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02

 この無難というか寧ろ整っている感じの幼馴染では駄目なのかと考えた日から1週間後、


「すみません、お待たせしてしまって」

「いや、気にするな」


 俺はカズ君こと菊池一泰(かずひろ)と集まっていた。

 理由は単純にふたりのことを聞くためだが、少しだけ菊池の思いを聞きたいというのもある。


「相変わらず鏑木さんの方はぎこちないですね、そのためかひとみもどこか踏み込みきれずにいる、というところでしょうか」

「そうか、まあいきなり仲良くはできないよな。とにかく今は仲良くなりたいというお互いの気持ちが大切だ、外野がとやかく口出すべきじゃないってことだけは分かっている状態だな」

「はい、そうですね」


 にしても菊池は俺とふたりきりの時は八代のこと名前で呼ぶんだよな。


「菊池は八代とどうなんだ? 幼馴染なのにどこか引いているような感じがするが」

「そうですね……実は中学生時代に喧嘩したんですけど、それがまだ続いているんです」

「は? え、でも普通に会話しているだろ?」

「あれはひとみと俺の意地です」


 例えそれが意地による賜物だったとしても十分素晴らしいものだと思うが。

 なら仲直りして仲良しになろうと思ったら簡単にできるということだ。

 いとしが今頑張って近づこうとして近づけないでいる状態が馬鹿らしいくらいには。


「ちなみに喧嘩の理由は?」

「初デートに行けなかったことです」

「それって付き合っていたということか?」

「……現在進行系で付き合っています」

「はぁ!? あ……」


 付き合っているのに他の男子達とずっと一緒にいるのかよ。

 けれどそういうことならいとしのことで相談するのはいいことなのかもしれない。

 俺達を交えている時は八代と菊池は喋れているので、仲直りのきっかけにもなるだろう。


「あのさ、それって菊池がもっとグイグイいけばいいんじゃないのか?」

「そうですね……正直に言って鏑木さんにあれを言ったのは俺がひとみに近づきたかったからなんです。だって他の男子になんて取られたくないじゃないですか、仮に同性の子にだって仲良くされてると複雑ですし」


 自分で聞いておきながらあれだが、そういう話聞きたくねえ……。

 もうリア充同士で勝手に喧嘩しておけ、仲直りして俺らの見えないところでイチャイチャしておけくらいにしか思わない。

 なんかとてつもなく時間を無駄にした感じがする。


「だから鏑木先輩も狙わないでくださいね」

「狙わねえよ……」

「それってひとみに魅力がないからとかじゃないですよね?」

「し、知らねえよ……」


 なんだこれと思った俺なのだった。




「あ、あれ……? ど、どこいったんだろう……」


 教室に戻ると女子が困っている様子だった。

 

