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01

会話文のみ。

「――というわけだから、土日の間、いとしの世話は頼んだぞ」

「おう、楽しんでこいよ」

「って、仕事だけどな……ま、母さんがいるからマシなんだけどさ。行ってくるわ」

「了解」


 さて、こうして俺、鏑木佑悟かぶらぎゆうごは両親から妹の世話を頼まれてしまったわけだが、


にい、我はそれが欲しいのだが」


 この通り、結構痛い人間のため大変――ということもなく、高校1年生ということもあって自分でなんとかしてしまえる人間だった。故にこの変な言動さえなければ割と常識人なのだ。


「俺の分の菓子もやるよ」

「あ、ありが――感謝する」


 菓子で妹を満足させている間に掃除だの勉強だの読書だのネットサーフィンだのと休日らしいことをして謳歌していく。


「兄」

「なんだー?」

「今度下僕を連れてくるからよろしく頼む」

「女の子か?」

「そうだ、男の下僕などいらないからな」


 それを男に言ってしまうのはやめよう。

 そうとなれば俺がいるとその友達も気を遣うよな? その時になったらいとしに連絡してもらって家をあけることにしようと決めた。


「ゲームをやらないか?」

「別にいいけど、俺は持ってないぞ?」

「我が持っているから大丈夫だ、部屋に来てくれ」


 ……昔は「おにいちゃんがすき!」とか言ってくれてたのにどうしてこうなった。さては中学生時代の俺を見ていたとかか? 右手には邪神が宿っていたとかいま思い出すと滅茶苦茶恥ずかしく痛いことを呟いていた時期があったからな。

 けれど普通なら「こうはならない」と決めて対策するはずなんだが……そういうのは惹かれ合ってしまうということなのだろうか。


「兄っ」

「お、おう」


 選ばれたゲームはいま流行りの対戦ゲームだった。キャラクターを選んでそのキャラクターで相手を落とし合うというもの。……好きなキャラクターを使って相手の選んだ好きかもしれないキャラクターを叩き落とすってよく考えてみなくてもえらく暴力的な内容だ。


「ふっ、兄は私に勝てない」

「いとし、我じゃなくなってるぞ」

「あっ! ぐっ、ひ、卑怯だぞ兄!」


 そもそも兄呼びだし家族に優しくできる時点でその話し方は全く合っていないと思う。

 

「これで、終わりだっ」

「あ、インターホンが鳴ったから出てくるわ」

「え……」


 父さんは車を置いていってあるし居留守も使えない。それにどうせこんな休日に訪れるやつなんてあいつしかいないんだ。


「やっほー!」

「おう、ゲームやるか?」

「ちょいちょい……挨拶もなしにゲームに誘いますか普通……」


 いつまで経っても「おう」を挨拶だと判定してくれない後輩系女子、八代やちよひとみ。

 いつの間にか家を把握されて勝手に来ることが常習化されてしまっているのが問題だ。


「いとしちゃんいますか?」

「おう、だからゲームやるかって誘ってるだろ?」

「そういうことですか、それじゃあお邪魔します」


 初めてというわけではないので先に行かせて俺は飲み物の準備をしてから向かう。


「ほら、ジュースだ」

「ありがとうございます」

「お、お兄ちゃんっ、なんでこ、この人を家に!?」

「お、落ち着け、別に八代はそんなに悪いやつでもないぞ」


 こちらをディスってくるようなタイプでもないし、いとしと同級生なんだから上手くいっているなどと考えていたのだが、それはこちらが勝手にそう捉えていただけだったらしい。


「へー、何気にいとしちゃんのお部屋に入ったのは初めてですね」

「あれ、そうだったか? ま、こんな感じだな」

「女の子らしいというわけでもなく、どちらかと言えば男の子の部屋みたいです」


 あー、こいつ色々と男漁りとかしてそうだし沢山見てきたんだろうな。実際、こいつが男といないところなんて見たことがない。けれど同性が嫌いというわけでもないらしく同性とも一緒にいるところを沢山見てきた。

 いとしがこんな反応を見せているのはグイグイくるタイプだからだろう。意外と押しに弱いのかすぐにあのモードを維持できなくなるところがその証明でもあった。


「もしかして下僕って八代のことか?」

「ち、違うぞっ、我が友のことをそんな風に例えるわけがないだろうが!」

「えー、酷いですよいとしちゃん!」

「こ、これは勝手に兄が言っているだけだ!」


 彼女と出会ったのは高校2年生の春、俺が校門で妹を待っている時に話しかけてきたのがきっかけだ。……言い方は悪くなるがその時から男子を侍らせていたので(恐らく同級生)、あまり

得意な人種ではなかったが頑張って会話を続けていたらそこまで悪いやつでもないと分かった。

 恐らく最初から敵意全開だったりこちらを完全ディスりという状態であったのならこうしていま会話したりはしていない。


「あ、私は男の子と約束があるのでこれで帰りますね」

「なにしに来たんだよ……」

「それはいとしちゃんを見に来たんです、なぜなら同級生で同じクラスですから」

「そうか。ま、気をつけて帰れよ」

「はい、失礼します」


 歩み寄ろうとするところは素直に素晴らしいと思う。

 特に相手がいとしみたいなガードが堅いタイプであれば尚更そうだ。

 あまり踏み込んでほしくはない、けれどどちらかと言えば引っ張ってほしい。

 そういう矛盾した感情を抱えながらでいる時にああいう存在はうざくて、でも助かるだろう。


「兄はやつのことをどう思っているんだ?」

「俺か? んー、そんなに悪くないやつくらいには」

「……実は我もそうだ、こちらが拒んていても近づいて来てくれることに感謝している自分だっている。そして、それを問題だと思わずに『こういう自分がいてもいい』って考えてしまう……のは弱者だからだろうか?」

