とある日の
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すでに、マグネット、というサイトにて同タイトルで完結済みの作品を転載します、
その出会いは、きっと――
春先の町はまだ肌寒い。
けれどこの一角だけは、異様な熱気に包まれていた。
「南の地からの旅人、拳闘士スワロ!」
少年の声に、方々から歓声が上がる。
石造りの舞台に立つ男は天に拳を突き出し、自らの存在を観衆に向けて誇示する。
筋骨隆々という言葉がそっくりそのまま当てはまる体躯をした男だった。
突き出された拳は大きく厚く、その拳で幾度かの修羅場をくぐってきたのだろうということが容易に見て取れた。
「対するは……」
少年はもったいぶって、少しの沈黙を挟む。
「この町の人間ならばお馴染み、他所からの人は見て行って損はないよ!」
ゆっくりと壇上に上がる二人組に、観客は期待に騒めく。
黒い外套を羽織った二人組が壇上に立つ。
一方はそれなりの体格をしているが、もう一方はゆったりとした服を着ていてもわかる小柄な体つきをしていた。
この二人が、今から拳闘士と戦うのだ。
その明らかな対格差に、初めて二人を見る者は不安げな顔を見せる。対照的に二人を知っている者たちは、期待を込めて二人の名が呼ばれるのを待っていた。
「月神殿在籍、神殿生魔術師レイチェ、リオウ!」
少年の言葉に、堰を切ったように歓声が沸き起こる。
外套を脱いで現れたのは少年と少女だった。
対戦相手のスワロが苦い顔をする。不満げな顔だった。
「待ってくれ。二対一はいいが、まだ子どもじゃないか」
子どもとは戦えない。そう、その表情は語っていた。
「侮ってはいけませんよ」
司会の少年は笑いながら言う。
「彼らはこの一年、負けなしです」
人差し指を立てて、少年はなおも続ける。
「この町に来た旅人との賭け試合、神殿内の祭典試合。まぁ、神殿においては、上には上がいるものですが……」
何かを思い出したのか苦笑する。
すぐに咳払いして、とにかく、と話を続ける。
「私は彼らが試合で負けたところを見たことがない」
「だとしても……」
「一度くらい、見てみたいじゃないですか」
にぃ、と人の悪そうな笑みを浮かべる。
「彼らが敗北するところを」
だからあなたを選んだんですよ。
それはスワロの拳闘士としての心を揺さぶる。
「降りてもいいですけど」
無理強いはしない、とあっさりと階段を指さす。
しばしの逡巡の後、スワロは拳を握った。
「いや、やろう」
その目は闘志に満ちていた。