ボルヘスのいざない
社長が失踪した翌日。
私は自宅近くの公園で、ベンチに腰を下ろしていた。
陽はまだ高く、砂場やブランコでは夏休みを満喫している子供たちが、はしゃいだ声を上げて遊んでいた。
母親たちの訝しい目線が時折こちらに刺さるが、それもちょっとの事で、すぐにママさん同士のお喋りに花を咲かせる。
『藤田君、今日は早退しなさい。もし体調が戻らないようだったら、総務課に連絡して、産業医の先生を紹介してもらうように』
課長の怒りを堪えた声。
同僚たちが遠慮がちに向けてくる、奇妙な虫を見るかのような目線。
その全てが私の心に容赦なく突き刺さった。
思い出す度に背筋が粟立ちそうになり、私は無心で、すっかり温くなった缶ビールを喉奥にぶち込んだ。
胃袋に生暖かいガスが溜まるのを感じる。
軽くゲップが出た。
急に可笑しく思えてきて、私は笑いを噛み殺した。
自分でも分かる。
それが、恐怖に耐え忍ばんとする笑いだってことぐらい。
村神社長は消えてしまった。
あの日トイレに行くと言ったきり、二度と連絡を取ることができなくなった。
それだけでなく、彼の存在そのものがこの世界から消えてしまったのだ。
今朝の話だ。
出社してパソコンを立ち上げ、社長から送られてきたメールの宛名を見て絶句した。
社名は『高宮ガラスプラント』になっていた。
メール履歴を振り返ってみても、村神社長の名前はどこにも存在しなかった。
それらは全部、高宮さんに置き換わっていた。
まるで、昔からそうであったかのように。
私は徹底的に確認した。
村神社長はどこにいるのか。
あの人はどこに消えてしまったのか。
課長にも係長にも先輩にも後輩にも同期にも確認した。
それを知っている者はただの一人もいなかった。
どころか、村神社長の名前を耳にしたことなどないと、誰も彼もが口にした。
あれと同じ状況だった。
社長の奥さんが消えた時と。
それをどうしても認める訳にはいかなかった。
信じたくなどなかった。
自分の身近なところで、とんでもなく恐ろしい怪異が息を潜めているかもしれない可能性を。
課が管理しているファイルというファイルを根こそぎ調べた。
どこかに社長の名前があるはずだと信じて。
それでも見つからなかった。
高宮さんに電話した。
向こうは私の事を覚えていたが、社長の名前を出すと、そんな人は最初からウチにはいない、この会社は自分が先代から譲ってもらって、その時に社名を変えたのだと言っていた。
課長に向かって全員のパソコンを調べさせて欲しいと口にした。
メールでもなんでもいい。
とにかく村神社長の名前を確かめないことには、仕事もままならないと主張した。
『君! いい加減にしてくれよ!』
普段は物腰柔らかい課長が見せる、珍しい怒気。
その迫力に当てられた私は、身を固くさせるしかなかった。
『ウチは、その村神さんとか言う人に組み立てを頼んだことなんて一度もない! ずっと高宮さんのところにお願いしている。それは先月に工事をやってもらった君も分かっているだろう!? 下らないことで、みんなに迷惑を掛けるんじゃない!』
違う、違うんですよ課長。
村神社長は確かにいたんだ。
あなただって、ずいぶん世話になってきたじゃないですか。
なのに、どうして。
社長の名前も顔も、忘れてしまえるんですか!
