疾走
「そうは言っても、どうする」
「作戦考えてる時間はない。周囲を警戒しつつ進んで、戻るだけだ。なるべく戦闘は避ける」
「レイチェル、常に予知で周囲を見て」
危険は魔物や竜だけではない。
上から降ってくる瓦礫や、攻撃の余波。
目はいくらあっても足りない。
「時間をかければそれだけ危険は増す」
「光の下に行けなければ終わりよ」
走りながら情報を共有する。
リオウは低空で飛行しながら周囲についていく。
「右上!」
レイチェが叫ぶ。瓦礫が飛んできた。
風がうなり、瓦礫は塵となる。
「露払いはしよう」
ミナトが風の斬撃を飛ばしたようだった。
「援護は得意だ」
前方に立ちふさがる魔物に風穴があく。ナギの弓だった。
「え、それただの弓ですか」
「対して特殊な武器ではないねぇ。若干、固い素材で作られているよ」
ただの弓の威力とは思えなかった。
「剛腕だから、威力があるだけさ」
「より固い、強い弓を引ければ、威力は増す……らしいわよ」
それ以上はこの状況では聞けなかった。
強い、それだけ分かれば十分だ。
先頭にミナトとサリエルが、続いてレイチェとリオウ、ナギが続く。
「サリエルが一人、レイチェは二人抱えて走れるわね」
リオウが言う。
「多分な」
「問題ない」
「下級生を抱えたあんたたちは、きっちり守るわ」
荷物が増えれば動きは鈍くなる。
魔術もろくに使えず、二人はただ走るだけだ。
「先に行って待つ」
リオウがすい、と先に出た。
自分たちと同じように、神殿生達も危険にさらされている。戦力として、神殿生のもとに行くべきだ、とリオウは判断したのだ。
集団で動くのは安全が増すが、その分遅い者に合わせる必要もある。
「気をつけろよ」
サリエルが言う頃にはすでに離れた場所にいた。
「一人で行かせて大丈夫か」
ミナトが聞いた。
「問題ないと思います。数秒しのぐくらいには」
「リオウは強い」
魔術師の二人に、彼女への心配はない。
現に魔物の隙間を縫って、リオウは神殿生のもとへたどりついていた。
後を行くレイチェ達の足元には、魔物の死骸がいくつかあった。
彼女が行きがけに殺した魔物達だ。
「下級の魔物が先陣か」
死体を一瞥してミナトが言った。
魔物側も魔物なりの秩序をもって動いているらしい。
「ならしばらく問題ない…な!」
レイチェも襲い掛かってくる魔物を杖で殴る。
「魔術師らしくないな、お前は」
サリエルがその魔物にとどめを刺した。
「なるほど、強い」
そう言いながら、三匹の魔物を切り伏せたミナトは、まだ刀を抜いていない。
彼にとって、ここはまだ死地ではないらしい。
「無事か!」
神殿生のもとへたどり着くころには、サリエルもレイチェも息が上がっていた。
リオウの頬からは血が垂れている。
「リオウ」
「返り血よ」
「早く拭け、火傷するぞ」
魔物の血にも、鉄は含まれている。
リオウの足元には、血だまりができていた。
合わせれば5匹以上、彼女は一人で相手をしていたようだった。
「下級の魔物で助かった」
そういう彼女の息も荒い。
「彼らも頑張ったのよ」
床に震えて座り込んでいる三人の神殿生を指す。
「レイナはこの場の上級生として、二人を守った」
「下級生の二人もレイナの指示に従えた」
レイナは自分の使える魔術の中で、障壁と風の隠匿の魔術を行使していた。
姿を隠すことはできないが、匂いと音を消すことのできる中級魔術だ。本来は他の隠匿魔術と併用して完全に存在を隠すことを目的とする魔術だが、彼女がそれを選択したのは正解だったといえるだろう。
魔物の中には、匂いや音で得物を見つけるものもいる。それらの魔物からの襲撃を避けられる、それだけでも危険度は下がる。
「よくやった」
「もう大丈夫」
声をかけながら、レイチェとサリエルが抱きかかえる。
時間がない。
光が閉じる前にたどり着けるかどうかの瀬戸際だった。
「二人に負荷をかけるわ」
リオウが運動能力を底上げする強化魔術を二人に同時にかける。
「前も後ろも、気にせず走って」
行きとは比にならないほどの魔物の群れの中にいた。
魔物達は前進してきている。
まだ下級の魔物が大半だが、時がたてばこの場には中級の魔物、上級の魔物であふれることになるだろう。
前も後ろも、ほぼ囲まれているようなものだ。
今でもミナトとナギが魔物を倒しているが、一向に減る気配はない。
あちらこちらで戦いの音が聞こえた。
月神殿の司祭たちと、魔物が戦っている。
「いいわね」
リオウが念押しした。
「おう」
「わかった」
頷く。議論の時間はない。
時間との勝負だった。
「ナギ様、あの魔物へ向かって矢を」
「はいよ」
ナギが弓を弾く。
はじかれた弓が合図だ。
「走れ!」




