先輩
「おい!早うせんか!」
おっと。今日は当主さんの機嫌が悪いみたいだ。今日は何人殺されるかな。
「おい!そこの8番!もういいわい。お前は死んどけ。6番。殺しておけ。」
「はい。当主様。」
うわ~。ついに今日殺さなくちゃいけないのか。嫌だなぁ。俺の炎が消えちまうじゃんかよぉ。
この世界での俺の心の中にある炎。罪にない人を殺すとこの炎が小さくなって大幅に体力や魔力が減ったり、凍えそうになったりするらしい。まだ殺しはしていないからわからないけど神様の言うことだしおそらく本当だろう。もちろん善い行いをすれば炎が大きくなったり色が変わったりしてその分恩恵を授かることができるのだけれど。
今の俺の炎はザ・炎って感じの色でオレンジ。大きさは最初に比べると大きくはなったが、なにせ奴隷として暮らしているから特に善い行いってのも見つからない。更に言うなれば、俺は元殺し屋で善い行いってのがどんなものなのかってのに疎い。結構きついんだよなぁ。
「おい6番!早よ殺してこい!処刑場でだぞ。俺はこれからガカルディア王国の姫さんと会うんでな。一人で行ってこい。」
「はっ!ただいま!」
俺は8番。正確には7-8番を連れて処刑場へ向かった。
「先輩。調子悪いんすか。いつもならあんなへましないでしょ。」
俺はこの人とは仲がいい。先輩としていろいろ教わった。結構いけてる顔なのが少々腹立つが、結構頭が切れるし今のところ唯一男でしゃべるのが楽しいと思える人だ。
「あ、あぁ。昨日飲まされた薬が体に合わなかったみたいで朝起きたら足元がふらつくんだ。」
「あの薬ですか。あの当主もそろそろやばいですよね。最近どんどん薬の量が増えてますしね。」
「そうだな。でも俺はあいつとはおさらばだ。清々するぜ。ごめんな。先に死んじまって。」
「・・・本当に死にたいんですか?望みとかないんですか?」
「本当だとも。あんな奴の下で奴隷としてこれから先ずっと働かされるくらいなら死んだほうがましさ。」
「じゃあなんでいままで生きてきたんですか早くわざと失敗するなりして死んだらよかったじゃないですか。なぜそうしなかったんですか?」
「っ...そう、だよな。早くに失敗すればよかったんだもんな。なんで気づかなかったんだろうな。いや気づいてたんだ、でもできなかった。やっぱり死ぬのは嫌だ。俺は生きたい。外に出たい。...憧れてたんだよ。自由な暮らしに。」
今にも泣きだしそうな声で語ってくれた。夢や希望、昔話なんかも。そして最後に。
「でももう遅いな。さぁ。殺してくれ。お前に殺されるのは悪くない。」
「先輩。これまでありがとうございました。本当に感謝しています。」
ザシュッ...ボトッ...
人の肉が切れる音。そして頭が地面に落ちる音。久しく感じていなかった人を殺す感覚。俺の炎が小さくなる。だが小さくはなったが色が変わる。ほんのり赤に染まる。
「生きて...」
「先輩。一つ提案があります。あなたの命。俺にくれる気はありませんか?」
「何を言って...」
「簡単なことです。先輩は俺の部下になってくださいって言ってるんです。」
「でも、そんなことをしたらお前の命が。それに俺の体はもう限界なんだ。ほっといても数日で死ぬ。」
「そのことに関しては心配しなくて大丈夫ですよ。あなたの死体はここにありますし、その体も治せます。というかわかっているんでしょ。あいつが完全回復魔法が使えることぐらい。演技はもうやめませんか。」
「...さすがにお前をだますのは無理か。いいだろう。その話、のらせてもらおう。で。何をする気なんだ?」
「まずはあれを殺そうと思います。」
「ッ!まじか。それを目的に動いているとはな。普通に抜け出すとかだと思ってたぜ。おれもまだまだだな。よしっ!了解だ。指示をくれ。隊長さん。」
「まずは情報収集をしてもらいます。外に出て魔法なり政治なり調べて教えてください。今のおれは知らないことが多すぎるので。それと隊長はやめてください。俺のことはゼスって呼んでください。1番はエイン。4番はフィール。10番はティーンだ。あとで回復してもらうついでに挨拶しといてください。それと、先輩の名前を決めましょう。そうですね。アクト。なんてどうでしょう。」
「お、外に出られるのか。テンション上がるな。ゼスか。かっこいい名前だな。アクトもいい。気に入った。じゃあゼス。俺からも一つ頼みが。」
「なんです?」
「俺のほうが年上だがあくまでボスはお前だ。敬語はやめてくれ。」
「あぁ。そうですね。では、よろしくな。アクト。」
「おうよ。」
アクトは今まで見せたことのないような満面の笑みで去っていった。
「さぁ。そろそろ戻るとするかな。じゃないと次は俺が殺される。」
そうしていつもの顔に戻してから二十日後に殺す当主の元へと急いで戻った。
初めて男のメインキャラを登場させてみました。ちゃんと書けているか心配ですが...
これからもっと楽しめるような作品になればいいなと思います。