「いや、そんなことはないだろ。感謝しているのならもっと柔らかく対応してやればいいんだよ」


 土曜日に来るくらいだし彼女はもっと仲良くしたいと考えているはずだ。

 もしそうしたいとはっきり言ってくれればいとしに会わせるくらいならしてやる。

 それ以外は流石にできないしやるつもりなので安易に口にすることはしないが。


「で、でも、緊張してしまうんだ……こちらから歩み寄ろうとすれば離れていってしまうのではないかと……」

「んー、じゃあ兄としてアドバイスをするが、その話し方を八代と接する時だけやめてみたらどうだ?」

「……け、けれどそれも恥ずかしいし……」

「大丈夫だ、あいつはあんなことで怒ったりしない、多分」


 なんというかいとしといる時は楽しそうな気がする。

 どちらかと言うと普通に異性の友達と仲良くしたいんだってことは伝わってくる。

 が、普段男とばかり一緒にいるせいで同性からの評価が下がってしまっているんだ。

 それでもいとしは一切そういうのを気にしないタイプなので気に入っている――のかもしれない。


「……協力、してほしい」

「おう、どうすればいいんだ?」

「八代ひとみを月曜日の放課後、校門で待つように言っておいてほしい」

「了解だ」


 とはいえ連絡先は知らないので月曜日になったら頼むことにしよう。




「八代を呼んでくれないか?」

「わ、分かりましたっ」


 面倒くさいので教室に突撃。

 だが、そこまで恐れられるような形相をしていただろうか。


「珍しいですね、鏑木先輩がここに来るなんて。あ、いとしちゃんのためですか?」

「なあ、今日の放課後校門で待っていてくれないか?」

「え、私、結構忙しいんですけど……男の子と出かける予定が――」

「ちょっと来い」


 腕を掴んで廊下に連れ出す。

 恐らくそれをしたせいで先程の生徒が余計にざわざわとしていた。


「あのさ、いとしの頼みなんだよ、それでも駄目か?」

「本当ですか? 鏑木先輩特有の嘘というわけではないですよね?」

「おう」

「分かりました、それなら予定を空けておきます。放課後に校門で待っていればいいんですよね?」


 頷いたら「了解です」と口にし教室へと戻っていった。しかし気になったのか代わりに妹が出てくる。


「お……兄……ちゃん、八代ひとみ……さんは大丈夫だって?」

「おう、ただ後に予定があるようだからさっさと済ませた方がいいぞ」

「あ、ありがと! あ……協力感謝する!」

「それやめろって」


 救いなのは本人が他人を拒んでいないということだろう。

 普通こういう状態の人間というのは他者を拒絶し孤高を貫くタイプなので(経験談)、稀な存在だと言える。


「……そういえば兄は友達いるの?」

「おう、そっちの方は大丈夫だ」


 別にいないからいとしになにかをしてやって時間をつぶしているとかではない。


「あ、だけどひとみさんがいるでしょ?」

「いや、あれは友達とは言えないだろ。だって話しかけてきたのだってひとみの兄だからってことだったんだぞ?」

「え、そうだったんだ……どういうつもりなんだろう」

「どういうつもりって、同じクラスで席も近いんだから気になったんだろ」

「でも教室ではいつも突っ伏してるし、放課後になったら男の子といるよ?」

「それが本意だとは限らないだろ?」


 ただ男が近づいて来ているのを無難に対応しているだけかもしれない。

 勝手に八代=男好きだと判断している俺が言うのもなんだが、近づく理由になったいとしにはそういう考えをしてもらいたくはないだろう。

 だから自分は変えないがいとしは変える――のが無理ならそれとなく言ってみるだけだ。


「おい鏑木」

「なんだ?」

「なに?」


 やって来たのは至って普通の男子といった感じだった。

 俺やいとしと違って右手になにかを宿した経験もなさそうな男子。


「あ、いえ……用があるのは妹さんの方で……お前さ、八代と仲良くなりたいんだろ?」

「うん」

「良かったら協力してやろうか? 俺、八代の幼馴染だからさ」

「え、いいの? ありがと」


 おぉ、嘘を言っているようには見えないし妹を良くリードしてくれそうだ。

 けれどもし仮に嘘を言っていた場合はこの手で潰すつもりではいるがな。


「お兄さんにも協力してあげましょうか?」

「いや、いとしにだけ協力してやってくれ」

「分かりました、そのことについては任せてください」


 うーん、やっぱり悪い奴のようには見えないか。

 というか八代に確認してしまえばすぐなんだと気づいた俺は、再度彼女を呼び出す。


「はい、ちゃんと幼馴染ですよ」

「そうか、疑って悪かった。八代も悪い」

「いえ」


 にしても、こんな普通というか整ってる感じの幼馴染では不安なのだろうか?

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