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09

 あの後行ってみたもののさゆきはぐっすり爆睡中だった。

 そのため改めて放課後になって彼女の教室を訪れたわけだが、


「さゆきちゃんならもう帰ったよ」

「まじかよ……」


 いとしによって真実が告げられる。

 この前雨だったし、それがいまになって影響しているのか?


「追えば会えるんじゃないですか?」

「まあ今日は晴れだしできるだろうが……」


 放課後にまた来るからなって紙に書いて置いておいたのにこれって要は避けられてるってことだろ。

 カズは寛大な対応をしてくれたが、本人に避けられてるんじゃしょうがない。


「そういえばこれ、落ちてましたよ?」

「って、俺が書いた紙じゃねえか……落ちてたってどこに?」

「教室の入り口にですね」


 捨てられた? それとも、そもそも目に入っていなかったのかどちらか。

 でも、腕の下に紙を突っ込んできたんだし、仮に起きる際に落としたとしても気づくだろ普通。

 とはいえ、カズに行かせるために無茶していたのは事実――被害者面はできない。


「しゃあない……追うか」

「気をつけてね、私達はゆっくりと帰るから」

「おう、気をつけろよ」


 風邪じゃなければいい。

 だけど無理して帰ってるってんなら、いますぐに行ってやらないと駄目そうだ。

 学校敷地外を出て走っていく。

 若干家の方角とは別の場所に菊池家があるものの、大した問題ではない。


「あ、菊池ー!」

「えっ!? あ、あれ? どうしたんですか?」


 あれはこちらのセリフだが……。

 あくまで至って普通のさゆきだった。


「菊池、放課後教室で待っててくれって書いた紙、見なかったのか?」

「えぇ!? そ、そんな紙が置かれてたんですか? す、すみませんでした……」


 謝罪をしてから額に触れてみても熱いということもなく通常の範囲。

 でも、紙に気づかないってことがあるのか? なんなら腕と机の間に挟んだんだし気づきそうなものだが……。


「で、今日は急ぎの用事でもあるのか?」

「はい、お母さんが早く帰ってこいと言っていたので」

「突っ伏していた理由は?」

「な、なんか怒られることをしちゃったかな!? って落ち着かなかったんです」

「なんだ……ま、それなら良かったけどよ」


 避けられているとか嫌われているとかでもなかったらしい。

 別に彼女はなんら悪くないが頭を撫でて「罰な」と言っておいた。


「最近は悪かったな」

「え?」

「ほら、結構迷惑かけてたからさ」

「いえ、大丈夫ですよ、お兄ちゃんとも前のようにいられて嬉しいですから」


 ――いや、頭を撫でたり手を握ったり可愛いとか言っても無反応って地味に辛い。

 単純に男として見られていないのだろうか……それとも今回の件で愛想が尽きたか?