頭の中が麻痺してしまって、うまく口が回らない。
言葉を発しようとするたび、胸の奥が痛くて仕方ない。
遺憾と恐怖の感情が、とんでもない勢いで攪拌されていく感覚があった。
恐ろしいほどの勢いで意識が圧迫され続けていった。
首が真綿で締められるように、息苦しい。
『藤田君、今日は早退しなさい。もし体調が戻らないようだったら、総務課に連絡して、産業医の先生を紹介してもらうように』
ベンチに座りながら、ぼうっと宙を見つめ続けた。
村神社長は失踪……いや、神隠しにあった。
誰に何を告げるでもなく、急に私の世界から消え去った。
彼がこの世界にいたという事実を知っているのは、きっと私だけなのだ。
「藤田さん、ですよね?」
急に名前を呼ばれて、私は驚いて隣を見上げた。
鞄を手に下げた、見知らぬクールビズ姿の男が立っていた。
無精ひげを生やし、髪も明るく茶色に染め、ピアスまでつけている。
どこか軽薄そうな印象を覚えた。
年齢は見積もって三十半ばと言ったところだろうか。
少なくとも、私よりも年下ということはなさそうだ。
「探しましたよ。藤田さんで、間違いありませんよね?」
「は、はい。そうですけど……貴方は?」
私が尋ねると、男はスーツのポケットから名刺を取り出してきた。
『鷲宮誠二』という名前の下に『フリーライター』とある。
随分と手作り感のある名刺だった。
「雑誌記者の方ですか?」
「そういえば聞こえはいいですがね」
鷲宮さんは苦笑いを浮かべると、どっかりと私の隣に座ってきた。
不躾というか、遠慮がないというか。
「ぶっちゃけると、妖怪とか心霊とか、そういった現代の科学では解明できない不思議現象に関する記事を書いているんですわ」
「心霊……」
心臓が妙に跳ね上がった。
その時の感情が顔に出ていたのか、それとも記者としての勘が働いたのか。
鷲宮さんが好機を得たとばかりに口角を上げた。
「今、とある『本』に関係した怪異を追っているんですがね……その件に関して、ちょっとお話を伺いたくて、探していたんですよ」
「本?」
「や、まどろっこしいのは止めにしましょう。口で話すよりも、実際に見てもらった方が、話も早く進む」
鷲宮さんは手に持っていた鞄から一冊の本を取り出した。
呆気に取られて、すぐには言葉が出てこなかった。
「この本に、見覚えがあるはずです」
決めつけるような口調だったが、確かに彼の言う通りだった。
これ見よがしに鷲宮さんが差し出してきたそれは、私が昨日の晩に社長から見せられた、あの不気味な本であった。
「どうして……これを、貴方が?」
「ああ、勘違いなさらないで。これは『調査証拠』として、他の方からお譲りいただいたものです。あなたのお知り合いの方が持っていたものではありません」
「社長のこと、ご存じなんですか!?」
思わず身を乗り出して問い質すと、鷲宮さんは困ったように被りを振った。
「落ち着いてくださいよ。知り合いがいなくなってしまって気分が安定しないのは分かりますが、ちょっと待って。最後まで私の話を聞いてください」
鷲宮さんに宥められて、私は浮かしかけていた腰を、再びベンチに下ろした。それを見計らうかのように、彼は口をきった。
「さっきも言ったように、私は今、この本に纏わる怪異を調査していましてね。無論、記事にするために。それでこの本なんですが、どうも同じ装丁の奴がいくつもあるらしいんですわ。で、決まってこの本を手に取った人は、それからしばらくして失踪してしまう、なんて話がありましてね。まぁ都市伝説みたいなものなんですが、実際に調査してみると、どうも本当のことらしくて」
「じゃあ、村神社長と似たような目に遭った人が他にも?」
「村神社長と言うと、貴方がお世話になっていた下請け業者の人ですね?」
「はい……」
