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「あー……その、あの時勝手に触れて悪かったな」


 カズの部屋だというのに主がいないとも変な話だ。

 しかももう少しで23時になろうとしているのが最高に悪い。


「そのことについて怒ったりしていませんよ、なのに佑悟先輩が私を避けるから……」


 いや、あの時避けてくれたのはさゆきの方なんだが。

 少なくともマジトーンで離してくださいなんて言われてなければもっとマシだった。

 避けることもなかったし、今度はしっかりやろうと対応を改めた。

 しかしあそこまで完璧に拒絶されてしまうと男としてはもう終わりなわけだ。


「佑悟くんって呼んでもいいですか?」

「ああ……まあ」

「佑悟くんは下手くそです」

「いきなりなんだよ……」

「だ、だって、可愛いとか言ってきたり……頭を撫でてきたり、手を握ったりされたら緊張するじゃないですかっ」


 ああ、説教されてるのにさゆきがここまでハキハキと喋ってくれるようになったんだなって感度していた。「聞いているんですか!?」と怒られてしまったので、形だけの謝罪をする。


「……嫌われてしまったんじゃないかって怖かったんですからっ、ばか!」

「あ、あんまり大声出すなよ、菊池の母さんにバレたら俺が殺される」


 ふたりきりにならないと約束したのにすぐ破る羽目になった。

 もしこのタイミングで菊池母がここに訪れたら? うん、俺は塵にされるだろうな。

 さゆきをなんか「お母さんはそんな乱暴な人じゃありません」と別のところで怒ってるし……自分が原因だって分かってないんだろう。


「さゆき……いいですよ」

「あのさ、菊池のことを好きだっていう奴が現れたんだ」

「はい、私のところにも来ましたから。けれど断りました、だって私には好きな人がいますから」


 ん? じゃああいつはそれでもまだ付き合っていないからという理由であんなことを?


「それはあなたです」

「なんでだ?」


 てことはあいつにもはっきり俺が好きだって言ったんだろうな。

 それで「諦めてください」って一生懸命に縋るように言ったのか。

 

「あなたといると落ち着くからです!」

「それはカズも一緒だろ? 要は兄に向ける感情みたいなものだろ」


 腕を組み物理的及び精神的な距離を作る。

 さゆきが俺を好く理由が分からない、俺が彼女を~ということなら有り得なくはないが。


「こ、こういうことをしたいからです」


 彼女はこちらを正面から抱きしめ、小さいながらもその色々な柔らかな感触に脳に衝撃が走る。


「おめでとー!」

「おめでとうございます鏑木先輩!」


 が、後ろから聞こえてきたふたりの声によって背中にはその何百倍もの衝撃が加わった。

 現在時刻はほぼ23時、カズの部屋とはいえふたりきり、そして俺は抱きしめられている。

 ああ、俺の命は今日で終わりか……流石にこのまま死亡は悲しいので思い切りさゆきを抱きしめておいた。


「おぉっ、佑悟くんが男をみせた!」

「だな! いやー、流石佑悟先輩ですよ!」


 ふたりはなにかを勘違いしている。

 胸の中のさゆきはぷるぷると震えていて、いまどんな表情を浮かべているのかは分からない。


「それって要は受け入れたってことですよね?」

「い、いや、俺は最後だからって、ひぃ!?」

「結局ふたりきりになった上に、さゆきちゃんが好きだと言ってくれた上に、抱きしめてくれた上に抱きしめ返したのに、まさか断るなんてな・い・わ・よ・ね?」

「で、でも、菊池のことを好きな男子が……」

「いまその子のことは関係ない、それに恋は早いもの勝ちでしょう? あなたはどう思ってるの?」


 俺は……手を握って名前を呼ぼうとしたのだって正直むかついたからだ。

 ただまあ、先程の話を聞く限りでは敢えてスルーしていたようだが、反応がないことほど辛いことはない。

 最近の俺の中身はほぼさゆきといたいという感情で占められていた。

 で、結局家にやって来て、流れとはいえ告白されて、抱きしめられて、抱きしめ返している。

 ――脅されたとか関係ない、俺も自分の意思で言わなければならない場面だ。


「俺はさゆきの隣にいたい」

「よし、それじゃあ私は戻るわね。あ、佑悟くんのお家には連絡しておいたから今日は泊まっていってね」

「それじゃあ俺も戻ります。あ、だけど部屋は返してもらいますけど」


 あっという間に追い出されてさゆきの部屋でふたりきりとなった。

 しかし流石に不安だったのか、さゆき母も一緒に寝ることに。


「一応空気を読んで端っこで寝ます。まだ下にいるから、寝る時は呼んでね」


 いや、寝ない時でもいてほしかったが。


「さゆき達の母さんって優しいのか?」

「あ……あぅ……あ……あぅ……」

「駄目だ、壊れてやがる」


 ……だけどいまは関係が違う、戻すべく頭に手を乗っけようとしたら、


「この変態っ」

「いきなりな言いようだなおい!」


 けれど八代が現れたことによりさゆきが回復。


「おめでとうさゆきちゃん、鏑木先輩もおめでとうございます」

「最初のがなければもっと良かったぞ八代……」

「だって襲おうとしたように見えたんですもん。ちなみに、いとしちゃんも黛先輩もおめでとうと言っていましたよ」


 情報が伝わるの早すぎる。

 いま俺は覚悟を決めてさゆきを受け入れたばかりなんだぞ?


