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騒々しくも静寂なる夜

作者: 葛城 炯

 静かなる男

 喋る女

 随分と疲れを感じる仕事をなんとか片付けて終電までの時間を過ごそうといつものバーへと足を運んだ。


 いつもの席に……と見れば先客がいた。


 腰まで届く長いソバージュがふらりと動き……振り返ると「あら? ごめんなさい」と一言残して彼女は隣の席へと移動した。

 ソバージュの髪越しにも判る大きな瞳の……ネコのような女。


「ソコはアナタの席なんでしょ? マスター。コチラにいつものを。チャージ料は私に付けといてね」


 それでは悪い。せめて一杯奢ることにしよう。


「あら? 奢って下さるの? 何を奢って下さるのかしら?」


 別に何でも言いさ。ドンペリ何ぞを頼まれても困るがカクテルならばどれでも良いさ。


「ふぅん。じゃ……マスター。キャットハワイを」


 そんなカクテルはあったかな? とマスターを見れば……思案投首。

 やっぱり無いらしい。

 それでも何かを合わせて即興で創ってくれた。

 いつものワンハーフの水割りと一緒にキャッツアイのようなカクテルがテーブルに並ぶ。


「アナタとワタシの未来に」


 軽くカクテルグラスとグラスを合わせ……それぞれに味わう。


「ねぇ? 超能力って知ってる?」


 不意に変わった方向へと話を振るんだなと思いながらも……超能力ね。

 念力とか言うヤツか。


「そ。で、その中で一番役に立たないのは何?」


 役に立たない……のねぇ。


 念力は役に立つな。

 パチンコの玉を操れたら小遣いに苦労することはなさそうだ。


 透視は……どうだろう? 見えたからって何がどうなるわけでもなし。

 ヌーディスト・ビーチを歩いているようなものだ。

 見飽きればどうってコトはない。

 でも宴会の余興には使えそうだ。


 瞬間移動は……便利だな。

 少なくとも最終電車の時間を気にしたりすることはなくなる。


 予知は……どうだろうね。見た未来を変えられるならば兎も角、そのままだったらつまらないだろう。特にそれが10秒とかだったら……


 後は……


「テレパシー」


 そうか。テレパシーか。役に……立つのかな?


「役に立たないわよ。全然」


 随分と決めつけるんだな。


「だってそうでしょう? 相手が考えているのが判るだけ。なんに役にも立ちはしないわ。それとも……テレパシーでお金儲けが出来る? ギャンブルとかで」


 テレパシーが役立つギャンブル……

 スロットとかの機械ものは駄目。勿論パチンコも。相手は機械だ。意味がない。

 ルーレットも駄目。ダイスを使うのも全滅だ。

 相手が人間のヤツに限るな。

 そう。カードゲームの類。

 ポーカーとかで相手のブラフには引っかからないな。


「でも勝てないわよ。不用意に負けることが無くなるだけ。勝つためには手が良くないと……ね?」


 確かに。

 相手と自分でどっちにいい手が来るかだけ。オープン・ポーカーみたいなものだ。

 つまりは確率の問題。

 どのカードが次に来るのかが判る訳じゃないから……大差はないか。


「それに……テレパシーがあると大変よ」


 どんな風に?


「のべつ幕なしに誰かの心の中が聞こえてくる。人混みの中とか大変。気が狂いそうになる」


 まぁ、そうだろうな。

 でも恋愛の駆け引きとか……あ、そうか。


「そ。全部判ったんじゃ駆け引きじゃないわ。千年の恋でも相手がワタシのことを……疎ましく思う時があるわ。それも全部判ってしまう。どんな恋でも冷めるわよ?」


 まぁ、そうだな。

 知りたくないコトも、伝えたくないコトもある。……か。


「そ。地下道在るでしょ? 駅とかに。テレパシストはそれが下水道なのよ。知りたくないコトも全部判ってしまう。綺麗に化粧された裏側が見えてしまう。疲れるだけよ」


「最初はね。何かできるかなって思った。会社の秘書とか外交官とかになってビシバシと相手の心を読んで……でもね、目の前の相手の心を読んでも駄目なのよ。相手の上役の意志とか論理とか……つまりは『心』じゃなくて『組織の論理』で動くのよ。大抵の場合。特に組織が大きくなると。小さな会社だったらどうかなと思って……鞍替えしても結局は同じ。小さな組織は『組織の論理』に『個人的な感情』か入り込んでいるだけ。感情なんて……テレパシストじゃなくても判るわ。それに邪魔。感情をぶつけられるとテレパシストじゃなくても疲れるでしょ? 普通の人にはただの『雨』でもテレパシストには『嵐』。余計に疲れる。結局……『あまり意味がないんだな』って悟ってしまうと……疲労感だけが増すばかり」



 それにしても……随分と詳しいな。


「そうよ。ワタシがそのテレパシストだもの」


 ……え?


「アナタ。ココに来てから一言も喋ってないわよ?」


 あ……そうか。

 確かに喋らずに思っているだけだ。


「どうかしら? テレパシストと呑むお酒は?」


 ん〜〜〜。そうだな。


 …………ん。


 物凄く楽だ。


「え? なにそれ?」


 喋らずに会話が出来るんだったらこれほど楽なことはない。


 相手はきょとんとした顔をしていたが……やがて笑い出した。


「きゃはははは……そんなコトを考える人って初めて」


 そうか?


「そうよ。大抵は気味悪がって直ぐに席を立つのに。アナタのような人は初めて」


 暫く……仔猫のように笑い転げていた。楽しそうに。


「……はぁはぁはぁ。笑い疲れちゃった。じゃあね。また会いましょ」


 と、相手は額をくっつけてきた。まるでネコのように。


「ん。アナタの波長は記憶したわ。会いたくなったらいつでも『思って』ね? それだけで充分よ」


 ワタシの都合が悪い時じゃなければね。と言い残して相手は去っていった。



 暫く……そのまま呆気に取られていたら、携帯電話が鳴った。

 メールだ。


『ところで……終電は間に合うの? ロングソバージュの仔猫より』



「あ……終電、乗り遅れた」

 それが……バーに入ってからの第一声だった。




 読んで下さりありがとうございます。

 NiftyのSFフォーラムにて「使えない能力」シリーズとしてUPする予定で……まとめるのに10年ほどかかってしまいました。

 感想などいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させていただきました。SFですから、やはりかまえてます。あれ、主人公は「」がないのに相手が答えていると感じます。女性の質問はテレパシーを確信させました。そして主人公が超能力を使いながら、…
2008/10/06 22:59 退会済み
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