03
「聞いてくださいよ鏑木先輩!」
教室でゆっくりしていたらリア充の片割れが現れた。
やけに必死のようだが触れたくはないためスマホをチェックしたり時計を見てみたりをして時間をつぶす。
「デート、上手くいきました!」
なんで俺はわざわざ報告されているんだろうか。
自然に無自覚に煽っているのであればもう少しくらい振り返ってみた方がいい。
「これも全部鏑木先輩のおかげですっ、ありがとうございます!」
「菊池」
「はいっ、なんですか!?」
「ちょっと落ち着け、いまは一応昼休みだが他にいるんだから」
「あ、すみませんでした、落ち着きます……ふぅ」
でもまあ、上手くいったことをここまで喜んでいるのなら八代だって嬉しいだろう。
「ところでお礼をしたいんですが……鏑木先輩はなにをしてほしいですか?」
「そうだな、もう報告してくれなければそれでいいぞ」
「そういうわけにはいきません、先輩に報告するのは義務だと思っているので。あの、失礼な話になりますけど友達がほしいとか――」
「余計なお世話だ。菊池は八代と仲良くなることだけのために動いておけばいいんだよ」
大体、俺がその気になっても勝手に紹介された人間は複雑だろ。相手が先輩となれば断ることも不可能になるだろうしわざわざ自分から気まずくなりにいく人間はいない。
「あの、妹がいるんですけど、どうですか?」
「聞いてないのかよ……あのなあ、菊池妹に迷惑がかかるだろうが」
この歳になって友達がいないということは問題があるということだ。特に妹系の少女はそう、まあ強烈なタイプの妹だっていることだろうから一概には言えないが、仮にもし自分が菊池の妹なら勝手に誰かに紹介してほしくなんかないと思う。
「というか仲いいんだな」
「え、あ、はい」
「ま、初デートすっぽかして看病を優先するくらいだもんな」
「え、なんでそれを知ってるんですか?」
「なんでって八代しか有りえないだろ」
いままで温和な雰囲気を伴っていた菊池の様子が変わる。まさか変な勘違いをしているんじゃないだろうなこいつ。
「鏑木先輩、ひとみを取ろうとするのはやめてくださいね」
「お前は馬鹿か、単なる偶然だよ」
「そうですか、ならいいですが。とりあえずこれで失礼します」
全く、余計なことをするわ余計な勘ぐりをするわで面倒くさい後輩だ。
「鏑木さん」
「ああ、いとしとはどうなんだ?」
「ID交換して毎日やり取りをして仲良くさせてもらっていますよ」
「や、直接喋れよ」
「そ、それはまだできそうにないです」
相崎先生の言葉じゃないが他人を応援してる場合じゃないんだよな俺は。
でもなにをしていいのかが分からないから無難な生徒でいるわけだけども。
「ところで、お礼がしたいんですけど」
「だったらいとしと仲良くしてやってくれ、それがお礼だ」
彼女は少しだけ目を大きく開き「む、無欲なんですね」なんて誤解をしていた。
無欲なわけがあるかよ、なんでもかんでも欲しがってなにも手に入っていないのが現状なのによって内心で吐き捨てる。
「なあ」
「はい、なんですか?」
「この学校ってリア充しかいないのか?」
「全員が全員というわけではないですが、少なくとも私の友達は全員付き合っていますね」
仮にそれが2~3人であったとしても全員付き合ってるって凄すぎだろ。普通はその中のひとりだけが付き合っていて「早く付き合いなよー」なんて勝者の余裕をかますのが普通だというのに……少なくともこの女子の友達の中では人生=恋するべきって脳内回路をしているってこと。
「ならなんであんたは敢えていとしなんだ?」
「え? 女の子が好きだからに決まってるじゃないですか。なのに友達は全員男の子と付き合ってしまいました、とても残念です」
「ま、無茶はしないようにな、普通の恋愛よりも大変だろうし」
グイグイ踏み込んでいけるのは素晴らしいことではあるがゆっくりを好む人間だっている。だが、対八代じゃない場合はどうなんだろうか、仲良くないたいと思っているのなら眼の前の女子も気が楽だろうが……。
「はいっ、適度に頑張っていきます! それでなんですけど、鏑木さんに会いたいと言っている人がいるんですけど」
「おい待て、あんたの友達は皆恋人持ちだろ?」
「友達ではないです、いつか友達にはなりたいと思っていますけど。ちなみに、いとしさんと同級生です」