 ……つかいつの間にか俺の中でのさゆきの存在が大きくなっている気がする。

 本人はこんなに小さくてこちらを見上げながら「どうしたんですか?」なんて聞いてきてくれているが、地味にきたので手を握ってみることに。


「さゆ――」

「あの、離してください」


 ……これ以上ない勇気を出したのにこれ、情けなくなった俺は走り出す。


「はぁ、はぁ……だせぇ」


 自分で邪魔をしておきながらカップルに偉そうにアドバイス(笑)をしたり、なにを勘違いしたのか接触を増やして名前呼びをしようとしたり、そして無様に敗北したり。

 自分が言ったこと全てがいまの自分に襲いかかっているような気がした。

 仮に気になっていたとしても相手がそうなるとは分からない、だから特定の人物と仲良くしないんじゃなかったのかと。

 簡単に言えば仲良くしないんじゃなくて誰もそういう人が現れないだけだったんだけども、細かいことはいまどうでもいい。

 あるのはださいということ、やはり俺には向かないことだった。




 その次の日から逃げる日々が始まった。

 こちらが追わなくなると向こうが現れるという至極相性が合わないということが証明されていく。

 いとしも特に聞いてこないし、八代やカズだって同じようなあくまで先輩後輩の関係といった感じ。


「鏑木佑悟先輩っていますか?」


 一瞬、またさゆきが現れたのかと思ったが違かった。

 カズが何倍も生意気になった感じの男が立っていた。

 クラスメイトが俺の居場所を教えたことにより、そいつがズンズンとやって来る。

 その歩き方から見ても相容れないだろうなとはすぐに理解した。


「話がしたいんで、廊下に来てください」


 一応敬語は使えるようだと少しだけ評価を改める。

 八代やいとしと恋仲というわけでもないし、言われる内容は大体分かった。


「菊池さゆきって知ってますよね?」

「ああ」

「諦めてくれませんか?」


 おぅ、案外真っ直ぐの瞳をしてやがる。

 あれだな、カズが印象良すぎるからこの男子が悪く見えただけなんだ。

 人は見かけで判断してはいけないというし、勝手に悪評価を下してはならない。


「それは菊池と菊池一泰に言えよ」

「もう言いましたよ」


 行動力もある、俺と違って勇気もありそうだ。

 俺の中では敬語を使える=いい奴かもしれないというラインなので、カズも認めるだろう。


「で、なんで俺に?」

「最近付きまとっていますよね先輩、あとやたらと触れたりしてませんか?」

「あー、それはまあ反省してる。つかさ、だったら告白すればいいだろ? 本人にそれを言える勇気があるのなら余裕だろ」


 あのふたりになんと答えられたのかは知らないが、少なくともまだ諦めていないということはボロボロにされたわけではないということだ。

 別に俺がさゆきと付き合ってるわけじゃないんだし、適当に判断して正しいタイミング――自分が絶好調の時に独りよがりにならないレベルを保ちながら告白すればいい。


「あなたが諦めてくれないとできません」

「あ、もしかして紙を捨てたのってお前か?」

「はい」


 変にしらばってくれる奴より対応しやすい。


「勝手にすればいいだろ、未来のことなんて分からないんだからいまここで判断できない」

「まだ近づくかもしれないってことですか? いまは逃げているのに?」

「よく見てるなお前。そうだな、でもこの先どうなるのかは分からないからな」


 別に俺はあいつのこと好きじゃないし、それどころか嫌われているから勝手にしろなんて言えない。

 だから奴が勝手に告白して受け入れられるにしろ振られるにしろ他人を巻き込まずにやってもらいたいもんだ。


「ならもしそれで受け入れられたら?」

「おめでとうと言ってやるよ、カズも連れてきてな」

「菊池一泰……」


 ありゃ、この様子だとカズになにかを言われたな?

 それをざまあなんて思ったりはしないが、カズには好かれていた方がいいぞ男子君よ。


「そもそもあいつさえいなければ……」

「だったら言うのは俺にじゃないだろ」

「……失礼します」


 やれやれ、どいつもこいつも青春しやがって。

 教室に戻ると黛が寄ってきた。


「鏑木さん」

「なんだ?」

「妹さんを私にください!」

「いいぞ、許可する」


 寧ろこっちはさっさと告白して幸せになっちまえと思ってるくらいなのに遅いな。

 ちなみに、母も父ももう知ってる、知られていることを知らないのは本人達くらいだろうか。


「ありがとうございます! ……というのは冗談でして、そろそろ告白しようかな……と」

「いいんじゃないのか? もし無理だったらなにか奢ってやるよ」

「む、無理とか言わないでください! でも、その時はお願いします」


 告白前の人間って皆こんなもんか。

 もしかしたら受けてくれるかもしれない、だけど受け入れてくれない可能性もある。

 そんな不安に押しつぶされそうになりながら告白して、受け入れられ幸せになる者、断られ失恋し一旦大ダメージを負うか、いとし&黛ならともかく、先程の男子とさゆきが付き合うというイメージは湧かなかった。


「頑張れよ」

「ありがとうございます」


 こうして無責任に頑張れって応援する立場が1番似合うな俺は。

 ――で、その日の放課後、いとしの方から付き合うことになったって報告がきた。

 そりゃずっと両思いだったんだからそうだろとは思いつつも、おめでとうと祝っていとし大好きな少し高めのシュークリームを買ってやった。

 どこから聞いたのかは分からないが母は赤飯を用意し、テーブルの上にはいとしの大好きな物がたくさん置かれた。なんか自分がそうなったというわけでもないのに美味しい飯を食べられるといういい1日になったと思う。

