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無所属短編作品

異世界転生者狂騒曲

掲載日:2020/03/17

 転生ものを読んでいて思いついた話です。

「ようやくここまで来たぞ、魔王!」


 一人の少年が、声を張り上げる。

 大人と子供の中間、可愛いと格好良いのちょうど中間くらいの、まだ幼さが見え隠れする顔立ちの少年だ。


「お前を倒して、このイシュタルシアンの平和を取り戻す!」


 そう言いながら彼は、まるでひと昔前のRPGから出てきたかのような装備の腰に差した、それぞれ異なる色と形の剣を手に持ち……俺へとその切っ先を向けた。


 聖剣フォルティノ


 魔剣グリューノス


 普通であれば相容れないその二振り。

 しかし〝魔王〟たる俺を倒すために現れた〝勇者〟であれば……それぞれの剣の力の競合や反発といったモノをねじ伏せ、使う事が可能だ。


 なぜならば勇者とは、この世界の理の外から、この世界へとやってきた存在――すなわち、この世界の法則には囚われない、特殊すぎる存在なのだから。


 ちなみに勇者の使う、二つの反発し合う力を行使するなどの、この世界の理外に位置する特殊能力の事を、一般的にはチートなどと呼ぶ。

 いったい誰が最初に、そんな用語を考え出したのかは知らないが、日本語に訳すと〝反則〟なので、まったくもって、その通りだと思う。

 そしてそのチートなる用語はどういう経緯かは不明だがこの世界にもやってきていたようで、俺の配下の魔族達も、もちろん知っている。


「フッ。勇者よ、貴様を待ってたぞ」


 そしてそんな、俺の配下共を倒し、俺のいる魔王城の玉座の間まで辿り着ける勇者を……俺は待ち焦がれていた。

 別に勇者に対し恋愛感情を持っているというワケではない。というかそんなこと連想するなよ吐き気がするから。


 とにかく俺は、勇者が来るのを待ち焦がれていた。


 なぜならば――。


「なぜならば今こそ……我ら〝転生者〟の運命を決する時なのだから!!」


「…………………………は?」


 勇者の目が点になる。

 いったい俺が何を言っているのか、理解できていないのだろう。


「もう一度言おうか? いや、俺の事情を一から話した方がいいかもしれんな」


 なので俺は、勇者に事情を説明した。


     ※


 俺は前世では、東京の商社のサラリーマンだった。

 ところがある日の営業中、車にひかれそうな散歩中の子供を目撃し、助けようと道路に飛び出し……そしてこの世界の魔王に転生した。


 まさかの、俗にいう異世界転生系。しかも魔王への。

 最初は胸を躍らせた……のだが、魔王の寿命は想像以上に長く。

 そのせいで。生まれてからほんの六十年で……この暗黒大陸でしたいと思った事すべてをやり尽くしてしまった。


 そこからは暇地獄だった。

 最終的にはいい加減、元の世界が恋しくなってきた。


 だが魔王は長命でしかも体が頑丈。

 自殺しようにも死ねないレヴェルでだ。


 でもたった一つだけ方法は残されてた。

 それは魔術による人為的……もとい魔為的な転生。

 簡単にいえば己の肉体を元の人間の肉体に再構築しつつ、元の世界に戻るという疑似的な転生術式を新たに開発するという方法。


 術式自体は数日で完成した。

 だが術式起動に必要なエネルギーがあまりにも多かった。


 俺と俺の配下共の力を結集しても、まだまだ足りないくらいに。


     ※


「だが勇者よ、そのあと約二千年待ち続けようやく現れたお前の力を加えれば……ようやくこの術式は起動する!!」


「ま、まさか魔王も……俺と同じ転生者だったとはッ」


 勇者が、俺と同じく転生者である勇者が驚愕で目を見開く。

 だがすぐに正気に戻り、俺へと憎しみを込めた視線を向ける。


「ならなぜ俺を誘拐したりせず、俺の故郷を火の海にした!?」


 そして勇者は激高した。


「俺が必要だったんだろ!? お前が自殺するためだけに!! だったら俺を誘拐すればそれですぐ済むじゃねぇかよ!!」


「だってお前、生まれた時からレヴェルがカンストしていたワケじゃないだろ?」


 同じ転生者として、俺だってお前の故郷を火の海にしたくはなかった。

 だけど生まれたばかりのお前はレヴェル1。俺への憎しみを糧にして無理やりにでもレヴェルを上げてもらわないと、転生術式起動のためのエネルギーがお前の中に生まれないだろう。


