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月神殿の夜

 月神殿の食堂では豪華な夕食が並べられていた。

 明日には最高学年の大半の神殿生は、この月神殿から出ていくことになる。

 この晩餐は、卒業生への月神殿なりの祝福と激励、そして餞別でもあった。

 その、豪勢な食事を目の前に。

 正座で腹を空かせた三人の姿があった。

 リオウ、レイチェ、サリエルの三人だ。

 町での戦闘は禁止。神殿では基本賭け事も禁止である。

 その二つの規則を破った三人は、罰としてこの食事は食べられない。


「リオウすまない。規則でな。義父さんもどうしようもないんだ」


 悲しげな顔でカインが言う。

 常習犯の三人は、最後だからといって見逃してはもらえなかった。

 せめて同じ場所で同じような罰を、とカインが食事を盛った盆を持ってくる。

 当然その盆にはカイン一人分の食事しかなく、三人はカインが食べる様子を間近で見ることになった。 もはや嫌がらせだ。


「試合どうだった?」


 肉にかじりつきながら、同期の神殿生が話しかけてくる。


「午前は歯ごたえがなかった」

「レイチェル一人で3分持たなかったわよ」

「つまらんかった」


 それぞれが感想を言う。


「いや、反省しろって」


 そう呆れ顔のカインは、自分の盆からパンが一切れ盗られたことに気づいていない。


「午後は?なんか盛り上がってたよな」


 別の神殿生が尋ねる。皆、興味津々なのだ。


「すっげぇ楽しかった!」


 レイチェが答える横で、サリエルは他の神殿生からこっそりと肉を取り分けてもらう。


「まぁ、負けは悔しいけど」

「相手が相手だし、そこは仕方ないだろう」


 果物を咀嚼しながら、悔しそうにリオウが悔しげな顔をする。それにサリエルが慰めの言葉をかける。


「どんな相手だったの」


 レイチェはのんびりとお茶を啜る。


「よくわからん」

「強かった」


 ナギとミナトは終ぞ外套を脱ぐことはなく、顔を見せることはなかった。

 わかることなど、少ない。


「明日の来賓の一組だとさ」

「じゃあ明日再開できるかもじゃん」


 誰かが言う。


「難しんじゃないか?来賓も多いし、卒業生もなんだかんだ来るし、その辺の冒険者もわらわら来るし」


 サリエルは否定的だ。

 明日の卒業式典は数ある神殿の中でも規模の大きいものだ。

 誰かと意図せず会うのは困難だろう。


「まぁ、また会えたら運命だろうな」

「なにそれ」


 リオウが笑う。現実主義者のサリエルにしては、随分と珍しい物言いだ。


「たまにはいいじゃないか」

「似合わねーよ」


 レイチェも笑う。

 足は少ししびれたが、空腹だった腹は三人とも満たされた。


「いい話で締めくくろうとするな。誰だ俺の楽しみにしていた氷菓子食べたの」


 さすがにカインも気づいたようだ。

 リオウとサリエルは黙ってレイチェを指さした。



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