「そうですか。なるほど、そりゃ確かに気分も優れない訳だ。いや、貴方だけじゃなくて、神隠しに遭った人の関係者全員が、そんな状態なんですがね。厄介な事に、まったく事件性も何もなしに消えてしまうもんですから、こっちの調査手段も限られてきてしまっていましてね。それにもう一つ奇妙な点がありまして」
「記憶が無くなるんですよね? 付き合いのあった人の記憶から、当人が存在していたって事実が」
「そうそう。それも全員じゃなくて、まるで証人を残すように何人かはしっかりと記憶がある。貴方のように。それが実に不可解でしてね。調査は基本的に聞き取りですよ。神隠しに遭った人と関わっていた人からの。といっても、大抵は一人か二人ですから、あんまり進まなくて」
鷲宮さんが、ふと目線を宙へ向けた。「たしか昨年の暮れから調査を開始したから、かれこれ八か月近いですか。それまでに同じような体験を為された方、三十六名それぞれの関係者に接触して、当時の話を聞いてきました」
「三十六名!? そんなにいるんですか!」
「その三十六人全員が、失踪直前にこの本を手に取っていた。そして、人から人の手に渡っていたのを、私が突き止めて回収したと。そういう話です」
ぴしゃりと、鷲宮さんが掌の甲で本の表紙を叩いた。
コイツが全ての元凶なのだと主張するかのように。
次になんと続けて良いものか、直ぐには出てこなかった。
しばらく沈黙が訪れた。
遊んでいたはずの子供たちは、とっくにどこかへ行ってしまったようだ。
母親たちもいない。
私たちを除いては、人っ子一人として存在しない、だだっぴろい近所の公園。
「……本当の話、ですよね」ごくりと、唾を飲み込んでから言った。
「ええ」鷲宮さんは即答した。「全て事実です。というか貴方自身も体験者なんですし、何も疑う事などないのでは?」
「そうは言っても……やっぱりまだ半信半疑ですよ。神隠しなんて、科学的じゃない。だいたい、その本は一体何なんですか? 雑誌記者さんなら、当然そのあたりも目星がついているんですよね?」
「ええ。藤田さん、ボルヘスってご存知ですか?」
「ボルヘス?」
「ホルヘ・ルイス・ボルヘス。作家ですよ。アルゼンチンのね。神とか宗教とかをモチーフにしつつ、人類世界を超越した不可思議な出来事を、幻想小説風に書き上げた人です。若い頃に一度、生死を彷徨うほどの大怪我を負ったんですが、そこから快復して以降、人が変わったように創作活動に打ち込んで、傑作を生み出してきた方でして。彼の作品は和訳されていましてね。大規模の書店なんかに行くと、見かけることが多いかもしれません」
「あの、実在の人物ですか?」
「そうに決まってるじゃないですか。まぁ、もうとっくに亡くなってますがね。それで、そのボルヘスが遺した作品の中に『幻獣辞典』って作品がありましてね。遺したとは言っても、他の作家さんとの共著なんですが」
「その幻獣辞典ってのが、どうかしたんですか?」
「コイツの表紙を見てください」鷲宮さんの太い指が、これみよがしに本のタイトルをなぞった。
「何やら黒いインクで、よくわからん字が書かれていますよね?」
「はい。英語なんでしょうが、達筆過ぎてとてもじゃないけど、読めません」
「いや、実はね、これラテン語なんですわ」
「はぁ、ラテン語」
「解読してみたら驚きました。本のタイトルは『幻獣辞典』で間違いない。藤田さんコイツはね、実は今も書店で取り扱われているんですよ」
「はい?」
それはつまり、この不気味な装丁の本が、ごく当たり前のように、日常の中に存在しているということだろうか。
いや、幾らなんでもそんなことはないだろう。
だが、普段そんなに本を読まない自分には、鷲宮さんの言葉が真実であるかどうかを見極められない。
「あぁ、すいません。ちょっと語弊がありましたね」
私が困惑していると、鷲宮さんは、なぜだか少し面白がるように口角を上げてきた。
「ボルヘスの『幻獣辞典』が、書店で取り扱われてるってのは間違いありません。ただしそれは、他作家との共著版です。それとは別にもう一種類、あるんですよ。『幻獣辞典』が。それはボルヘスが誰の力も借りることなく、己自身の知識と想像力で書き上げた代物です」
