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多分、

 現在、帝国陸軍第一支部には化物が二人いる……らしい。


 一人は史上初の最年少入団者にして、これまた史上最年少で隊長に抜擢され、更に史上最年少で軍の上層部入りを果たし、しかも入ったばかりの美人秘書官とできちゃった婚をした男の息子。

 そしてもう一人は軍学校の規則を厳しくさせた元凶であり、第二番隊に入隊してすぐに電撃結婚した第一支部の『暴君』と綽名(あだな)された男の息子。

 ついでに二人は年齢差が一歳差の幼馴染で、幼い頃から互いを切磋琢磨し──いや、喧嘩しまくっていた犬猿の仲である……のにも関わらず、時たま結託すれば怖いもの知らずの最恐のコンビでもあった。


 そんな二人もすっかり大人になり、昔ほどは喧嘩をしなくなった。

 むしろ二人で酒を飲みに行ったりもしているとかいないとか(どっちだ)。



 今回はそんな二人の小話である。



 はじまりはじまり。






「おい、レオン」


 第二番隊副隊長ブレット・グレインジャーが、声をかけたのは廊下でばったり出くわした第一番隊副隊長レオン・ヴァルコンだ。


「なんだよ」


 面倒な奴に見つかった……せめて()()が治るまで会いたくなかったのに。

 そんなことを思いながら、レオンは副隊長の顔を崩し吐き捨てるように返す。


「お前、()()どうした」


 にやにや顔のブレットは、きっとレオンの状況を正確に理解しているのだろう──レオンは眉を顰めてブレットを睨んだ。


 が。そんなことをしたって、ブレットを喜ばすだけである。


「……別に」

「『別に』ってこたぁねえだろ? なあ?」


 もちろん、ブレットは分かった上で聞いた。

 大人気(おとなげ)ないだって? 馬鹿を言うな。ブレットの時だって散々言われたのだから、やり返すのは当然の道理である(ブレット論)。


「ほっとけ」

「んな訳にはいかねえよ。やられたらやり返すのはルールだろ?」

「そんなルールはない」

「俺にはあんだよ」


 うわ、やっべえ……。

 二人の部下兼後輩はそーっと後退し、知らぬ間に撤退を試みる。

 ……だって、あの二人ってば超おっかないんだもの。

 入隊してすぐに二人のガチの喧嘩を目の当たりにした部下達は、『この二人には決して逆らわない』と決めている。

 あれは凄かった。同じ人間とは思えなかった。怖過ぎる。トラウマだ。


 そんな部下の心を知らずな副隊長二人の会話は続いていた──


()()、グレースの親父さんにやられたんだろ?」


 とん、と自分の頬を指し面白そうに言うブレットに、レオンは半ばやけくそになって「ああっ、そうだよ!」と答えた。


 レオンの右頬にはガーゼが貼ってある──グレースが半泣きで貼ってくれたから少しヨレているガーゼの下には青痣があるし、口の端は切れている。おかげで飯が食えない。


「俺の時よりは大分軽症だな。流石、元第二番隊隊長、現指揮官長だ。心が広い」

「……」


 ブレットに言い返そうとも思ったができなかった。

 それもそうだな、とレオンは思ったからだ。


 一年半前、ブレットがアーティとの結婚の許しを貰いに行った時、ブレットは半殺しにされた(ウケる)。

 沸点の低いことで定評のあるブレットが、やり返さないでぶん殴られても何度も立ち上がって頭を下げたというのだから、まあ、そこのところは格好いいとレオンは思ったものだ。


 いや、ほんの少ーしだけだ、爪の白いところらへんくらい(念押し)。


 あの時のブレットに比べたら、確かに随分と優し……くはなかったが、一発で収めてくれたのだから有難いことなのかも知れない。

 クッッッッソ痛かったし今も痛いが、さすが、マゼロ指揮官長にしてお義父(とう)さん。心が広い! と、思うことにしよう。


 ──家族になるのだから。


「確かにお前んのとこよりましだな」

「だろ? でもまあ、あん時はムカついたけど、お義父(とう)さんの気持ちは分かる」

「……は? ブレット、お前もしかして……」

「いや、まだ性別は分かんねえけど」

「お前んとこは絶対に男」

「はあ? なんで分かんだよ」

「ブレット似の女の子とか可哀想過ぎるだろ」

「クソ親父みてえなこと言いやがって。殺すぞ」

「やれるもんならやってみろ。返り討ちにしてやる」








「アーティ、おめでとう」

「ありがとう。グレースもおめでとう」


 物騒な男共とは真逆に、アーティとグレースはほのぼのとお互いに嬉しい報告をし合っていた。


 アーティは子供を授かったことの報告を。

 グレースは結婚の報告を。


 アーティは、グレースとレオンの報告に涙を流して喜んだ。

 長い間すれ違っていた二人が結婚するのが本当に嬉しい。


 グレースもアーティの妊娠を喜んだ。

 アーティが自分の母親のような『お母さん』になりたいと言っていたのを知ってるからだ。

 きっと、アーティはいいお母さんになるだろう。


「男の子かなあ、女の子かなあ……」


 グレースがまだぺったんこのアーティのお腹に手を置いて、「どっちかなあ」と呟くように言うと、「どっちでも楽しい!」と笑うアーティ。

 アーティはもうすっかりお母さんの顔だ。


「ねえ、いいこと思い付いちゃったぁ」


 ぱちん、と両手を合わせるアーティに、「なあに?」とグレースが返す。


「私の子と、グレースの子が男の子と女の子だったら、恋人同士になって結婚するの! そしたら、私達親戚になれるよ」

「もう、アーティってば気が早いよ」

「でもでもっ、グレースのママとレオンのママは親友でしょう? 可能性はゼロじゃないよ?」

「それはまあ、そうだけど」

「あ、待って。もしそうなった場合、どっちかの子供がどっちかのパパに殴られちゃう、のかなぁ?」

「ええ? そんな……いや、でも、まさか。ねえ?」

「だ、だよねぇ?」


 あはは。

 はは……。


「……」

「……」


 乾いた笑いの後に続くは沈黙だった。



 ──彼は父のように殴ったりなんか、しない。


 はずだ。多分。




 その答えが分かるのは、あと二十年後くらい先の話である。

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