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特許系エッセイシリーズ

最新の技術を駆使した加工食品はもはや錬金術の領域

食品の進化の歴史において最も重要なのは「その食品を形成する物質がどんな影響を与えうるか」という研究である。


しかもその研究は様々な方向性から日夜行われていて、食品にもフィードバックされているという解釈が正しい。


例えばある物質が病気や疾患を発生させうるものだと特定する上では、食品分野の研究ではなく医療分野の研究でもあるわけだ。

アレルギー物質、発ガン物質、その他諸々、人の健康に悪影響を与える直接的原因を突き止めることは長寿社会を生み出すだけでなく「最終的には先進国でどうしても障害となる医療費の抑制」にも繋がる行為なので目を背けられない分野である。(ただし、その努力が目に見えてわかりにくいのでなかなか評価されない)


さて、食品の進化といって欠かせないのは近代におけるビタミンなどの一連の栄養素の発見である。


19世紀頃においては、これまで「特定の食品を食べると特定の病気にかからなくなる」だとか「特定の地域では非常に健康体が多く長寿である」だとか「特定の職務の人間はやたら不健康の者が多く、その職業において職業病のようなものがある」だとか噂や言い伝え程度のものだったものに本格的にメスが入り、次々に特定されていったのだ。


これがほんの100年ちょっと前でしかない。


それまでは本当に「これは万病に効く薬です!」などと言えば信じられた時代があったわけだ。

まぁ正直なところ、戦後すぐ後の1960年代ぐらいまでは引きずっていたが。


例えば「ラジウム水」とかいって本気で危険な放射性物質を混ぜた水が本気で販売されてたりした。

しかも「健康食品」として。

飲めば健康になる!ということであるが、当然にして「体調不良どころか深刻な健康被害」を出して発売中止になった。


どこぞの「Fallout」シリーズのゲームで放射性物質を含んだコーラが販売されていたという事例があるが、割と冗談抜きでこれも筆者が知らないだけで実例がありそうなのが怖い。


それから40年以上を経て、21世紀に入った現在は研究者達の努力によって多種多様な成分や要素の効力が突き止められたが、それらがフィードバックされる方法はあくまで「この食品は健康にいいです!」というぐらいでしかなかった。


その状況が大きく変わったのは2つの事柄が関係している。

1つは遺伝子組み換え食品である。

厚生労働省が推定する限り、2016年の段階で日本人が食する食物のうち約5割が遺伝子組み換え食品である。


これらは前述する成分関係の研究などにより、文字通り他の遺伝子や物質を遺伝子的に組み込むことで病気の耐性を高めたものだけではなく、特定の成分を過剰に投与させたりしたことで「突然変異によって遺伝子的に変貌してしまった」存在も含んでいる。(人為的に遺伝子組成が変わってしまうような方法がある)


こういった存在は1990年代にその危険性が指摘され、「遺伝子組み換え食品は使っておりません」なんて表示もあったりしたのだが、残念ながら「もはや境界線が曖昧すぎてどこまでが遺伝子組み換えなのか判断できない」ということで厚生労働省もいつからか「推定」という言葉を用いるようになった。


こうなった要因は前述する通り、特定の成分、物質が特定の働きをすることを突き止めた結果、それらを用いることで遺伝的変貌を促して生み出したものも「遺伝子組み換え」と判定されたことによることも大きい。


一見すると組み替えでないように思えるが、突然変異を促すような物質を突き止めて任意で引き起こし、しかもその突然変異による変貌が狙った変貌へと誘導させるというのは各種成分、物質の研究あってこそ行えるものであり、しかもそれが日本においてですら「お米や落花生など多種多様な国産農作物ですら」それまでの品種改良作業に組み込まれたことで余計に曖昧になってしまった。


(元々、品種改良とは突然変異が起きるまで何度も作業を繰り返すといったことが行われていたりするモノもあるので、この方法が一概に危険であるという事はいえないというか、その突然変異が起こる要因を突き止めたというのがここでの解釈として正しい)


これは余談だが、この成分関係の研究は農薬の発展にも繋がっている。

技術系の人間ならよくご存知だとは思うが、1990年代を境にしてこういった研究によって農薬は「危険な化学物質」から「天然素材の中で特定の害虫だけに効果を発揮する成分抽出したもの」などに置き換わるようになった。(全てではないが、日本ではかなり広範囲にわたって置き換えが進んでいる)


従来の農薬も引き続き用いられる一方、ブランド品などにおいては積極的にこういった「天然素材」などの農薬が用いられている。

これらは無農薬野菜と称して辛子や生姜などの辛味成分などを害虫駆除剤として用いるのとほぼ同じやり方であり、その延長線上にあると言っていい。


最近の農薬は凄いんです!と農水省は自負するが、これらもまた「その成分がどういう効力を発揮してどういうものなのかを突き詰める研究」というものが着々と進行しつづけているからである。


ただしコレについても「天然物だから安全なのか?」といった疑問は残されており、日々これらについて「大丈夫だ」と証明するための研究は継続されている。


「最近遺伝子組み換え食品は使ってないという表示が消えていたな・・・」と思ったそこのアナタ、もうそういうのは防げない時代ですから!残念。


さて、もう1つ状況を変えた存在というと、「抽出した成分を用いて人工的に天然物と同じようなものを組成したもの」という食品業界で最近盛んに取り組まれている21世紀の試みの方が関係している。