「どうしたんだ?」

「ひゃっ!? あ、鏑木くん……あ、その、本がなくて……」

「本? あ。あれじゃないか?」


 ざっと見回してみてロッカーの上に置かれたそれを指差す。


「あっ、さっき鞄を取り出す際にあそこに置いたんだった!」

「良かったな」


 俺は静かに席に座って適当に考え事をする。

 ――あの様子なら菊池と八代はすぐに仲直りできることだろう。

 そして、彼らが仲直りすればいとしとも仲良くなれるようきっかけをくれるだろうし、不安なことは一切ない。

 つまりそれは俺のやれることはもうなくなったことを意味するわけで。寧ろ問題なのはこちらに友達と呼べる存在が全くいないことだった。


「鏑木くん」

「なんだ?」


 まさか話しかけてくるとは思わなくて少しだけキョロキョロする羽目になった。

 鏑木という名字は俺と妹だけだし、この場には俺しかいないからそんなことする意味はないとは分かっていても直前に考えていたこともあって気持ち悪い反応に。


「ありがと!」

「別に指差しただけだし気にすんな」

「お礼をしたいところだけど……彼氏が待ってるからまた今度でいい?」

「あ、ああ」


 どいつもこいつも恋人いんのな。

 というか一見地味っぽい感じなのに彼氏いんのかよあんた。

 いや、地味っぽいからこそ守ってやりたいということで男子が放っておけなかった、と。


「なんだ鏑木、まだ残っていたのか?」

「相崎先生は彼女とか結婚してる人とかいるのか?」

「おいおい……指輪が見えないのか? 結婚してるよ俺は」

「はぁ……どいつもこいつもリア充ばかりかこの学校は」


 つかおかしいよな、教師が結婚してたら駄目だろ。

 付き合えている奴ならともかく非モテや非リア充はどう存在していればいいんだよ。

 

「なんだよ鏑木、お前も高校2年生なんだから恋すればいいだろ?」

「はぁ……恋したいー! って思ってるだけで付き合えるなら苦労してないんだよ」


 どうして敬語じゃなくても怒られないのかは相崎先生が嫌っているからだった。

 まあそれでも流石に他の人間がいる時はきちんと敬語にする。

 前にそういう場面でもタメ口でいたら教頭ハゲジジイに怒られたからだ。

 クラスメイトからも「敬語使った方がいいよ」なんてもっともなアドバイスをいただいた。

 そういう絡まれ方は好かないため、目立たないように限定的な場面に絞っているという状況と言える。


「そもそも鏑木には友達すらいなかったかっ、あーはっはっは!」

「ま、そういうのはどうでもいいんだよ、普通に学校に通えればな。でも、リア充爆発しろ」

「矛盾してるぞ……あと、俺を見つめて言うなよ……他の先生だって皆結婚してるぞ?」


 おいおいおい、頭の中恋愛脳の奴ばかりかよこの学校は。

 結局八代が菊池と喧嘩した理由も初デートに行けなかった(笑)とかだし、それを聞かされる俺らの身になれっての。

 というかもう付き合えていないのは自分だけじゃないかという錯覚さえ感じている。

 なら俺はこの立場を貫いてやるぞ、どうせいとしだってフリーだしな!


「帰るわ」

「おう、気をつけろよ!」


 ……まあ友達がいないことで勉学に集中するしかないわけだから優秀な生徒になればいいか。

 ここで問題なのは恋をしていても付き合っていても真面目にやっている奴が沢山いることだ。

 つまり俺らが優秀な態度(笑)とかって頑張っている間にも周りが努力し、俺らは更に埋もれていくというわけで……。


「やめよう、考えると暗くなる」


 友達がいない=間違っているというわけではないだろうが、世間的に言えばそうなっている。

 つまりまあ、俺らは少数的であり間違っている集団なわけだし謙虚に生活することが1番だ。


「兄っ」

「あ、まだ残ってたのか、帰ろうぜ」

「あ、ひとみさんもいい?」

「別にいいぞ」


 んで菊池と一緒に出てきた八代。

 それを見た瞬間にあのやり取りを思い出してうへぇとなった俺は「先に帰るわ」と呟き一緒に帰るのはやめた。


「よくリア充となんかいられるな、いとしのやつ」


 兄には無理だ、諦めてほしい。




「ありがとうございました、鏑木先輩」

「あのな、今、何時だと思ってるんだ? 19時半だぞお前」

「まあまあ、お礼を言いたかったんですよ、ありがとうございましたって」


 何故俺はリア充の片割れにお礼を言われているんだろうか。

 あ! あなたみたいな惨めな存在のおかげで優越感に浸れましたって煽りか?