「それが、この本だと?」
「文献を調べて突き止めたんです。ボルヘスは生前、知人の作家に対して『私は現代の魔導書を創りたい』と、よくそんな事を話していたそうです。簡単に言えば『呪いの本』ですね。読んでしまった人に、何かしらの悪影響を与える類の」
「なんですか、それ……」
空想の産物に過ぎないと鼻で笑うのは簡単だろうが、私にはできなかった。
生死の境を彷徨った挙句、驚異的な創作力を身につけるに至った作家。
そんな体験をした人が『魔導書を創りたい』などという狂った願望を抱いていても、何もおかしくはないのだろう。
別に意識などしていない。
それどころか、気味の悪さを覚えてどうしようもない。
なのに、私の視線は吸い寄せられるように、ボルヘスの魔導書へ釘付けになってしまった。
鼓動が妙なリズムを刻んでいた。
前傾ぎみの姿勢のまま、私はおずおずと鷲宮さんに尋ねた。
「あの、あなたは、その、読んだんですか? この本の中身を……」
「まっさか。見るはずありませんよ。こんな、装丁に人の皮を使っている恐ろしい本の中身なんて?」
「はい!? 人の皮!?」
「おや、知らなかったんですか?」鷲宮さんは本の表紙を、まるで慈しむかのように、じっくりと撫でながら言った。「手触りから見るに、どう考えもこれは人の皮ですよ。だから年月の経過と共に、こんな風にしわくちゃになっているんです」
「人の……皮……」
それを知った途端だった。
目の前に映る本が、今までよりも増して、不気味極まる存在に思えた。
決して視界になど入れたくない。
強まる忌避の感情に流されるように、私は本からすぐに視線を外した。
「大体、読んだら神隠しに遭うんですよ?……まさか藤田さん、読まれてしまったんですか?」
「いえ、気味が悪くて……昨日の夜、家に帰る途中のコンビニで捨ててきました」
「え!? お捨てになられた!?」
鷲宮さんは額を手で一発叩くと、ベンチに背中を預けて、残念そうに顔をしかめながら天を仰いだ。
どこか、芝居がかった仕草に見えた。
「なんてこった。実はそいつを回収したくて、わざわざ貴方の住所を調べ上げて、こうして接触したんですよ。まいったなぁ。どこに捨てられました?」
家の近くにあるコンビニの場所を口頭で伝えた。
鷲宮さんは急いだ様子で本を鞄に仕舞うと、ベンチから腰を上げようとした。
「あ、あの、どこへ?」
「決まってるじゃないですか。回収するんですよ、貴方が捨てた本を。もしまた人の手に渡ったら、とんでもないことになるじゃないですか」
「あ、ああ、そう……」
「それじゃあ、失礼します」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
その場を去ろうとする鷲宮さんを、私は慌てながらも呼び止めた。
彼に伝えておいた方が良いと思った情報があることを、今さらながら思い出したのだ。
「実は……」
私は多少どもりながらも、村神社長にしたのと同じように、あの日の晩のことを鷲宮さんに話した。
ビジネスホテルで見かけた、あの得体のしれない女性の話を。
その目的不明で近づいてきた彼女が既に亡くなっているという事実も含めて。
社長が失踪したのには、絶対に彼女が関わっているはずだと、そう付け加えもした。
「すると貴方は、社長が神隠しに遭う直前に、幽霊に出会った訳ですか」
「幽霊……やっぱり、そういうことになるんですかね」声が少し震えた。「幽霊なんて……そんなもの、世迷言だと思っていましたが……」
「私は仕事柄、色々とおかしな現象に遭遇しているから言えますがね、やっぱり、いますよ幽霊は。ちなみに、どんな容姿の方だったんですか?」
興味津々と訊いていたので、今でもしっかり脳裡に焼き付いている、あの不気味な女性の容貌を伝えた。