これまで「成分を抽出して組み合わせて特定の効果を発揮するようにした食品」というのは、医薬品に近い「栄養ドリンク」のようなものしかなかった。

他にもダイエット食品と証したモノとかぐらいであった。


これらは特定のモノから栄養素などの一連の成分を抽出し、それらを組み合わせて作り上げた加工品である。


しかし21世紀最新鋭の加工食品はそんなレベルでは済まない。

「特定の成分を抽出し、天然物と文字通り同じモノを作る」とかいう、なんかこう、魔法陣か何かが必要になりそうなモノである。


基本的には飲み物が多いが、果汁0%なのに実際には果汁を含んだのと同じような状況になっているものとか、最近話題にな透明なミルクティーとかが最たる例だ。

透明なミルクティーに関して言えば「人間がこれは牛乳」と感じる成分だけを抽出したら実は「白くない」ので、色が透明で同じく「お茶」と感じるような成分を出す紅茶を利用して作り上げたもので、


正直言えば「最新鋭技術を駆使した技術者のオナニー」に近い存在ではあるが、例のレモンティーとミルクティーは双方ともに「成分抽出しただけ」でそれらの果汁や乳成分を直接使わないで再現するという試みは面白いと共に怖くもある。


我々が知らないところでこういった方法による加工食品の生成はすでに始まっているわけであり、見方を変えれば「警笛」とも判断できる。


それはさておき、ここ最近筆者が気になったモノといえば、「大麦酵母を利用して糖分の乳化を発生させ、アイスクリームなどを作る」といった殆ど錬金術にしか感じない類の存在である。


大麦を用いたお菓子類というと、九州地方の者なら「ああ、大麦の麦芽を使った麦芽水飴か」と思うかもしれないが、作り方がやや異なる。


上記は「大麦酵母」をそのまま用いるので、沸騰させず30度~50度程度の「大麦酵母が活動的になる温度を維持し、糖分と油分を乳化させてしまう」という方法だ。


大麦酵母が特定の温度において糖分と油分を分解し、乳化させることを長年の研究で突き止めた九州の囲う食品工場が見出した技術である。


これは本当に極最近になって発表されたものだが、研究目的は「大麦の可能性を長年探ってきた結果」であり、元来は酒などでしか使われなかった大麦に新たな可能性を見出そうとした結果、30年近く研究してようやく辿り着いたものである。


作り方は簡単に言うと「大麦酵母を抽出して、特定の糖分と特定の油分を用いて成分分解(発酵ではない)させ、それを用いて生まれた成分を二次加工することでアイスクリームなどにすることが出来る」というもの。


これが本当に「ただのアイスクリーム」なので、言われなければ「これが牛乳を一切使わないもの」といわれてもわからない。

ココナッツミルクなどを利用した「擬似アイスクリーム」などとは一線を画す。


発明したメーカーは「代替食品」として位置づけられているが、牛乳アレルギーがアレルギー症状を起こす物質を含んでいないアイスクリームであるため、こういったアレルギーを持つ子供などにアイスクリームを提供できるようになるという非常に夢のある存在だ。(特許出願済)


ちなみに弱点としては「麦アレルギーの者はアレルギー症状を起こす可能性がある」ということだが、上記のアイスクリームは「牛乳と麦の双方でアレルギーを発症してしまう者」以外に希望を与えるものではある。


ちなみにこの大麦酵母の利用、元は「大麦だけで小麦を超える甘さを発揮したパンを作れないか」というところから始まったらしい。


パンは大麦を少量混ぜ込むものもあるが、大麦オンリーだととてもまともに食べられた物にはならないため、それを成立させようとした結果、さらなる可能性を見出されたものであるという。

どっかの姫様がそれを知ったら。


「小麦の不作でパンが食べられない?小麦がないなら大麦で作ればいいんじゃない!」と言える時代になったわけだ。


当時そんなことを言えば間違いなく暗殺されたであろうが。

興味のある人は調べてみると面白いかもしれないが、その技術を使って転生してアイスクリーム屋になるなんて安易な発想はしないように!


必要となる糖分と油分もまた割と特殊なものを使っているから「砂糖を使えばいいのだ!」とならんからね!(てんさいから特定の成分を抽出したものなどが必要)


最期にまとめとなるが、今後こういった錬金術のような加工食品は増え続けると厚生労働省と農水省は予測しており、止めることは出来ない。

まあ日本人は健康に気を使う割にその成分が本当に安全かどうかなんて気にせず、とりあえず「安全といわれたら安全だろう」と思ってしまう人達なので案外どうでもいいのかもしれない。


結局、あれだけ騒がれた遺伝子組み換え食品もすでに「日本人が1年に食するもののうち5割は組み替えられたもの」という状況だからね。


筆者としては「○○という成分が健康に良い」とか言われても、各社、億とか超とかそんなレベルで存在する成分の1つだけを列挙して「健康に良い」なんていわれても心に響いてこないが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今の技術を良く調べ上げまとめて有りますね。 個人的にこの手の豆知識は大好物です。 [一言] 飲食業に従事して居るのでとても参考になりました。食の安全について考えさせられます。
[一言] 九州の囲う食品工場 誤字でたぶん →九州の加工食品工場
[一言] なかなか興味深い内容で面白かったです。 私はサプリとかは、あまり信用していませんが、 1型糖尿病とか実質不治で食事制限が必要な人には錬金術の必要性が高いでしょうね。
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