「それに安心しろ。その代わり誰一人として殺しちゃいない。それにお前の故郷の領主は、悪どいヤツだったじゃないか。むしろ俺の、どちらかと言えば優しい配下が領主の座に納まったから少しはマシになっただろうが」


「ぐっ! た、確かに誰も死んでないし年貢の負担は減った……ッ!? まさか、火を放った後に、より頑丈な家を建ててくれたのは……俺達と魔族の建築技術の差を見せつけて嘲笑うためじゃなく、善意で!?」


 そういえば、そういう指示も出したな。


「あ、その辺りはお前の憎しみを引き出すため、あえて嘲笑うよう言っておいた」

「嘲笑ってたんかい!!」


「まぁとにかく、俺の計画に協力しろ勇者よ」

 話が逸れそうだったので、俺は無理やり話の軌道を修正した。


「拒否は認めん。なぜならお前にも、協力する理由があるからだ!」


「さ、さっきから思うが、な、なんで俺がお前の自殺に協力しなきゃいけないんだよ!? まぁ確かに俺はお前を倒しには来たけど、自殺の協力に来たんじゃないぞマゾなの魔王!?」


「マゾじゃねぇよ」


 勘違いも甚だしい。


「よく考えてみろ。お前、俺を倒した後……みんなから喝采を浴びると思っているのか?」

「は? そうじゃないのか!?」


 ――こいつ、生前ご都合主義な異世界もののライトノベルしか読んでいなかったんじゃあないだろうな?


「んなワケあるか。魔王を倒せるほどの人間だぞ? そんなヤツ、魔王以上に恐ろしい存在になりかねない危険な存在じゃねぇか」


「………………………………あっ」


 今気づいたのか!?


「ならいっその事、俺とお前が相討ちになった……そういう結末に見せかければ誰も俺達を恐れる事なく、俺達も第三の人生を送れて、この世界の魔王と勇者の物語はめでたしめでたし、だ。どうだ? 協力……してくれるよな?」


「…………………………分かった」

 勇者は頷いた。


 それを確認した俺は、改めて術式起動のための手順を勇者に説明しようとしたのだが――。






「待ちなさいよ!!」






 聞き覚えのない女の声がした。

 俺と勇者は同時に、声がした方へと振り向いた。

 声がしたのは、魔王たる俺と勇者がいる玉座の間の出入口の方だ。


 そしてそこにいたのは……豪華絢爛な装束の、見るからに貴族の女だった。


「その術を、アタシにもかけなさいよ!」


「……え~と。どちら様だ人間?」

 なんだか勝気な女に、俺は問いかけた。






「アタシの名前は、フランソワ・A・シュルツ。いわゆる、悪役令嬢に転生した元日本人よ!!」






「「な、なんだってーっ!?」」


 ば、バカな。俺たち以外にも転生者が……いや、それ以前にジャンル違くね!?






「おっと、拙者を忘れてもらっては困るでゴザルぜ!!」






 また新たな声がした。

 俺たち三人がハッとして目を向けると、そこにいたのは玉座の間の天井に、クモのようにぶら下がっている……忍者だった!?


「お、お前は……ゴンゾウ!?」

 勇者が叫ぶ。


 お前の知り合いなのか勇者よ!?






「久しぶりでゴザル、勇者殿。そして魔王よ、お初にお目にかかる。拙者、魔王軍の動向を調査していた勇者軍の諜報員にして、忍者としてのスキルを手に入れ転生したゴンゾウでゴザル」






 な、なんだってーっ!?

 ま、まさかまだ転生者がいたというのか!?


「お、お前が転生者……!? は、初耳だぞそんな話!」


 俺だけでなく勇者も動揺している。

 お前も知らなかったのか……というか名前から察しろ。俺達と同じ日本人っぽいだろ。


「できれば拙者も、元の世界に転生させてほしいでゴザル。この世界には日本食がなくて、もぉ苦しゅうて苦しゅうて」


 なるほど、気持ちは痛いほど分かる。

 魔王たる俺もかつて同じ気持ちを抱いたからな!!


 なんなのこの世界!?

 濃い味の料理ばっかなんですけど!?


「あ、それアタシも思ったわ」

「俺もだ」


 勇者よ、そして悪役令嬢よ……お前らもか!


「いや、気持ちは分かるが……」


 だが俺は心を鬼にしなければいけない。明かさなければいけない。

 俺が開発した転生術式には……ある欠陥が存在するという事実を。


「俺の転生術式には――」






「おっと待てぇい!!」






 だがその台詞は、新たな声によってかき消された。

 まさかと思い、俺たち四人は同時に声がした方を向いた。


 するとそこには……な、なんと俺の部下である四天王の一角、鬼王の配下の一体であるゴブリンがいるではないか!?






