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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第六章

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06:魂の売り先

 

 自ら認めた霧須君あらためマイクス君に、西部さんが辛そうに名前を呼ぶ。


「マイクス君……本当なの? 本当に……」

「そまりさんの話は本当だよ、西部さん。きみと最後に霧須武人として会ったのは……僕が一度目の自殺をする一ヶ月前だっけ?」


 マイクス君が明るく笑いながら問う。

 それに対して西部さんが小さく息をのんだ。信じられない事実を突きつけられ、それでも信じざるを得ないと悟ったのだろう。見れば、隣に立つ犬童さんが小さく震えている。

 だが震えるのも当然。

 いじめを苦に自殺したかつての級友。

 それが今目の前に立ち、懐かしむようにかつ白々しく再会の言葉を口にしているのだ。


 そう、霧須武人は自殺した。

 それも一度は命を取り留めたものの、再び自殺をはかり本懐を遂げた。


「全ては仕組まれていたいじめの復讐劇……と言えば納得ですが、そもそもこんな大掛かりな復讐劇、どうやって行ったんですか?」

「どうやって、と聞かれると答えられませんね。僕自身、この件については把握しきれていないんです」

「分からないんですか。てっきり悪魔に魂でも売ったのかと思いました」

「そんな、そまりさんじゃないんですから」


 俺の冗談めいた言葉に、マイクス君が肩を竦める。

 どうやら彼自身、自殺した自分がこちらの世界に居る理屈も、そしてかつてのクラスメイト達をこちらの世界に呼び寄せた仕組みも、理解していないという。

 気にはならなかったのかと問えば「都合が良かったので」とだけ返してきた。復讐心を抱く彼にとって、仕組みや理屈など些細な疑問で気にするに値しないということか。


 ……ところで、しれっと俺が悪魔に魂を売ったかのように言われた気がするんだけど、どういう事だろうか。

 俺の中の天使と悪魔とニャルラトホテプが失礼だと憤慨している。


 だがそれを問うより先に、マイクス君が話し出してしまった。

「あれは僕が最初に自殺をしたとき……」と過去について触れるあたり、どうやら仕組みは分からないがそこに至るまでは教えてくれるようだ。

 ならばと俺も憤る天使と悪魔とニャルラトホテプを落ち着かせ、彼の話を聞くことにした。




 全ての始まりは、マイクス君こと霧須君が小津戸高校一年生の時。今から約二年前だ。

 内向的な性格とふくよかな体型ゆえいじられキャラというポジションに着いたものの、学校での生活はそこそこ順調だったという。運動面ではからかわれつつも、座学では頼られていた、そう以前に犬童さんが評価していたのを思い出す。

 だがそんな順調な生活は、半年も持たなかった。

 冷やかしは次第にたちの悪いものへと変わり、悪意のあるいじめへと変わる。被害は霧須君だけに止まらず学級崩壊へと繋がり、授業どころではなくなり学校も特別措置を取ったという。


「そんな状態でも霧須君のご両親は学校に通うことを強要した、と聞きました」

「えぇ、そうです。学校に行けばどんな目に遭うか、訴えたけど聞いて貰えませんでした。教育関係者としての見栄だったんでしょう。だから……」

「だから、自殺をはかったと」


 オブラートも何も無く俺が尋ねれば、マイクス君が小さく息を吐くと共に頷いた。


「学校も家も全てが嫌で、それで……。そうしたら、こっちの世界に来れたんです」


 人生に疲れ死んだはずが、まったく別の世界で目を覚ました。


「こっちの世界での生活は大変だけど充実してました。人にも恵まれて、情報屋の仕事も最初は手探りだけど皆に支えられて直ぐに軌道にのったし。それに、動くからか体重も減って、そのせいか見た目もだいぶ変わったんです」

「そういえば、元の霧須君はぽっちゃりとした体形だったらしいですね」

「いじめのストレスで家ではかなり食べていましたから。たぶん昔の僕の写真を見たら、そまりさんもビックリしますよ」


 どこか自虐的にマイクス君が笑う。それほどまでの変わりようなのだろう。

 十代半ばという成長期、くわえて環境の大きな――大きなどころではない――変化。身長は伸び、体重は減り、更に情報屋として生計を立てることが自信を与えて顔つきも変わった。

 今のマイクス君に、かつての内向的でいじめられっ子の面影は欠片も無い。


「なるほど、それで西部さん達も気付かなかったんですね」

「クラスメイトとはいえ、実際に顔を合わせた期間は半年もありませんでしたから、気付かないのも当然です。唯一変わってないところといえば声ぐらいですが、人って思ったより視覚に頼ってるみたいです」


 だから誰も気付けなかった。

 そう己の変化を語るマイクス君は随分と誇らしげだ。それだけ今の自分を気に入っているということだろう。

 だがそんな彼も、元の世界に戻るか否かを訪ねられた時には迷ったという。


「もしかしたらって思ったんです。僕が自殺したことで何か変わったかもしれないって。元の世界に戻れば僕もまた元の霧須武人に戻りますが、周りも自分も変われば、きっとうまくやっていけるだろうって……」


 自分を自殺にまで追い詰めた世界に戻ることへの恐怖はあっただろうが、それを乗り越えるくらい、こちらでマイクス・キルリットとして成長した。

 そしてその成長により、彼の中で期待が恐怖を上回ったのだ。

 己の自殺により、いじめていた級友達は反省し、両親も考えを改めてくれたに違いない。外見こそ元に戻れど、中身は成長したままだ。ならばきっと、今度こそうまくやっていける……。


