4 私の正体
「まずベレニケって名前、これに引っかかる……えーっとアァァァァァァァァァァァア!!!」
父親の名前がメガス、そして私はベレニケ。
この情報だけだと2通りの可能性があることに気がついた。
今世の私は、
プトレマイオス朝をつくったプトレマイオス1世の妻、「ベレニケ1世」か、
プトレマイオス3世の妻、「ベレニケ2世」のどちらかだ。
もし私がベレニケ1世だった場合、アレクサンドリア図書館※はまだない可能性の方が高い。
アレクサンドリア図書館はプトレマイオス2世の時代に作られたとするのが、前世の研究者たちの共通見解だった。
と、ここで重要なことを思い出した。
「今までのベレニケの人格はどこに行ってしまったんや?」
巷で悪役令嬢ものが流行っていた時、この問題の解決の仕方は色々だったけれど、自分の身に降りかかるとは思わなかった。
今生の記憶がないから、自分が何者なのかすらわからない。
思わず白い貴婦人を心の中で呼びつけた。
(アンタがきちんと説明してくれんから大混乱なんやけど!!!もっかいちゃんと説明してくれ!)
「はいは〜い」
「どぅええ!?!?」
いつのまにか、あの白いワンピースを着た女の子の面影を残した女性がベッドに腰をかけている。
ワンピースではなく、古代ギリシアのキトーン※を身にまとっている。麻布のようで、彫刻のようなドレープ(ひだひだ)はないけれど、とても涼やかだ。
「ほんまにあの小説の白い貴婦人みたいに、色んな年齢ででてくるんやな…」
「んふふ、どうせならお姉さんの格好もしたいですしね」
「ってそんなことはどうでもええ、ここってエジプトやなくてリビアか?」
「ピンポ〜ン!正解!ってことはあなたが何者かも理解しました?」
「あぁ、これでわかった。私の父親はキュレネの王様なんやな………」
キュレネは、アフリカ大陸のリビアに存在した古代ギリシアの都市である。
プトレマイオス朝というのは、元々のエジプト人ではなく、当時覇権を握っていた古代ギリシア人がエジプトを統治していた時代のことなのだ。
「またまた大正解〜!そうです、あなたの父はキュレネの王メガス。貴方はいずれプトレマイオス3世と結婚し、そして息子プトレマイオス4世に殺されます。」
「あぁ〜そっか、うぅ…そのバッドエンドは回避したい……………」
思わず、頭を抱えてしまった。
※アレクサンドリア
エジプト北部に位置する。ギリシアのマケドニア王であったアレクサンドロス大王によって、紀元前332年に建設された。アレクサンドロスの死後は、その部下だったプトレマイオス1世がエジプトを支配し、古代エジプト最後の王朝であるプトレマイオス朝の首都として発展した
※アレクサンドリア図書館
古典古代世界の図書館の中で最大規模かつ最重要とされていた。
歴代の王は、金に糸目をつけることなく蔵書を増やしていき、権力の象徴でもあった。
各国から来た数多くの学者、詩人、哲学者、研究者たちの拠点となり、彼らには多額の給金、免税権、宿泊所、食事が用意された。
※キトーン
古代ギリシアの男女が着用した衣服のこと。 エジプトから輸入された亜麻布などを使う。布を肩でとめ、胴を紐でしばって、襞を調整する。




