2 古代エジプトに転生できるって本当ですか
あ、終わった
と思う間も無く私はこの世を去ったらしい。
この22年間何だったんだろう、と考えてから、はて、私が死んだとしたら今この22年間にあっけなさを感じている私は何だ?というところに気がついた。
「パンパカパーン!!おっめでとうごっざいまぁす!」
目の前で花火のようなチカチカした光が発され、一気に視界がひらける。あたりは真っ白なだだっ広い空間が広がっていた。白いワンピースを着た少女がクラッカーを鳴らす。
パーン!
気がつくと、自分の身体がおよそ車にはねられたとは思えない綺麗な状態を保って存在している。着ていたワンピースもサンダルもそのままだ。
「あれ?私生きてたん…?」
少女がチッチっと人差し指を振る。
「ノンノン、あなたは先程交差点を信号無視で突っ込んできた車にはねられました。痛みを感じる暇もなくここへ来れたのは幸いでしたね。」
私は思わずおぉ…と息を漏らした。やはりあの猛スピードで突っ込んできやがった車にはねられたのは夢ではなかったのだ。
「ここ病院!?せっかく即身仏見に行こうとしてたとこやったのに!!!」
少女はサラサラの髪を指にくるくると巻きつけながら曇り顔で続ける。
「あなた、ミイラが好きすぎて、エジプトを研究している学生の中でも変わり者で有名だったみたいですねぇ。わたくしは、ミイラなんて気味が悪いだけだと思いますけども」
「変わり者ってなんや、失礼な。私はただミイラに魅せられて真摯に向き合ってきただけ!今日だって、やっと公開の時期になった即身仏を見に、山形に行くはずやった……」
「ミイラと即身仏ってちょっと違うのでは?…まぁまぁ!次の人生ではミイラ作成でもなんでもちょちょいのちょいですよ!なんせ私が就任してから1人目の死者ですもの。あなたは超超超ラッキーガールなんですよ!」
「ちょちょちょ、ほんまに待って?次の人生?就任1人目の死者?」
あまりにもサクサク話をしていく少女に全くついていけない。
というか、死者ってなんだ死者って。聞き捨てならない。
とっさに、「今流行りの異世界転生か?」という考えが頭をよぎった。
「ていうか、あまりにも急に色々あるから君のことに突っ込めなかったわ。」
ニコニコと笑う少女のほっぺたはぷくぷくとしていて愛らしい。小学校低学年くらいだろうか。
「ふふ、あなたは、先の事故で亡くなりここへ転送されてきたんです。私が貴方の案内役です。」
「ちょっと、ちょっと、待って?ほんなら私、死んでしまったん?」
全くまわってくれない頭で考える。死んだ人間とペラペラ会話できる白いワンピースを着た少女の話なんて、聞いたことがない。
古事記や日本書紀に出てくる神話の神は教養程度に講義で学んだことがあるし、日本に限らず神話が好きだったのでいろんな本を読んできた。(特にエジプトはそこそこ詳しい自信がある。)
そのときチカッと頭に火花が散った感覚がした。
「ん…まてよ?白いワンピースを着た少女…白い貴婦人…」
小学生の頃、色んな国の神話の神が出てくる児童小説が好きでよく読んでいた。
その中のファンタジー小説に、あらゆる神の生みの親として出てきたのが白い貴婦人だ。
「んふふ、びっくりしました?あなたの潜在意識の中で力を持った存在のイメージを借りたの。このふわふわのワンピースだって、とっても着心地がいいですしね」
頭がクラクラしてくる。もしかしたら、車にはねられた時に失血しすぎたのかもしれない。
「君は神なんか?それとも悪魔の類か?どっちなんや…」
「あら、悪魔呼ばわりとは失礼ですわ!謝ってくれなきゃ、あなたのステータス全部最低値にしちゃいますよ」
ステータス、という言葉に引っかかる。
「あーー、そのステータスっていうのはもしかして…」
もしかして、は当たっていたようだ。
「あなたを好きな世界に転生させてあげるってことです。もちろんステータスもいじってあげます。なんせ、わたしにとって初めて対応する死者ですもの。」
ふふっと、白い貴婦人(そう呼ぶことにした)が微笑む。
「じゃぁ…あなたは神様ってこと?」
「わたしは令和ちゃんです。神様というのも、あながち間違えじゃありません。」
彼女は説明を始めた。
「令和という概念が生み出されたことによって、こちらの次元にもそれに見合うだけのエネルギーを持ったモノが生まれました。それが私です。」
「はぁ……。令和ちゃんて、モイッターで流行ってたネタやん…」
何がなんだかさっぱりわからない。
「で、決めたんです。どうやら令和の世では異世界転生ってヤツが流行ってるらしいので、やってやろうと!」
「だから待ってくれって!!!いやいやいや、勝手にやる気になられても困るわ、私が色々ついていけてないねん。」
「好きな世界選んでください、さぁ!さぁ!はやく!私だって色々お仕事あるし、貴方だけに構ってられるわけじゃぁないんです」
「そんなこと言わんとって…気づいたらしんどったんやで私?次の私の人生どうなるか君が全部決められるんやろ?」
「んふふ、そうですそうです、やっと理解してくれましたか?」
「それなら生き返らせてくれってのはダメなん?」
「貴方はすでに送り出されたんですよ…先ほど貴方がなくなって45日が経ったようです。」
「はぁぁぁぁ!?!?もう!?!?早すぎん!?!?私さっき車にはねられたばっかりやで!?」
「貴方がこの空間で目覚めるまで、どれだけかかったのか、説明するのを忘れていましたね。ついさっきの話じゃありませんよ」
もう、声も出てこない…。
「さっ!とりあえず貴方はミイラが大好きとのことですし、何なら古代エジプトに転生させてあげましょう、それくらいならお茶の子さいさいですよ。新しい命として生まれるんですからね。」
!!!!
「マッ…マジ!?異世界じゃなくて、あの時代のエジプトに転生させてくれるってのもアリなん!?!?」
「えぇ、異世界転生というものの他にも、時代を遡ったり未来に生まれたり、貴方達人間の想像力は豊かでとどまるところを知りませんもの。」
-----私の人生、もしかしたら今から始まるのかもしれん。
「プトレマイオス朝のアレクサンドリアに私を転生させてくれッ!!!」
カランカランカラーン!
白い貴婦人の持つベルが鳴り響く。
「承ッ知致しましたァ!!!さぁ!学府アレクサンドリアに転生の御案内でーーーーーーーす!」