「無事カズ君と仲直りできました、先輩のおかげです」

「なにが俺のおかげだよ」

「それでひとみちゃんはどうしていますか?」


 リビングにいる妹を呼んで俺はリビングに。


「佑悟ちゃんは友達できたの?」

「母さんもかよ……」

「親としては気になるでしょー? いま聞いていた限りではあの子にも彼氏さんがいるようだしねー」


 俺、友達ほしーって思っただけでできてるなら苦労してないんだよ、それにどちらかと言えば非リア充と友達になりたいところだった。

 だってリア充と友達になると事ある事に「彼氏と用があるからー」「彼女が呼んでるからー」なんて言われかねない。

 そうすれば不快度が増して滅茶苦茶に壊しかねないことを考えれば、逆に俺が行動的ではないことを褒めてもらいたいくらいだった。


「母さんはいとしに気になる人ができたらどう思う?」

「そしたら応援するだけよー、ちなみに佑悟ちゃんに気になる人ができたらチェックするわ!」

「なんでだよ! 息子が頑張ろうとしていることを応援してくれよ!」


 どこの世界線の話だよってくらい遠く非現実的な話ではあるが。

 だからってなんでいとしのは応援で、俺のはチェックするようなことするんだよ。


「だってあなた……いえ、言うのは可哀想よね……」

「待ってっ、ちゃんと言ってくれないと気になるから!」

「もー! 兄達うるさい!」

「「ごめんなさい……」」


 つか夜に出歩くのなら菊池呼べよあいつ。

 なんだかんだ言ってまだ遠慮があるというか、引きずっているのだろうか。


「それじゃあね」

「うん、ばいばい」


 どうやら会話が終わったらしくリビングへと妹が戻ってきた。


「ふっ、我は順調にひとみ……さんと仲良くできているぞっ」

「照れ隠しいらねえから」

「うっ……兄にお礼を言いに来たんだって」

「いや、知ってるが……つか、それだけだったのか?」

「うん、後はまあ世間話ってところかな」


 そんなおばちゃんじゃねえんだからさ……。

 ま、順調に仲良くなれているようで結構だった。




「鏑木さんのことが気になるんですが……」

「えっ!?」


 急にやって来た昨日の女子ではない女子に言われて驚いた。

 彼女はこちらを見て不思議そうな顔をするが、やがて大胆なことに言っているのを気づいたのか顔の前で手をブンブンと振っていた。


「気になっているのは妹さんのことで! あなたには微塵も興味ないです!」


 こんなの有りかよ、普通思ってても口にしないだろそんなの。


「あー……気になるってどういう意味でだ?」

「それはもちろん! 特別な意味でですっ」


 百合とかガールズラブってやつか。

 うーむ、いとしはどちらかと言えば女子ばかりいるわけだし可能性は0ではないだろうが……

ま、この名前も知らない女子のためにいとしに会わせることぐらいは俺にもできる。


「というか、いとしにしか興味ないやつがなんで俺に話しかけてきたんだ?」

「それはだって……好きな人にいきなり話しかけるのは緊張するじゃないですか」

「しかもあなたはお兄さんです、協力してもらいたいと考えるのは普通では?」

「あ、そう……」


 というかなんで俺がいとしの兄だってこんなに知られているんだろうか。

 いやまあ、同じ名字なんだしおかしくはないが、こちらは近づいてくる相手の名前すら知らないというのはなんとも不公平な気がする。


「で、なにをすればいいんだ?」

「一緒にお出かけがしたいです! けれどいとしさんはふたりきりでは自然体でいられないですよね? ですので、あなたも付いてきてください!」


 それを知る手段が危なげないものであってほしい。

 ――だが無理しようとしていないのであれば賛成だ。

 上手くいくにしろ友達のままで終わるにしろ、応援してやってもいいかなくらいには興味を持ったのだった。




「きょ、今日は来てくれてありがとうございます!」

「は、はい……今日はよろしくお願いします」


 土曜日。

 いとしも意外と断ったりせず無事出かけられることになった。

 とにかく俺は付いていくだけなので、ふたりがぎこちないながらも会話しているところを眺めつつ追うだけだ。

 で、どうやらまずはデートっぽい水族館に行くようで、おまけ扱いの俺は乗り気ではなかったが奢ることはせずチケットを購入し入場。……2400円って高すぎだろ。

