ある兄弟の話
確かに、その可能性はあった。
彼等の心情を考えれば、彼等がどのような行動をとるか、いくつか目星はついただろう。
サリエルのような読心の能力を持った者もいる。
これは、この鍵のかけられた部屋は、その対策の一つに過ぎない。
「なるほど」
扉を調べていたナギが呟いた。
「少し力を加えたくらいじゃびくともしないね」
扉は、鍵をかけたうえで、魔術を何重にも施されていた。
ナギの腕力をもってしても、そうやすやすとは破壊できないよう、扉だけでなく部屋全体に、である。
「通風孔も窓もだめだな」
「覆う様に魔術が施されていますね」
他の場所を調べていたミナトとレイチェもため息交じりに言った。
「なんで気づかなかった、俺!」
あぁ、もう!とレイチェは頭をかきむしる。
魔力の気配を感じてもいいくらいの厳重さだ。
気づかなかったのは間抜けとしか言いようがない。
「すみません……お二人とも、お役に立てず」
意気消沈、といった様子で、レイチェがうなだれた。
その様子に、ナギは思わず噴き出した。
「レイチェ、本当に、君は」
そう言って笑う。
「表情がよく変わる。見ていて飽きないよ」
笑いすぎたのか、涙まで浮かべている。
「珍獣みたいな扱いしないでくださいよ」
恥ずかしくなってレイチェが顔を赤らめれば、それもまた、ナギの笑いをさそった。
「しかし、どうするか」
無駄と知りつつ、ミナトが窓を叩く。
「いっそ派手に部屋で暴れれば、扉は開くかもしれないよ」
「何人の魔術師を相手にするかわかったものじゃない」
しかも、傷つけたくはない。
「よほど行かせたくないようだ」
「まぁ、ミナト様は特殊ですから」
主にその右腕が。
研究対象を逃がしたくないのは良くわかる。
「他にも理由があるんじゃないのか」
右腕をぶらぶらと遊ばせながら、なんとはなしにミナトはそう言う。
「他の理由……」
「私に心当たりはないね」
ナギは確かに特殊な治療を受けたわけでもない。身体に異変があるわけでもない。
今回の件に至っては、東の森へ行く動機も、三人の中では一番なかった。強いて言えば二人が望むから、だろう。
冒険者は、仲間と行動するのが基本だ。
ミナトやレイチェが行くならば、当然のようについて行くと、ナギは考えている。
「となると、レイチェは心当たりないか」
「俺ですか?」
言葉を振られて考えてはみるものの、レイチェには特に思いつくようなものなどない。
「ないと思いますけど」
「そうなら、そもそも三人一緒の部屋に閉じ込める理由がわからないな」
「あぁ、別々に部屋を用意して一人ずつ閉じ込めたほうがいいか。他の二人には月神殿
早々に出て行ってもらうっていうのも筋書きとしてはあるわけか」
「じゃあ、三人は同じ理由で閉じ込められてる可能性もあるってことですか」
「そうだねぇ。三人一緒じゃないと意味がない理由っていうのがあるかもしれないよ」
考えても答えは出ない。
三人は寝台に戻って横になりながら、今後のことを考えた。
この部屋から出る方法。
ぐるぐると考えているうちに、不意に眠気が襲った。
夜も更けてきた。
いつもなら寝ている時間だ。
昨日は特に夜更かしをしていたせいで、余計眠気が襲ってくる。
レイチェが眠りの淵に落ちそうになった時。
扉がたたかれた。
来訪者だ。
三人はすぐさま寝台から飛び起きる。
お互いの顔を見合わせ、頷きあう。
「は、はい」
声を出したのはレイチェだ。
解錠の音がする。同時に部屋に張られていた魔術が解除されていく。
「失礼するよ」
そこに現われた人物を見て、レイチェは言葉を失った。
二人も目を見開いて驚いている。
「大、司祭様」
そこには確かに、大司祭が立っていた。




