仲良し幼馴染!
アーティ・オリバーには、とっても目立つ幼馴染が三人いる。
一人目の幼馴染は、ブレット・グレインジャー。
四人の中で一番の年長者で、アーティの二つ年上の男の子だ。
黒髪に緑がかった黒の瞳を持つ彼は、話し方や態度は粗野だがアーティには優しい……と思う、多分。
父親同士が腐れ縁(親友と言うと父が嫌な顔をする)で、ブレットの両親には物心つく前から可愛がってもらっている──これは二人目と三人目の幼馴染達の両親も同じである。
幼い頃、すぐに泣いてしまっていたアーティは、幼馴染の両親全員からあやされた。
ブレットの父はアーティの父と母と同い年で、ブレットの母は三人の一つ年下だ。どうやら彼等がとっても若くして親になったと知ったのはいつだっただろう。
アーティがそれを知った時、特段思うところはなかったのだがブレットは違ったようで……現在、十六歳になりとて彼は反抗期の真っただ中にいる。
二人目の幼馴染は、レオン・ヴァルコン。
ブレットの一つ年下で、アーティの一つ年上の男の子だ。
輝く銀髪と、琥珀色の瞳を持つ彼は物凄く顔が良い。ブレットも顔は良いのだが、レオンとはベクトルが違う。
レオンはそれはもうキラキラしい男の子なのだ。ちなみに彼は中身もキラキラしい。
真っ直ぐで正義感が強くて曲がったことや狡いことが大嫌い……そのせいだろうか、面倒臭がりのブレットとはいつも喧嘩をしている。
二人は同じ軍学校に通う先輩後輩なのに、とはらはらするが喧嘩した二人を止める力はアーティにはない。
だが、たまーに結託していたりニヤっと笑い合っていたりするので男の子は分からない。本当に分からない。謎だ。
レオンの母は、「男って仕方のない生き物なのよ」と言うのだが、その意味が最近分かってきたかも知れない(?)今日この頃である。
三人目の幼馴染は、グレース・マゼロ。
アーティと同い年で、同じ女学校に通う親友だ。
物語のお姫様みたいなふわふわな金髪と赤い瞳の彼女は、『超』が付く美少女である。
なので、しょっちゅうモデルやら女優やらにスカウトされたり、男女関係なく告白されている。
しかし、マゼロ家の教育方針なのかグレースが興味ないのかスカウト関連は素気無く断っている。
告白においては……グレースはレオンのことが好きなので、当然お断りだ。
王子様みたいなレオンとお姫様みたいなグレースが並んで顔を近づけて内緒話をしている様子は、そのまま恋愛小説の表紙に使用できそうなくらいな画である。
しっかり者なのにレオンの前では途端に『女の子』という感じになるグレースに、レオンも満更でもなさそうだし、この二人は成人したら即結婚するのではないかと思っている。
──さてさて、そんな目立つ幼馴染の中でアーティだけぽっと浮く理由がお分かりだろう。
茶色の髪に青い目のアーティはとっても童顔である。
背も小さくて華奢で、三人と一緒に混じるとてんで存在感がない。
だけど、アーティは幼馴染達が大好きだ。幼馴染の両親達も大好きだ。
自分がとっても大事にされているのが分かるから、アーティは自分を嫌いにならずに生きてこられたし、きっとこれからもそういう風に生きていける、と思っている。
「ブレット」
「ん?」
「あのね、ミサンガ編んだの……」
軍学校の冬季休暇で帰省しているブレットに、グレースと一緒に編んだミサンガを見せると、ブレットは寝っ転がっていたソファから体を起こした。
「付けてもいい?」
アーティが恐る恐る聞くと、ブレットは「付けて」と右手を差し出してきたので、彼の気が変わらない内にしっかり結ぶ。
女学校で好きな人にミサンガを贈るのが流行っていて、グレースに誘われ編んだのだ。
ミサンガは、青色にした──これはアーティの瞳の色なのだが……それは言わないつもりだ。
「怪我しないようにって、お守り」
ブレットの腕にミサンガがあるのが嬉しくてえへへと笑うと、珍しくブレットが柔らかい顔で笑った──彼の笑い方はいつも不敵なので、驚いて心臓がばくばくした。
「えっ! キス!?」
「しーっ、しーっ!」
目を真ん丸に見開くグレースの口に人差し指を押し付けて誰もいないはずのグレースの部屋をきょろきょろする──案の定、誰もいないのでアーティはほっと息を吐く。
そもそも、遊びに来たマゼロ家には家政婦一人しかいないので聞かれたってどうってことないのだが……なんとなく大声で話すことが憚られる。
「詳しく聞いてもいい?」
遠慮がちに首を傾げるグレースに、アーティは真っ赤な顔で頷いた。
「……ミ、ミサンガ渡したら」
「渡したら?」
「ちゅ、って」
「されたの? したの?」
「……さ、された」
「いいなあ……」
「あの、グレースは、レオンとそういうことないの?」
「……ない……だって、私達そういう関係じゃないし……」
ぼすんと枕に拳を打ち込みながら、グレースは長い長い溜め息を漏らす。
「でもミサンガはすっごく喜んでくれたし、うん……贅沢は言わない。いつか幼馴染から昇格できるように頑張る!」
むんと気合いを入れるグレースにアーティは、拍手で彼女にエールを送った。
可愛いガールズトークをする二人がいる一方、数日後、軍学校に戻った犬猿の二人はというと──
「……」
「……」
──バチバチに睨み合っていた。
そして、お互いに右手のミサンガを確認した。
可愛いあの子が編んだミサンガ……付けない理由はない。
ないのだが、しかし。
『二人で一緒に編んだの』
あの子はそう言っていた。
手芸屋で色違いの糸を選んで、と。
つまり、それはいけ好かないこいつと『お揃い』ということである。
不満だ、実に不満だ。
だが、奴にミサンガを外させると悲しむ女の子がいる。
幼い頃から一緒に育った妹みたいな幼馴染が泣くのは胸が痛むし、もし無理に外したなんてあの子に伝われば……きっと傷付く。
だから、我慢だ。
ぶち切れてはいけない、今日はこのまま穏便にすれ違おう。
が、その時──
「あれー? お前等、お揃いのミサンガじゃね?」
「うっわ、ほんとだ。何だよ、仲悪いふりして仲良かったのかよ~」
「まじかよー、えっ? もしかして付き合ってんの?」
「きっもー!」
げらげら笑うのは、ブレットのことが嫌いな男達とレオンのことが嫌いな男達だった。
「……レオン君、一時休戦だ」
「了解です、ブレット先輩」
品良く目を細めるブレットに、レオンが爽やかに微笑み返す。
──ブレットとレオンは、ある条件が重なると結託する。
敵の敵は味方だ。
可愛いあの子達が作ったミサンガを嗤った彼等のその後は記さなくても想像に容易い。




