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7.貧民街最強の剣

 前回、ハクアと一緒に話した日から四日ほど経過した。

 あの日からずっと、剣を振りながらどうすればハクアを助けられるのか考えていた。だが答えはでない。俺が馬鹿だからだろう。


 そんな俺はその時からハクアには会っていないのだが、ふと通りを歩いていると猫に話しかけるハクアが居た。


「可愛いね……」

「にゃー。……にゃ?」


 しゃがみこんで、ゴロゴロと喉を鳴らす猫を撫でるハクア。眠たそうな顔は変わっていないのに、その目は輝いている。猫が好きらしい。いや、猫が嫌いな奴はいない。


「何してるんだ?」

「ん……グレイ。見ての通り」


 お腹をみせてきた猫の胸毛をモフリながらハクアは言う。


「猫を撫でているのか」

「うん。可愛いね」


 ここらには野良猫が結構いるが、あまり人には懐かないはず。それなのに、ハクアに猫は気を許していた。いや、あれは服従しているのか。


「久しぶりだな」

「ひさしぶり。約束どおり、来た」

「ああ。今日はなにかしたいか?」

「……分からない」


 少しでも楽しい人生にしようとハクアを遊びにさそったのだが、俺もどうすれば良いか分からない。

 いつも剣を振るっているだけで、俺も遊びなんてした事ないからだ。そもそも貧民街に娯楽は少ないし。お姫様が満足する様なものはもっと少ない

 俺がうんうん悩んでいれば、ふとハクアが問いかけてきた。


「グレイは、何してるの?」

「ん? ナワバリの見回りだ」


 普段はゴーズに任せている見回りも、たまには俺が行かないといけない。弱いゴーズでは武力面の事を解決できないからだ。


「……私も、付いて行っていい?」

「ああ良いぞ。けど楽しいものか?」

「楽し、そう」

「なるほど。じゃあ行くか」


 猫をなごりおしそうに撫でて、俺の隣までくる。

 俺はハクアと共に見回りをする事となった。


 俺のナワバリの見回りとなると、前までならば一日は掛かった。しかし、八割方国によって奪われたのでそうは掛からないだろう。


「あれ……喧嘩してるよ?」

「別に止めるほどの事じゃない」


 一番大きな通りを歩いていれば、罵りながら殴り合っている二人の男がいる。

 王都の大通りであんな事をすれば衛兵がすっ飛んでくるが、ここではそんな事はない。あれぐらい普通の事なので無視だ。


「もうゆるさん。死ね」

「こっちのセリフだ! 殺してやる」


 と思ったら二人はナイフを取り出した。


「刃物、持ってるよ?」

「さすがに危ないな」


 この通りは人がたくさん通る。刃物を持ち出されたら危険だ。

 なので、俺は道に落ちている手ごろな石を拾う。そしてそれを二人に向かって思いっきり投げた。


「「イテっ」」

「お前ら。そこは邪魔だからやるならもっと人が居ない所でしろ!」

「グ、グレイさん」

「失礼しました」


 二人は一緒になって路地裏に消えていった。


「よし。これで人気のないところで続きをやるだろう」

「止めなくて、いいの?」

「あんなの止めてたらキリがない」


 喧嘩なんてよくある事。死なない程度であればほおっておくのが一番だ。


「そっか……」


 貧民街の常識に困惑しつつも納得するハクア。


「見回りを続けるぞ」


 その後も見回りは続けるが、やはり問題は多い。

 住居を失った住人もたくさんいるので、喧噪は多かった。人通りが少ない所は特に顕著で、久しぶりに忙しい。

 俺のナワバリはかなり平和なはずなのに、やっぱり王国によって土地を奪われた事はデカい。


「ん……おつかれ」

「ああ。おつかれ」


 とりあえず一周出来たので、俺とハクアは木陰で休んでいた。青々と茂った木の真下。そこに設置されたベンチの上に座る。まわりには人はいなく、貧民街の隠れた名所だ。


「……問題おおかった。ね」

「家をなくした人がたくさんいるからな」

「ごめんなさい……」


 俺の何気ない一言の意味を察して、しゅんとなるハクア。

 罪の意識にさいなまれ、暗い顔になった。


「そうだな……。俺じゃあ。何も出来ないから、この事はゴーズに頼るしかない」

「そっか……」

「でもハクアがこの前くれた金。あれがあればもう少し平和にできる。ありがとな」

「っ……ん。私の罪に比べれば……あれぐらい、感謝されるほどじゃない」


 そう言うが、あのお金で救える命は無数にある。感謝してもしきれないぐらいだ。

 俺は戦う事以外出来ないので、どうしても治安維持とかは力で解決してしまう。でも、金をうまく使えば長期的な平和につながるだろう。それはゴーズにぶん投げるが。


「私に……もっと。なにかできないかな?」

「……これは、これ以上はこっちの問題だ。あまり、気にしなくていい」

「でも。私のせいで」

「メチャメチャ罪は償ってもらった。今回ぐらいは傍観しててくれ」

「うん……」


 ハクアは頷くが、罪悪感は拭いきれてないようだ。しかたないだろう。ハクアは、優しい子だから。

