3話 お兄ちゃんに一兆円あげた
ラーメンの味は良く分からなかった。
それどころじゃなかった。
頭がひまりちゃんの事で一杯だったから。
僕はずっとぼーっとしていた。
ぼーっとしながら家に帰った。
すると、お兄ちゃんの声で我に返った。
「チクショオオオオオオオオオ! なんで後から来た奴が出るんだよおおおおおおおお! あのクソハイエナ野郎がああああああああああ!」
お兄ちゃんは泣いていた。
どうやらまたパチンコで負けたみたいだ。
「お兄ちゃん。大丈夫?」
「お前のせいだ太郎。お前のせいで負けたんだぞ」
「……ごめん」
僕のせいじゃないけど、お兄ちゃんが可哀そうなので僕は謝っておいた。
でもお兄ちゃんはますます怒り出した。
「ふざけんな! 謝って済んだら警察はいらねえんだよ!」
「ごめん」
「なあ太郎。一兆円くれよお。頼むよお……頼むから一兆円くれよお」
「分かった。一兆円だね」
「え?」
「一兆円あげるよ。だからもう泣かないで」
「マジで言ってんの?」
「本当だよ。この通帳を見てよ」
女神様から貰った通帳を差し出すと、お兄ちゃんは大喜びした。
「すげえ! 本当に一兆円じゃねえか! 偉いぞ太郎!」
「大切に使ってね」
「もちろんだ! 最高の弟だぜお前は!」
僕は嬉しかった。
お兄ちゃんに褒められたのは、一体何年ぶりだろう。
いい気分のまま部屋に戻って、夜までぼーっとした。
それからぶどうジュースを飲みに一階に行くと、お兄ちゃんはいなかった。
またパチンコかな。
それから僕はフレンチトーストを作って、フレンチトーストを食べて、お風呂に入って、ベッドに横たわった。
今日もとてもいい日だったなあ。
一兆円を貰えたし、ひまりちゃんに結婚してって言われたし、お兄ちゃんにも褒めて貰えた。
本当に、いい日だったなあ。
そして僕はいい気分で目を閉じた。