 だがその期待は、元の世界の病院で目を覚ましてすぐに打ち砕かれた。


 小津戸高校はいじめを認めず、それどころか隠蔽し関係した生徒を匿う対応をした。結果いじめに関しては有耶無耶になり、噂の粋を出ずに世間の関心は余所に移った。

 悲観し考えを改めるかと思っていた両親はテレビに出ずっぱりで、熱意的に語っているの現在の教育体制について。小難しい言葉を並べて自論を語り、世間を騒がしてしまったことを詫びるだけだ。

 そしてクラスメイト達は、まるでいじめなど無かったかのように伸う伸うと暮らしている……。


「僕一人が自殺したところで、何も変わらないんだなぁ……って思いました」


 彼を苦しめた世界は、彼が自殺をしても何一つ変わらなかった。

 その事実は、命を絶つほどの絶望を、再びこの世界に戻る背を押した希望を、憎悪に変えるには十分すぎた。


「だから全員連れてきたんです。どうやって、と聞かれるとこれも仕組みはお答えできないんですが、僕の都合のいいように動かせるって聞きました」

「聞いた? 誰に?」

「向こうの世界に移るときに声が聞こえるんです。僕を哀れんだ神様かと思っていましたが、もしかしたら悪魔だったのかもしれませんね」


 マイクス君が冗談めかして笑う。

 彼の言う『声』とやらの正体は分からないが、彼が二つの世界を行き来する際には声が聞こえ、そして彼の復讐劇に加担してくれたという。

 俺からしてみれば『神様』とはけして言い難いが、絶望と憎悪を綯交ぜにした復讐心を抱くマイクス君にとっては『神様』に違いない。


 そうしてマイクス君は元居た世界で命を絶ち、こちらの世界に戻ってきた。

 クラスメイトを道連れに。

 ……そして、俺とお嬢様も巻き込んで。


「どうして私達まで?」


 お嬢様が恐る恐るマイクス君に尋ねる。

 霧須武人がクラスメイトに復讐をと考えたのは理解したのだろう。純粋で清らかなお嬢様にはあまり理解して頂きたくない負の感情ではあるが、慈しみの塊であるお嬢様は霧須君の傷ついた心に寄り添ったのだ。まさに女神。

 だがそんな女神にも理解できないことがある。


 なぜ自分達までもがこちらの世界に連れてこられたか。


 お嬢様も俺も、霧須君とは赤の他人。クラスメイトでなければそもそも小津戸高校の生徒ですらない。いじめの件に関してニュースで耳にする程度だ。

 近隣の学校に通うゆえに一度や二度はすれ違ってはいるかもしれないが、個人として認知まではいっていない。

 なのになぜ……。


「……お嬢様、それは俺のせいです」

「そまりのせい?」

「霧須君はこちらの世界にクラスメイト全員を連れてきた。……それでも、全員を心の底から恨んでいたわけではなかった」


 そうでしょう? と確認を取る様に霧須君へと視線を向ければ、彼がおどけたように笑って頷いた。

「そこまで気付いてたんですか」という声は、まるで他愛もない雑談を交わしているかのように軽い。それどころか、いまだ怯えの表情を浮かべる西部さん達に涼やかな視線を向けている。

 そこに憎悪の色はない。だけど……。


「全員を恨んでいたわけじゃないんです。でも、僕を見て見ぬふりをしていた人達が、僕が死んだことで平穏を得るなんて癪じゃないですか。だから全員連れてきたんです」

「それでいて、無害な生徒にはこの世界に馴染める能力と環境を与えた。だけど全てがうまく運ぶとは限らない」


 西部さんや満田さんは友人達と野営生活をし、犬童さんにはオシー達がいた。料理好きな保城さん達にもそれに見合った能力が宛がわれた。

 彼女達は、いじめを見て見ぬふりをしたことによりこちらの世界に連れてこられ、それでも虐めに加担しなかったことにより『生きていける能力と環境』を与えられたのだ。


 温情というべきか、人情というべきか。

 悪魔に売った魂の売れ残りというべきか。


 だがいかに上手く采配しようとも、イレギュラーは起こる。

 平穏に暮らしていた西部さん達の野営生活に菅谷達が割り込んできたのがまさにだ。

 元よりいじめの主犯で素行の悪かった菅谷達は、西部さん達を押さえつけ、そして逃げ遅れた満田さんに暴力を振るった。

 これはイレギュラーである。見て見ぬふりをされた恨みこそあれど、マイクス君には西部さん達を苦しめ追い詰める予定は無かった。


 だからこそ、そういうときのために呼んでおいたのが復讐劇の調整役。

 ……俺だ。


「小津戸高校の生徒達がこの世界で彷徨っていると知っても助けるような正義感は無く、さりとて与えられた力で他者を蹂躙するほどの欲もない。『仕事』と割り切れば他人を助け、『仕事以外』となれば他人を見捨てる。私欲で取捨選択するのなら、俺ほど扱いやすく裏方をさせるに適した存在はいません」

「自分でそこまで言いますか」

「言いますとも。己がいかに扱いやすいかは自覚していますから。でもさすがの俺も分からないことはあります。……そもそも、どうして俺のことを知っていたんですか?」


 虐めの件がニュースになるまで俺が霧須武人という存在を知らなかったように、彼もまた俺のことを知らないはずだ。

 だがどうして……と問えば、マイクス君が肩を竦めつつ「病院です」と話し出した。






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