 ――その日の夜にカズから呼ばれなければ、ではあるが。


「すみません、こんな時間に」

「別にいいが、八代と喧嘩でもしたのか?」

「いえ、さゆきのことについてです」


 午後22時を越えており若干どころかかなり暗くて不気味だがベンチに座る。


「で?」

「はい。あの……1年の男子が来ませんでした?」

「おう、菊池のことを諦めてくれないかって頼まれたぞ」

「それで鏑木先輩はどう答えました?」

「将来どうなるのか分からないからなんとも言えないって答えたぞ」


 まあ、可能性としてはほぼないどころか0に近いのだが。

 それでも大きめな隕石が衝突する確率よりはあるかもしれないと判断してああ答えた。


「あいつに取られる前にさゆきをもらってくれませんか?」

「それは本人次第だろ、それに」


 俺は先日のことをカズに説明する。

 それで怒られたとしてもどうでもいい、さゆきへの守りを強くしてくれればいい。


「先輩……やっと勇気出せたんですね」

「おいその生暖かい目やめろ」

「んー、その時のさゆきってどうでした?」

「普通だな、冷静だったぞ」


 だからこそ致命傷になったわけだが。


「ちなみに、その日のさゆきはずっと顔が真っ赤でしたよ? 理由を聞いても「ちょっとテンションが上っただけ!」としか言ってくれませんでしたけど」

「そりゃ多分怒ってるんだろうな、勝手に触れるな、近づくなって」

「違いますよ、それはさゆきの兄として保証します」


 そうだったらいいんだけどな……少なくとも嫌われるのだけは辛いからな。

 思えばあんなことしたのいとし以外で初めてだし、ここまで興味を抱いたのだってそうだ。

 さゆきがいたからカズともこうして話し合える仲になったわけだし、継続はしたいが……。


「菊池は?」

「恐らくもう寝ているでしょうね。というか、そもそも先輩が避けているだけですよね?」

「まあな……だってどんな顔して会えばいいんだよ、あんなはっきりと拒絶されたんだぞ」

「俺は見てないので分かりませーん。じゃあ来ます? ふたりきりになってみたら変わるかもしれませんよ?」

「いまから行ったら非常識だろ」


 今度は親とかに意識がいって上手くいかなくなるだろそれは。

 おまけにあれだけ避けておいて家に突撃してきましたじゃ怒られても仕方がない。 


「いいからいいから、いまから行きましょう!」


 くっ、こいつリア充報告マシーンだったり後先考えずに俺を巻き込んできたり、基本がいい奴なのにその他が駄目すぎる。あと力が強えから逃げられねえ。

 そのため、数分後には菊池家の前に運ばれてしまった。


「どうぞ」

「お、お邪魔します……」


 なにやってんだ俺は……リビングも電気点いてるし明らかにいるのは分かっているぞ。

 前はさゆきとふたりきり及びカズと3人だったからマシだが、この時間に親との遭遇は……。


「あ、お兄ちゃんおかえ――」


 階段の途中で固まった彼女が前に倒れそうになったのを慌てて支える。


「危ないぞ菊池っ」

「あ、す、すみません……」


 危ないのはこんな時間に女の家へとやって来た俺そのものである。

 しかも大声を出したことによってリビングから母親が出てきてしまった。


「あら、あなたが鏑木佑悟くん?」

「は、はい」

「ふふ、そこまで緊張しなくてもいいわよ、そもそもカズくんから聞いてるから」

「はぁ……」


 どんな紹介をしたんだカズは、それとも元々この家に連れてくるつもりで説明をしていたとか?


「けれど、話すのならカズくんの部屋でしてね。さすがにこの時間にさゆちゃんの部屋でふたりきりは気になるから」

「はい……というか、もう帰りますよ」

「ふふ、そんなに大切そうに抱きとめてるのに?」

「これは……ここが危ないからで……勿論、下か上に移動したら離しますけど」


 下心があってしたわけじゃない。

 カズだって靴を脱いでいれば先に動いたことだろう。

 そうすれば大声を出すこともなく、母親に見つかることもなかった。

 いや、いまにして思えばコソコソするより知られていた方が気が楽ではあるが。

 とりあえずしっかりと支えたまま2階へと運ぶ&移動。


「こっちが俺の部屋です」

「おう、じゃあ菊池をそっちに預けるから俺はこれで――」

「ま、待ってくださいっ、いてください」

「と言ってもなあ……」


 割とすぐに帰るって家族と菊池母に行ってしまったし長々いるというのも問題だろう。


「お願いしますっ、最近佑悟先輩といられなくて……寂しくてっ」

「な、泣くなよっ、それは卑怯だろうが」

「じゃ、俺はさゆきの部屋でゆっくりしているので、後はおふたりでゆっくりしてください」

「はあ!? ちょっと待てカズっ」

「ちょっと先輩、もう時間遅いんですよ? もう少し静かにしてくれませんと」


 ぐっ……こいつめ、今度八代にあることないこと言ってやろうと決めたのだった。

 

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