いとしの同級生と言えば先程の勘違い系男子とその彼女が出てきて微妙な気分になる。だってこれからも報告を続けるとか言ってきたし、この先どれだけ複雑さを感じなければならないんだと不安だった。
「それってあんたが狙ってるんじゃないのか?」
「違いますっ、私はいとしさん推しです! 今日の放課後に会いたいそうなので、この教室で待っていてください」
女子が好きだと言ったから対象になるのかなと判断しただけだ。別にそこは疑っていない、仮に他の女子も気になっているということでも怒ることもしない。いとしにそれっぽいことを言っておいて他にも同じように対応しているとかなら勿論止めてやるつもりではいるが。
「それってあんたはいてくれるのか? 流石に初対面でふたりきりは気まずいぞ」
「そこは大丈夫ですよ、いきなりふたりきりにはしませんよ」
「分かった」
「はい」
――俺と会いたいだなんて奇特な考え方をしている人間とはどういう感じだろうか、それを考えていたらあっという間に放課後になってしまった。
「鏑木さん来ましたよ」
「おー……お?」
「菊池さゆきちゃんです!」
「菊池って菊池一泰の妹か?」
彼女はこくりと頷き紙に名前を書く。
別に特に難しいというわけでもなく俺の知り合いらしくひらがなのままのようだった。
「それで菊池妹は俺になんの用だ?」
『お兄ちゃんに紹介されました』
「別に紙に書いてくスタイルはいいんだが、あいつにはいいって言ったんだけどな……」
首をかしげたのでこっちの話だとジャスチャーをしておく。
あの女子は「大丈夫そうなのでいとしさんのところに行ってきます」と残し出ていった。
『あの、お兄ちゃんのことありがとうございました』
「書くの早いんだな、それについてはなにもしてないからお礼を言われても困るけど」
彼女はなにを書いたらいいのか悩んでいるようだ。
こちらとしても向こうが書いてからしか反応できないので、待ってるしかない。
傍から見たらそれはもう異常な様子だろうな。
『公園に、行きませんか?』
「いいぞ、どうせ帰るところだったしな」
にしてもこのスタイルでの会話は移動中などにできないし雨の場合にも不可能だ。
どうするんだろうと歩きながら考えていたら何故だか俺の服の裾をちょこんと掴み移動する菊池。
――物というわけではないが菊池兄に妹の取扱説明書を作ってほしいと心底思った。
「はぁ……はぁ……すみません、来るのに時間がかかってしまって」
「いや、俺が無理を頼んで呼んでもらったようなものだしな」
結局菊池妹に頼んで彼を公園に召喚させてもらった。
毎回謝ってくれるがこちらが頼んでいる側なので気にする必要は一切ない。
「で、だ、あそこでぼけーと空を眺めている菊池の妹にはどう対応すればいいんだ?」
「あ、さゆきですか? そうですね……んー、普通に喋ってあげればいいと思います、怖がりというわけでもないですからね」
確かに会話はできていたと言ってもいいだろう。いちいち書かなければ会話できないというのは面倒くさいし間があるため多少の気まずさはあるが、そこまででもない。
「あのさ、聞いてはいけないことなのかもしれないが、菊池妹が喋れないのってなにか事情があるのか?」
「いえ、極度の恥ずかしがり屋さんだというだけですよ。でも、普通に紙を経由すれば会話できますよね?」
「おう、それはな」
てことは慣れたら俺と八代のように声で話せるようになるってことか。ゲームやアニメみたいに段階によって反応が変わるのって面白そうだ。
「てか待て、菊池とは普通に喋るんだろ?」
「そうですね、兄妹ですから」
「ん? というか双子か」
妹=年下という印象があったので忘れていたが彼達は同学年だ。双子なんてこれまでで初めてみたのでつい向こうの妹とこちらの兄を見まくってしまう。一泰の方も大して背が高いというわけではないため、そこまで似ていないということもない……かもしれない。
「はい。ふふふ、見たいですか? いや、聞きたいですか? さゆきの声を!」
「まあ、そうだな」
時々一泰はハイテンションになる。そういうところは八代によく似ているのでお似合いカップルのような気がした。
とにかく、「ちょっと待っててください!」と口にし未だにぼけっと眺めを続けているさゆきに一泰が接近――どうやらそこで気づいたようで嬉しそうな笑みを浮かべている。
