕はじっと立っていた。
一時間くらい、ずっと立っていた。
そしたらひまりちゃんがやっと振り向いてくれた。
「太郎君。私、次郎三郎君と結婚することにしたから」
僕はびっくりした。
「なんで?」
「次郎三郎君ってカッコいいし、一兆円持ってるから」
「じゃあ、僕との結婚は……」
「ごめんけど、やっぱり無しね」
「なんで……」
「太郎君は優しいけどカッコよくないし、一兆円持ってないでしょ?」
「持ってるよ」
「嘘つき。太郎君は次郎三郎君に一兆円あげたんだから、もう持ってない筈でしょ」
「でも、また一兆円貰ったんだ」
「誰から?」
「一兆円の女神様からだよ」
「なにそれ。そんな変な女神いる訳ないじゃん。馬鹿じゃないの?」
僕は悲しくなった。
ひまりちゃんが結婚してくれなかった事よりも何よりも、女神様の事を馬鹿にされたのが嫌だった。
「ひまりちゃん、酷いよ」
「次郎三郎君、こいつウザい」
僕はショックのあまり怒りそうになってきた。
「ひまりちゃん、何でそんなこと言うの? 最初に結婚してくれって言ったのはひまりちゃんの方だったよね?」
「ねえ次郎三郎君、助けてよ」
ひまりちゃんのおっぱいを腕に押し当てられたお兄ちゃんが、パチンコの手を止めて横目で僕を睨んで来た。
「太郎。俺の女に手を出す気なら、殺すぞ」
お兄ちゃんの強気な笑顔は、自分に酔っている感じがしてとても嫌だった。
「お兄ちゃん、聞いてよ。本当は僕が最初にひまりちゃんと結婚する筈だったんだよ。なのに……」
「太郎。お前は馬鹿だな」
「……なんで?」
「女ってのはな、日々変わっていくんだよ」
「でも、おかしいよ! 約束したんだよ! 今日一緒に婚姻届を市役所に出しに行こうねって、約束したんだよ!」
「太郎。見苦しいぞ。お前マジでウザいからどっか行け」
僕は、段々と何もかもがどうでも良くなって来た。
お兄ちゃんもひまりちゃんも、自分のパチンコ台を見てばかりいる。
僕の事はもう誰も見ていない。
「おっ、確変来たかも」
「マジで? 次郎三郎君すごいじゃん!」
「まあねー」
僕は嫌になったので家に帰った。