1 其の者、ミイラオタクな前世アリ
初投稿
あぁ…学部4年生で、初めてエジプト発掘に連れて行ってもらえたあの夏………
ルクソール※での発掘に初めて呼んでもらえた。学部一年の頃からコツコツ大学内の研究所に通い、アルバイトで日本の発掘現場にも出てきた。日本流発掘のイロハも覚えた、測量道具の扱いも、図面の取り方も、同年代の誰よりもうまい自信がある。
スカラベの実測も飽きるほどやったし、先生から「これPDFにしておいて」って言われたら、300pもある学術書だろうが、丁寧に扱わなきゃいけない、ン万円もする遺物の写真集だろうが、心を無にして黙ってスキャンしてきた。
吉原先生がもうこの大学にいないことは知ってたけど、エジプト政府にコネがあって偏差値もそこそこ高いのはここの大学くらいだったから、中学生の頃からこの大学に入ってエジプトで発掘をすると決めていた。
そんな努力を認められて、やっと手に入れたエジプト行きのチケットだった。
「優香先輩ッ!!!すごい!!!遺跡の壁から腕生えてるって本当なんですね?!?!あぁぁぁこんな!こんな雑にミイラがポイポイ床に落ちてるだなんて!!!!!」
「ちょっと白鳥アンタキモいから黙ってて。盗掘する野郎共はお宝に興味があるだけでミイラはいらないからそこら辺に捨てていくのよ。中に入ったらここの倍はあるわよ」
「すっ!!!素敵です先輩!私このためにずっとあの地獄のしごきに耐えてきたんですね……!!」
「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!どっちみち白鳥自身が現場で使えるようにならなきゃ、アンタも博士の御姉様たちが選ぶ精鋭には入れなかったんだから。」
「えぇ!?!?私、千堂教授じゃなくて、お姉様方に選ばれたんですか!?!?」
「そうよ、先生は研究にしか興味ないから、使えるか使えないか判断できるほどアタシ達のこと覚えてらっしゃらないの。エジプトに連れて行って使えるやつかどうか、お姉様たちが普段のアタシ達を見てジャッジしてメンバーをお決めになるのよ。」
ヒィィィィィィイ!せやったら、博士のお姉様方のいる飲み会でミイラ一発芸!とか絶対やらんかったのに…!
「先輩、そこに捨ててあるミイラの腕の匂い嗅いできてもいいですか?」
「それ、後から来てるワーカーさんに見つかったら調査中口聞いてもらえなくなるわよ。」
「………………やめておきます……」
発掘を担当してくれる現地のワーカーさんに、悪印象を与えたら調査に支障が出るかもしれない。
どうしても我慢できなくて、あとでこっそり、試料としてジップロックの中に保管してあったミイラの指の匂いを嗅いでみた。
トリップできそうなくらいクラクラしたのは秘密。
具体的に?えぇ〜…例えて言うなら、発酵したブルーチーズの匂いやない?(アッ!ちょっと聞いておいて引くのはナシやん!!!)
その日の発掘も無事終わり、みんなで夕食を食べに外に出た。
料理が運ばれてくる前に、珍しく千堂教授が私に話しかけてきた。
「ねぇ白鳥さん」
「はっ!!はい!!!!」
千堂教授は講義以外で学部生とは滅多に話をしない。
それは自分のゼミ生でもそうで、研究以外の雑談を、私は千堂教授としたことがなかった。
「君、さっき、ミイラの匂い嗅いでなかった?」
(うぼぁぁぁ見られてた……!!!)
「いや、あの、そのぉ……!rrr」
あぁ…心が痛い…向かいに座るお姉様方からの眼差しも痛いです…刺さるて………
「君、ちょっとヤバい学生だったんだなぁ……」
教授にさえドン引きされてしまった……
夕食の後、車の中で優香先輩が私に
「だから言っただろ」
っておっしゃった時の顔が忘れられへん……