「え? 鏑木先輩がいるから話せない? 恥ずかしいって? 別に先輩は怖くないぞー」
「無理して話させなくてもいいぞ菊池」
「でもあれじゃないですか、これから友達になるって時にこれじゃあ……」
「ま、慣れたら普通に喋ってくれるんだろ? 気にしねえよ、大変なのは菊池妹だしな」
慣れ以前に面倒くささを感じてその内に直接口を使ってでの会話になるだろう。
どうしても困った時は一泰――カズでも召喚すればいい。おまけに八代に頼んだっていとしに頼んだっていいわけなんだから困ることは特にない。
「あ、俺のことは名前呼び捨てでいいですよ」
「じゃあカズって呼ぶわ」
「やっぱり先輩、ひとみのこと狙っていませんか?」
「いちいち怖い雰囲気出すな、そういう興味はねえよ」
女を見れば誰にでも興味を抱くような人間だと思われるのは心外だ。おまけに人の彼女を狙うような屑ではない。途中で取られたりすれば引っかかって感情を片付けられずにいるだろうが今回は違うんだから。
「お兄……ちゃん」
おぉ、これがさゆきの声か、いとしのと違って高い! としか言いようがない感じだ。これはあれだな、まあか弱い女子を守りたい系男子にとっては結構というかかなり魅力的な存在かもしれない。
「……お兄ちゃんはもう行っていいよ」
「えっ!? な、なんか悲しいな……ということらしいので先輩、さゆきのことよろしくお願いします。あ、きちんと送ってあげてくださいね」
「おう、助かったぞ」
「いえ、困ったらまた言ってください」
カズが去りさゆきとふたりきりに。
しかし先程までの強気な態度はどこかへいってしまったのか、また紙を使っての会話に戻ってしまっていた。
『いとしちゃんはいつも楽しそうです』
「へー、そうなのか、学校が苦手っぽい感じがするのにな」
それこそあちらの方が中二病パワーで素を隠そうとするくらいだし、あまり話したくはないのかもしれない。いいこととは言えない手段ではあるものの、今度すすめてみようと決める。
「……やっぱり頑張ります」
「お、おう、無理しなくてもいいけどな」
「最近は八代さんとよくいます……ちょっと前までは退屈そうでしたけど」
カズと仲直りしたらそれで満足というわけではないらしくて安心した。
となると肝心なのはいとしの気持ちだ。
単純に仲良くないたいのかあのクラスメイト同じく同性が好きなのか。
「それも鏑木先輩のおかげだって……私は八代さんから聞きました」
「俺の周りのやつは大袈裟すぎるんだよ、ただちょっと話をしただけであれだからな」
俺のおかげ、ありがとう、なにかをしてあげたい、なにをすれば喜んでくれるか。
そんなこと言われても困るだけだし、逆に「お前らが頑張ったからだろ」という言葉をこちらから引き出すための前フリのように思えてくる。
「あの、佑悟先輩……って、呼んでもいいですか?」
「おう、それなら俺もさゆきって――」
彼女はブンブンと首を振り、口元をノートで隠しながら「それは恥ずかしいですから……」と呟いた。蚊の鳴くような声だったが聞こえないということもなく、難聴系主人公みたいにはならずに成功。
「菊池、良かったらいとしと仲良くしてやってくれ」
「……それは大丈夫です、もう友達ですから」
「それなら良かった、あ」
「――?」
嫌な予感が俺の中を駆け巡る。
先程も言ったが主張しすぎないところも庇護欲を掻き立てられるような存在だ。
そしてこの高校はリア充の巣窟――というほどではないにしてもリア充が多い。
気になる人がいるから、付き合っている人がいるから、そう言われかねない状況。
まあ彼女みたいに小さな人間をそういう意味で見ようとなんてしていないから問題はないのだが……。
「菊池さ、もしかして誰かと付き合ってる?」
「――っ!? そ、そんなことはありません!」
そこまで驚く内容だっただろうか。あ、紙を使っての会話をするくらいだからそういう話をすることもなかったというところか?
「じゃあ好きな奴とかは?」
「お母さんとお父さん、あとお兄ちゃんです」
「あー……いや、特別な意味でってやつだよ」
「な、ないですっ、ありません……すみません」
「別に謝らなくていいぞ、悪いな、変なことを聞いて」
とりあえず今日のところは家まで送って帰ることに。
さゆきの様子は八代やいとしに聞いてみることにしよう。