「というわけで、言いたいことも言えた私は帰ります、おやすみなさい!」

「ああ、気をつけろよ」

「大丈夫ですっ」


 やっとこさ部屋の中が静かになった。

 とにかく突っ立ったままのさゆきを座らせて、俺も適当な場所で座らせてもらう。


「綺麗な部屋だな」

「は、はい……きちんとお片付けを頑張っていますから」

「本当は今日俺が来るって分かっていたからじゃないか?」

「じ、自意識過剰ですっ」

「や、本当にな、なに言ってるんだろうな俺」


 現時点での自己評価はださくて痛い奴という感じだ。

 だけどこれがもしこの先さゆきといることで変えることができるのなら。


「でもまあ、さゆきに嫌われたわけじゃなくて良かったよ」

「それはこっちのセリフですよ……どこかの誰かさんが避け続けてくれたせいで不安で……落ち着かなくて仕方がなかったです」


 おぉ、さゆきと普通の会話ができていることがとにかく嬉しい。

 しかも俺の彼女ってことだろ? 表面上だけかもしれないがさゆき母だっておめてとうと言ってくれたわけだし。

 だから俺はあの時少ししかできなかった手つなぎというのをやることにした。


「佑悟くんの手は大きいですね」

「そりゃなんでもかんでも小さいさゆきと比べたらな」

「む、一応育ってるところだってありますっ」

「それはその愛くるしさか? 小さ可愛いって感じでいいよな」


 さゆきも結局ひとりの女子ということには変わらない。

 そのため、こうしてお世辞ではなくガンガンと褒めておけば満足するだろう。


「紙で会話していた時が嘘みたいだな」

「そうですね、ちなみにあれは佑悟くん対策でしたけど」

「は? もしかして俺にだけだったってことか?」

「はい、どういう人か分かりませんでしたから」


 あの時拒まれたことよりも1番ショックのことだった。

 そんな人間をよく求めたものだな彼女は。


「正解でしたけどね」

「えぇ……」

「だって意地悪するような人ですよ? 急にお兄ちゃんの前で手を握ったりするんですから……」


 カズにだって指摘されたことだ、自分でもなにをしているんだろうって思わなくもなかった。

 だけど悪者から守らなければならなかったので、必要なことだったと割り切っていただきたい。

 誰にもああいうことをしていたわけでもない、そういうことに関しては安心してもらっていい。


「あの男子にはどう説明したものか……」

「私がちゃんと言います、それで逆ギレされてもなんとかなりますから」

「いや、危ないだろ?」

「だって佑悟くんがいてくれるじゃないですか」

「なるほどな、それなら任せておけ」


 が、まああいつはそんなことしないと俺は思っていた。

 仮に予想が外れて彼女に八つ当たりするようだったら俺が止めればいい。

 カズではなくもう俺を全面的に頼ってほしいから。


「ふふ、今度はお兄ちゃんが嫉妬してしまうかもしれません」

「ふっ、まあ適度に会って適度の過ごそう」

「はい、休憩も大事、なんですよね?」


 頷くと「だけど離れたくないです」なんてちょっとこちらをからかうような笑みを浮かべる。

 俺はそこでグッと堪えて、結局そのままを貫くことにした。


「私、前に佑悟くんのことが気になるって相談されたんです」

「へえ……って、俺のことを1年生が?」

「はい。けれど好きな人がいるから無理だと思うって言ってしまいました。だってあなたを取られたくなかったから……」

「おいおい、一気に積極的だな」


 よっぽど俺より積極的というか、カズによく似ているように感じた。


「もう佑悟くんは私のものです」

「じゃあさゆきは俺のものか?」

「いえ、お母さん、お父さん、お兄ちゃん、そして佑悟くんのものですね」

「ま、そりゃそうだな。まあいい、さゆきの恋人が俺だけならそれでな」

「それは大丈夫ですよ、これからもよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく」


 彼女の頭を撫でて立ち上がる。


「さゆき母を呼んでくる、それでもう寝よう」

「はい!」


 とても寝るようなテンションではないが、彼女が元気ならいいと割り切って1階へと向かったのだった。

読んでくれてありがとう。

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