 涼やかな木陰での休憩中、それ以降は会話らしい会話はなかった。ぼーっとしているだけで心地よい空間にいると、なぜか騒がしい声が聞こえてきた。


「おお! 兄貴やっぱここにいたっすか!」

「ん。なんだ、ゴーズか」


 慌てる様にやってきたのはゴーズだった。息をきらして、俺を走って探し回っていたらしい。


「あ、彼女さんも一緒っすね」

「だから彼女ではないと」

「あ、そんなことより大変っす」


 俺の言葉は途中で遮られる。まあいくら訂正してもゴーズは彼女だという事を変えなかったので無駄だろう。


「隣のナワバリの、グレン組の連中が暴れてるっす」

「はっ……? グレン組が?」

「そうっす。酒場で暴れていて怪我人も……」


 グレン組といえば、俺のナワバリの隣のを統括する奴ら。あそこのボスはかなり好戦的で有名だ。

 昔ボコって逆らえなくしたはずなのに、どういう事だろう。


「分かった。すぐに行く」

「頼んだっす」


 奴らは死人を出すこともいとわねえ好戦的な集団である。俺は剣を持ってすぐに駆け出した。


「グレン……組って?」

「グレン組ってのは隣のやつらだ。ずっと俺たちのせいで二番手に甘んじてたからな。ナワバリの八割を失って弱体化した俺たちを潰して一番になりたいんだろ」


 まあ俺たちを潰してももう一つ強力な所がいるので一番にはなれまい。それ以上に潰される気もない。

 最近ハクアに負けてすっかり雑魚イメージがついている気がするので、ここいらで名誉挽回と行こう。


 グレン組のナワバリの境界線にある酒場。そこでは、グレン組の武装集団が暴れていた。

 酒場の椅子や机をひっくり返し、酒代も払わず酒を飲んでいる。


「おいおい。腰抜けがリーダーのとこの奴はやっぱ腰抜けだな」

「ちげえねえ。俺たち相手にびびってやがる」


 グレン組の奴らは酒を飲みながら酒場の亭主を笑い飛ばす。雇っていた護衛も全員倒れていて、震える事しかできなかった。


「邪魔するぜ」

「こんにちは……」


 そんな中、俺とハクアは扉を開けて中に入る。すると、いっせいに視線が集まった。


「おいおい。どうやらナワバリをまんまと奪われた腰抜けが来たみたいだぜ」

「おっしかも女連れてるじゃねえか。っめっちゃ上等じゃねえか!」

「こいつを殺したら相手してやるか」

「てめえの小せえソーセージでか?」


 そう言いあって、醜悪に笑う。それを見て、ハクアは嫌な顔をして俺の後ろに隠れた。


「生理的に……無理」


 ボソっと言った言葉には最大の嫌悪が込められていた。

 俺から見ても気持ち悪い。ハクアから見ればさらに気持ち悪いだろう。


「まあ。俺だけで片付けるから。お前は下がってろ」

「うん」

「おっと。腰抜け野郎が女に良いところを見せるらしいぜ」

「ひゅーひゅー。腰抜け野郎のちょっと良いとこ見てみたい!」


 グレン組の奴らは躾という物がなっていない。まあ敵は武装した奴が十人負けるわけがないと思っているのだろう。


「うるせえからその口とじろ」


 一番近くにいた奴の口に、俺は近くにあった空瓶を突っ込む。そして蹴りをみまって気絶させた。


「っ! 野郎やりやがったな」

「囲め。囲んで殺せえええ!」


 俺がまさかやると思っていなかったのか、今更ながら剣をぬく。


「躾をしねえといけないようだ」


 俺のナワバリに俺以外の戦力はほぼいない。それがなぜかと聞かれれば、俺一人で十分だからと答えられる。

 俺が貧民街最強の剣と呼ばれた由縁を、教えてやるのが親切という物だ。



 ◇



 十人はいたグレン組のやつらを全員倒して、後処理は全てゴーズに丸投げすることにした。


「とりあえず、今回の損害はこいつらに請求すれば良いっすかね?」

「ああ。後はまかせたぞ」

「了解っす。ほら、お前らキリキリ歩く!」

「「へ、へぇ~」」


 縛り上げた奴らを、ゴーズに預ける。

 

「今日のグレイ。強かった」

「俺も結構強いんだよ。お前に言われても皮肉にしか感じないけどな」


 俺が百人ぐらいいても勝てそうにない奴に言われてもあまり嬉しくはない。


「ううん。グレイは強い。私が見てきた中で。……五指には、絶対。入る」

「そうか? ハクアにそう言ってもらえるとは光栄だな」


 お世辞かもしれないが、姫騎士からのお褒めの言葉は非常に嬉しい。


「今日は普通にナワバリ回っただけだし、退屈だったろ。変な奴らもたくさんいたし」

「ううん。楽しかった、よ?」

「そうか?」

「ん。にぎやかで、楽しかった」


 貧民街の喧騒を賑やかで楽しかったと表現できるのはハクアぐらいだろう。

 ハクアのスケールの凄さに驚いて、でも楽しかったなら良かったと頷く。


「まあ、今度はもっといろいろ考えとくよ」

「うん。また、来るね」

「ああ。少しは、人生楽しくなったか?」

「……んー。ちょっと、かな」


 そう言ってハクアは微笑む。それを見れただけで、俺はなんだか嬉しくなった。

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