 これって外で待っておけば良かったのでは? はぁ、この女子のためにいてやるとか俺ってば優しすぎだろ。


「お、お魚さんが可愛いですねっ」

「は、はいっ、私もそう思います!」


 どっちが後輩なのか分からない。

 明らかにどちらも緊張してしまっているし……これじゃ楽しめないのではないだろうか。


「ペンギンが可愛いですっ」

「そうですねっ」


 しかし不安も意味なくふたりはどもることなく会話できるようになっていった。

 ただただ影武者のように追って、水族館の後は近くの喫茶店で先程の光景を話し合う。


「なんか怪しくない? さっきからじっと見てるんですけど……」

「店員に言った方がいいかな? それとも通報?」


 ――空気を呼んで別の席に座った結果通報されそうになったり、


「おいこらストーカー野郎!」


 なんて変な奴に絡まれたり(俺の方がとは言うまでもない)、


「おにいちゃんなにしてるの?」


 男児に絡まれたり……って!


「お前ら長すぎだろっ、いつまで続けるつもりだ!」

「え、普通ですよ、ねえ?」

「はい、私もそう思います。お兄ちゃんがおかしいだけだよ」


 どうやら俺が女子のお出かけってやつを理解していなかっただけらしい。


「そろそろ帰るわ」

「はい、お疲れさまでした、ありがとうございました」

「気をつけてね」

「そっちもな、ふたりで楽しめよ」


 はぁ……2400円+350円の損……なにしに来たんだ俺は。


「鏑木先輩」

「ん? ああ、八代か……って、なんでここにいるんだ?」

「なんでってここら辺、私の家の近くですから」


 丁度帰るところみたいだったため一緒に帰ることにする。


「菊池とデートとかしないのかよ?」

「はい、必要ないですよ、そんなことなんて」


 随分余裕のようだ、菊池がずっと自分を好いてくれていると信じているからか?


「と、言うのは建前でして……実は怖いんです、だって初めてを失敗しましたから」

「なんで菊池は来なかったんだ?」

「カズ君の妹が風邪を引いてしまったからです、自分ひとりしかいないから自分が世話しなければならないということでそちらを優先した感じですね」


 菊池の奴はいい奴じゃないか。

 本当のところは渋々といった感じたったのかもしれないが、無視してしまえばできるのにそれをしなかった。しかもそれがなければ初デートって時に誘惑に負けず看病ができたのは素晴らしいことだ。


「でも、それも言い訳だったんじゃないかって不安で……」

「そんなわけないだろ、もしデートに行きたくないってことなら喧嘩している最中に自然消滅扱いするだろ多分な」

「なるほど……」


 なんで非リア充の俺がリア充にアドバイスなんかしなければならないのか。そしてそれをなるほどと文句を言うこともなく認めてしまうところがより複雑な気持ちにさせてくれる。


「たまには自分から誘った方がいいですかね? 受け身にならず一生懸命に」

「そう……だな、菊池ともっと仲良くしたいということなら頑張った方がいい」

「はいっ、いまから頑張ってみますね!」

「おう、それじゃあな」

「え? 待ってくださいよ、ちゃんと聞いておいてください」


 地獄かよそれ……ま、ごねた後に結局されるのなら潔く見守った方がいいと判断して頷くとサムズアップをしてくれた。なにも嬉しくないことをしっかりと説明した方がいいか?


「あ、もしもしカズ君? えっとね……あの……デート! したい……んだけど」


 敬語じゃない彼女を初めて見た。

 中々どうして新鮮ではあるが、好きな相手と話をしているから素を見せているのだと思うと、俺もそのような人に出会いたいと思えてくる。

 でもまあ、そんな理想の存在がいつ訪れるのかは分からない。妥協に重ねて、相手にも妥協をさせて出会うくらいのことしかないのかもしれない。


「え、いいの!? それじゃあ明日でもいい? うんっ、ありがと! それじゃあね!」


 なんだろうかな、目の前にいるのに遠くに感じるし、後輩なのに上に感じる。

 圧倒的なまでの敗北感、恋することが全てではないと言っていてもこの笑顔を見ていると自分が間違っているんじゃないかとすら思えてくるのだった。

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