「魔王様、俺も転生させてくれ!!」






 ゴブリン、お前もか!?






「もうこの世界の食べ物に飽きたんだ!! 日本食が恋しぃよぉ!!」






 そして理由も同じか!?






「だったら俺も転生させてくれ!!」






 また新たな声がした。






 顔を向けると、そこにいたのは…………見るからに魔術師!!






「この世界の魔術はおかしい!! 前世での魔術よりはある程度マシだがいろいろおかしい!! 早くよりマシな魔術法則の異世界に行きたい!!」






 ……ん? 行きたい? 戻りたいならともかく……え、まさか?






「まさかお前、俺達の世界とも違う世界の?」


 勇者よ、ズバッと訊くのなお前。






「その通りだ!!」






 ……って当たってるのかよ!?






「ちょっと待て! 転生術式は俺と勇者の世界に行く用でしかも――!!」

 他の転生者共にもついでに説明すべく、俺は大声を出した。


 するとその時、






「ならば私も転生させるがよい!!」






 なんだか偉そうな声が聞こえた。

 もうだいたい分かってるが……そちらに顔を向けてみる。


「今度は……はぁ。平民に転生したヤツか」


 そこにいたのはいたって普通の平民だった。

 なんだか偉そうな口ぶりなのを除けば、だが。


「いかにも」

 平民はふんぞり返った。






「私は元先々代魔王にして、魔王の生活が嫌になり平民に転生した転生者だ!!」






「まさかのジジイ様かよ!?」


 というか平民に転生してたのかよ!?


「いかにも」

 なぜかさらにふんぞり返る。


「だが転生の術式を忘れてしまってな。孫よ、私にも使わせるがよい」


「ちょっと待てジジイ!! さっきも言おうとしたがこの術式は――」






『お~い!! 俺も転生させてくれ~~!!』






 そしてそこでまたしても転生者ァァァァ――――――!!!!!?






 怒りのあまり顔を歪めつつ、そちらを向く。

 するとそこにいた、というかあったのは……え、そ、そのフォルムは!?






 ――どっからどう見ても、伝説の聖槍ファルメス!?






『もう武器としての生活はこりごりだぁ!! 人間に戻りたいよぉ~!!』






 ま、まさか武器に転生した系の転生者か!?






「き、気持ちは分かるがいい加減俺の話聞けよお前ら!!」


 ていうかいい加減、転生術式の欠陥を言わねば!! さらに収拾がつかなくなる前に!!






「いいか? 俺が作った術式はなぁ!!」






 そして、いざ言おうとしたまさにその時だった。






 突如、城外の天候が荒れ狂い始めたのは。

 俺が怒りに任せて放った魔力の影響を受けたのだろうか?






『おぉぉぉーーーーーーーーれぇーーーーーーーーむぉーーーーーーーー』






 いや、なんだかおかしい。

 暴風の中から声のようなモノが聞こえるぞ?


 気になったので、転生者全員で城の外に出てみる。






 すると、そこには――!?






 なんか大量の、それもでかい星々が見えるんですけどぉ――――!?!?!?











『とぅーーーーーーーーうぇーーーーーーーーんーーーーーーーーすぇーーーーーーーーーーうぃーーーーーーーーすぅわーーーーーーーーすうぇーーーーーーーーるぉぉぉーーーーーーーー!!!!』











 …………………………ゑ? ま、まさか!?











「ぎ、銀河そのものに転生した転生者かぁ!!!?」











 あ、ありえん!! 異例すぎる!!











「というかいい加減に言うけどなぁ!! 俺の作った転生術式は――!!!!」











 しかし、俺の声は。











 銀河そのものがこの惑星に大接近した影響で発生した天変地異の大音量によってかき消され、そして世界は――。











 あぁもう。

 一度に二人しか転生させられない上に、次に転生できるまで千年かかるっていうのに……。











 こうなっちゃ、どこの世界に転生できるか分からねぇじゃねぇかよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忍者ゴンゾウを始めとする転生者の多くが、日本食への恋しさから日本への帰還を望んでいる所に、親しみを感じました。 幼少時から慣れ親しんだ食文化は、やっぱり忘れがたい物ですよね。 仮に異世界に…
[一言] これは面白いwww 展開が二転三転するのが読んでで楽しかったです!
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