俺たちの冒険2
「地縛霊、だって?」
「ああ、今日うちの学校でも出たらしい。3Fの備品倉庫が破壊されてたらしい。先輩が発見したってよ。」
Kは一瞬考え込むような顔をした後に、俺の予想外のセリフを吐いた。
「倒しにいこうぜ、それ」
「正気か?地縛霊をか?」
「ああ」
本気で言ってるのか、とは聞かなかった。聞くのは野暮だと思ったし、こいつはこういうことに関してはいつだって本気だからだ。
「やるんなら早めがいい。もう市の災害対策課に連絡したらしいからな。今週末の土日あたりに駆除作業するって。」
「分かった。明日か、明後日に決行しよう。まずはどうすれば倒せるかを調べるか。」
そう言って、俺達は一旦家に帰るとチャリをとって図書館に集合することにした。
とにもかくにも、やることがあるっていうのはありがたい。
少なくとも、夏の日差しの下、公園でブランコを専有しているより図書館のクーラーの効いた部屋で本を読んでる方が生産的だ。
俺は『環境』の棚から手を付けることにし、Kは最近図書館に設置されたらしいパソコンコーナーから情報を集めることにした。あいつは家にインターネット回線が引かれてるから情報通だ。どうやって仕入れてくるのか、俺の知らないことをたくさん知っている。パソコンの方は、使い方を熟知しているKに任せることにした。
俺はそれらしい本をいくつかピックアップすると机に置き、読み始めた。
地縛霊の存在は数年前、アメリカのロスアラモス研究所ってとこが粒子加速実験中に偶然発見したらしい。発生した粒子の分布において、理論値との差異が発見されたことから発見に至ったらしい。
そんなことは関係ないため、俺は駆除方法のページまでパラパラと捲っていく。
駆除方法。現在各国で標準的に採用している駆除方法は弱アルカリ法だ。方法は単純明快で、アルカリ性の水溶液を大量に浴びせて中和させるやり方だ。日本でポピュラーなのは、プールの殺菌用の塩素使って弱アルカリにした水を大量に浴びせる方法だ。塩素剤は手に入りやすく、水もプールの水なので危険性も少ない。ただし、大量の水溶液をかける必要があり、水が比較的簡単に手に入る国や地域で用いられている。一方で、水があまり手に入らない国・地域で用いられているのは主に強アルカリ法だ。強アルカリ水溶液をピンポイントで噴射することで、地縛霊を無力化する。ただし、健康被害が大きいことから、しっかりした装備が必要となり、後片付けも大変だ。
「おい、面白いものを見つけたぞこっちにこい。」
Kが俺を呼びに来た。インターネットコーナーで何か見つけたらしい。
「一体何なんだ」
Kについていくと、パソコンの前で、1つのウィンドウを指さす。
俺は座席に座り、そのウィンドウを見つめる。
そのウィンドウには、黒い背景に髑髏マークが書かれており、その下に時系列順に文字が表示されているようだ。
Kは唐突に俺の耳元で
「welcome to underground」
と言った。
「はぁ?何言ってんだ?まあいいや。なにこれ。掲示板?俺はパソコンあんまり使ったことがないんだけど。」
「はー、アナログだねえ。やだやだ。これからはデジタルの時代なのに。」
Kは得意げに画面のうち、注目すべき箇所を指さす。
「北高校の裏掲示板?」
「そうだ。各学校にこうした裏サイトが作られているんだ。ここで、表に出てこないような内部情報がやりとりされているんだ。」
「へぇ、どんなことが書いてあるんだ?」
「XXはYYが好きとか、ZZ先生がキモいとか、そんな感じのことが書かれてる。」
「便所の落書きみたいだな。」
Kが画面の1点を指さす。そこには、地縛霊についての話題が書かれていた。