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ある兄弟の話2

 なぜ、ここに。

 疲労から動けない、とそう伝え聞いていた。

 けれど目の前には確かに大司祭が立っていた。

 後ろにはサリエルもいる。


「夜半にそんな恰好で。散歩ならご一緒したいものだが」


 ふうわりと笑みを浮かべて、大司祭が言った。

 三人は旅の格好だ。

 これでは大司祭に、ここを出ていく意思を正面切って伝えているも同然だ。

 だが、大司祭の言葉に悪意も害意もない。


「大司祭様」


 少し困り顔のサリエルが嗜めるように声をかける。


「抜け出してきたのがばれると君が怒られるかな」

「はい」

「散歩など」

「もってのほかです」


 サリエルが眉を下げる。

 大司祭には逆らえないが、他の上司達も恐ろしい。

 大司祭の身の回りの世話を仰せつかったサリエルの仕事は、こうして大司祭を出歩かせない監視の意味合いもあった。大司祭も病人なのだ。万が一この外出が影響して体調を崩されたらと思うと、サリエルは 気が気ではない。

 純粋な心配が半分。上司の司祭達が怖いのが半分。

 それとは別に、大司祭の意思を尊重したい気持ちもある。

 もはやどうするのが正解なのか。

 サリエルは悩んでいた。


「ばれたら一緒に怒られよう」


 大司祭はそう言って、またふうわりと笑う。

 言っていることは、結局散歩する意思を曲げていない。芯は頑固なのかもしれない。

 サリエルは一つ、大きなため息を吐く。


「少しだけですよ」

「ありがとう、サリエル」


 大司祭が引く気がないことを知ったサリエルは、譲歩することに決めた。

 損が少ないうちに決めるのが一番だ。

 こうしている時間がもったいない。

 それに。

 サリエルも、本心ではそれを望んでいた。


「それにしても、この封じの術はひどいね」


 三人を部屋の外に誘いながら大司祭は言う。


「シタラ司祭が、一陣を。サノエ司祭が二陣を。ゲーベル教官が三陣をかけているのは確認しています」

「あと二人ほど封術を使っているね」

「貴重な研究材料であるのは確かですから」

「そんなにかけられてたの」


 げんなりした表情でレイチェが尋ねる。


「気づかなかったのか」

「……さっきまでな」


 最早そこまで大々的に魔術を施されていることに気づかなかった自分が恥ずかしい。レイチェは穴があったら入りたかった。


「まぁ、数人は純粋に三人を心配してのことだ。怪我人だから、無理をされては困る、と」

「残り数人は」

「ミナト様の腕を逃してなるものか」

「だよな」


 月神殿の身体に対する探求心は誇らしいが、今回は呆れが勝る。


「最後の一陣は、私だけれどね」


 先を歩く大司祭が言った。


「え」

「え」


 サリエルも知らなかったようだ。レイチェと一緒に驚いた声を出す。


「なんでですか」

「いつの間に」


 疑問は違えど、意外であることは確かだった。


「遠隔で、ちょちょいと」


 大司祭が人差し指を振る。

 大司祭だ。魔術は誰よりも長けている。そういうことも可能なのだろう。


「君達、二人を追いかけるんだろう?正確には、リオウを、かな」


 先を歩く司祭の表情はわからない。

 声は穏やかだった。


「あぁ、答えを聞きに」


 すぐにミナトが答えた。

 繕う意味はない。

 大司祭はすでに知っている。

 下手に隠す方が事態を悪化させる可能性がある。

 レイチェもそれに倣う。


「一発殴りに」

「落とした杖を渡しに、はどうしたんだ」


 レイチェの言葉に、ナギが思わず聞く。


「あ、それもあった」


 最早優先事項が逆になっている。

 あはは、と大司祭が笑う声がする。

 大司祭は良く笑う。

 光のような人だ。太陽のような人だ。


「止めるつもりはないよ」


 振り返らずに、大司祭は言った。


「けれど、話したいこともあってね」


 すこし、待ってもらおうと思ったんだ。

 そう言って、ようやく大司祭は足を止めた。

 振り返る。


「すこし、老人の昔話を聞いてくれないか」

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