話しながら、相手の表情を伺う。
意外なことに、鷲宮さんの顔色が、みるみるうちに青ざめていくのが分かった。
「どうかされました?」
オカルト系の雑誌記者ならこの手の話は聞き慣れているだろうに、なぜか鷲宮さんの顔には動揺の色が広がっていた。
「あぁ……いや、なんでもありません」
苦笑いを浮かべて、別れの挨拶もそこそこに、鷲宮さんは公園を後にした。
私だけが、だだっ広い公園に残された。
どこからか蝉の鳴き声が聞こえてくる。
蒸し暑さは相変わらずだし、下着はじっとりと汗を吸い込んでいる。
だというのに、心は寒気を覚えていた。
視線を手元の名刺に落とす。
フリーライター。
妖怪や心霊、不可思議な現象の謎を追い、記事にする。
それが仕事だと、鷲宮さんは言った。
私と彼が住んでいる世界とでは、何もかもがまるで違う。
私はただの凡庸なサラリーマンだ。
怪奇や怪異と縁を結ぶつもりなど、当然ない。
人の皮で造られた魔導書。
そんなものが目の前に突然現れたとしても、決して関わってはいけない。
「(社長のことは、もう忘れよう)」
今の、平凡だけれども平穏な日常を死守するには、社長には悪いけれどそれしかない。
自分の世界に、これ以上現実離れした現象が介入してくると想像するだけで耐えられなかった。
胸の奥で、すとんと何かが落ちた感覚があった。
あれだけ知りたがっていた社長の行方も、なんだか今はどうでも良かった。
男は公園を出てしばらく歩いたところで電柱の陰に隠れると、鞄から携帯電話を取り出した。
「もしもし、俺だけど……ああ、言われた通り、藤田さんにはちゃんと接触できたよ。こっちが色々話してやったら、すっかりビビっちまったみたい……うん……ははっ、それは叔母さん、大丈夫だよ。あれは小市民だね。典型的な。自分の世界を壊されたくなくて、必死なタイプ。だからこれ以上、村神の件には関わらないだろうね。
え?……これで、妹の無念も晴らされるって?……まぁ、そうだね……村神のところの奴らは全員消した……ああ、いや、あの魔導書に書かれている通りに言うと、『自分のいるべき世界』に帰ったんだから……足萎えのウーフニック、だっけ? いやいや、本当に叔母さんの力には頭が上がらないよ。俺も正直半信半疑だったんだけど、本当に読むだけで効果が発揮されるものなんだねぇ……
でもさ、叔母さん、もし妹……秋江叔母さんが生きていたら?……ちょ、ちょっと! そんなに大声で喚かないでくれよ……いや、うん、ごめん……
たださ、ちょっと藤田さんが妙な事を言っててさ……いや、見たって言うんだよ。秋江叔母さんのこと。先月くらいに、与野の方にあるビジネスホテルで。なんか、村神の若造が泊ってる部屋の前で、じーっと立ってたしいよ。『足が萎える』とか言ってたって……だよねぇ。ありえないよなぁ……あれかなぁ、もしかして叔母さん、俺達のやる事、あの世で見ていたのかも……
え? 応援してくれたんじゃないかって……うん、そうだね。村神の奴ら、死んで当然さ。秋江叔母さん、先代の社長の子供を身籠っていたのに、あの若造社長、世間的にまずいから中絶しろなんて、よく抜け抜けと言えたものだよ。先に手を出したのはテメーの親父だろってのに。そのせいで秋江叔母さんは……ああ、ごめん、思い出させちゃったね……でも、俺、今は凄く気分がいいよ。優しかった秋江叔母さんの為に、仕事出来たんだから……
え?……ああ、うん、今日はそっちに泊る予定だよ……そうだな、五時ぐらいかな。いや、ちょっと藤田さんがあの本を一冊捨てちゃったみたいで。もう一冊はちゃんと俺が持ってるよ……え?……回収したらちょっと寄って欲しい場所がある? どこ?……あぁ、中山の……うん、そうだね。あの意地汚い金貸し野郎にも、そろそろ消えて貰わないとだね……分かった。ちょっと車でひとっ走りしてくるよ。夜までには帰ってくるから……じゃあ、切るね……うん。俺もだ……愛しているよ、叔母さん」