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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第六章

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04:回答者は真夜中に

 


 王都からそう離れていないとはいえ、村自体は小規模なものだ。

 ゆえに夜になれば人気が無くなり、全ての店が明かりを落とす。そのうえ真夜中ともなれば民家の窓から漏れる明かりもなくなり、日中の長閑な明るさはどこへやら、一転して夜の闇と静けさが周囲を覆う。

 もっとも、さすがに真っ暗闇というわけではない。等間隔に置かれた街灯は心もとなくだが足元を照らしてくれる。


 そんな中を、上津哲弥と柴崎賢壱は歩いていた。

 夜間の外出ではあるが、宿から目的地であるギルドまでの距離は短く、怖いという感覚はない。元居た世界に居た時から品行方正とは言い難く、夜に出歩くことは多々あったのも理由の一つだ。他愛もない雑談を交わしながら歩けばすぐにつく……はずである。

 だが道の先に不審な人影を見つけ、どちらからともなく足を止めた。


「……誰だ?」

「こんな時間だし、どこの店ももうやってないよな……」


 どうしてこんな時間に、と声を潜めて話し合う。

 元居た世界ならば夜間に人がいてもさして気にも留めなかっただろう。だがこの世界の、それも夜は一帯が寝静まるこの村において、既に夜どころか深夜といえる時間帯の人影は違和感しかない。自分達も外に居るではないかと言われればその通りなのだが、人影から漂う異質さはそれを忘れさせるほどなのだ。

 その間も人影はゆっくりと自分達のいる方へと向かってくる。何も言わず、どこに寄るでもなく、ただ真っすぐに。


「な、なんだよ……」


 上津が僅かに躊躇いつつ身構える。

 だが人影は足を止めることなく真っすぐに向かってくる。走りはせず一歩一歩ゆっくりと着実に距離を詰めるような歩みに、臆するなという方が無理な話だ。

 とりわけ目深にかぶったフードは顔を完全に隠し、そのうえ背後から照らす月明かりがより姿を隠してしまっている。二人のいる位置からは、目を凝らしてようやく身の丈が自分達と同じ程度としか分からない。


「……せっかくチャンスをあげたのに」


 ポツリと呟かれた言葉は、夜の静けさの中でよくとおる。

 声の高さから考えるに同年代の男だろうか。だが少年らしさは無く、淡々とした、感情が入っていないような冷ややかな口調だ。

 どこかで聞いた覚えもあるが、いつどこでだったかは思い出せない。

 もしや自分達の背後に誰かがいて、その人物に声をかけたのでは……と、二人ほぼ同時に振り返るもそこには誰もいない。暗がりの中、来た道がずっと続いているだけだ。

 誰もいない、誰も来ない。

 なのに道の先にいる人物はこちらに向かって歩いてくる。


「……お、おい。チャンスって何の事だよ」


 まっすぐにこちらに向かってくる人影に、上擦った声で柴埼が問いかける。

 だがこれに対しての回答も無く、続くのは盛大な溜息のみ。落胆と失望を混ぜ合わせたような深い溜息。

 それを聞き、二人がビクリと体を震わせた

 威圧的で冷ややか、いっさいの反論を許すまいとするその態度は、かつて自分達を物のように扱い暴力の日々にさらした男達を彷彿とさせる。

 右も左も分からぬ中、さんざん脅され痛めつけられた。それどころかやつらは苦痛に呻く様を笑いとばして見せ物にし、あげくに闘技会に売り払ったのだ。

 掴まっていた最中は殆ど目隠しをされていたため男達の見た目こそ覚えていないが、あざ笑う声や怒鳴り声はいまも鮮明に思い出せる。

 ……思い出すと同時に、体が震える。


 今目の前の人影が発する声はあの時の男達の声とは違う。赤の他人の声だ。

 だが纏う空気は同じだ。いや、あれよりも凍てついているかもしれない。


「なにをしたか知らないけど、もしかしてもう終わったとでも思った?」

「お、おい、こっち来るなよ……!」

「まぁ良いか。もう二度と表には戻ってこれないようにするから、せいぜい自分達の馬鹿な行動を悔やむと良いよ。……今も、昔も」

「なんだよ、何の話だよ……! こっちに……!」


 こっちに来るな、と訴えかけた上津の声が途中で止まった。

 対峙する男が動いたのだ。それも、動いたと気付いた瞬間には目の前に迫っていた。

 駆けたという表現すら遅く感じられるほどの一瞬。

 驚愕で見開いた二人の目に、見覚えのある少年の、だが一度として見たことのない憎悪の表情が映り込み……。


 次の瞬間、甲高い音と共に眼前に氷の壁が現れた。


「……っ!」


 二人の眼前まで迫っていた男が、事態を察して大きく後ろに飛んだ。

 先程までの淡々とした冷ややかな態度から一転し、身を屈めて警戒態勢を取る。


 次いで事態を察したか、ゆっくりと佇まいを直すと周囲を見回しはじめた。

 そうして、暗闇のなかの一点を見つめて小さく溜息を吐いた。


「……驚いたな、居たんですか」


 暗闇に向け告げる声は普段通りの彼らしいものに戻っていた。

 どことなくあどけなさの残る少年らしい声。親しい人物に対して発せられた友好的なものにすら聞こえるだろう。先程との変わりようといったらなく、一瞬の変化は白々しいを通り越して薄ら寒さすら感じさせる。

 その空気に当てられ、上津と柴埼が小さく声をあげる。だが既に件の男は二人に視線すらよこさず、一点をじっと睨みつけていた。


 街灯の光が当たらぬ暗闇。

 そこからゆっくりと姿を現したのは……、


「こんばんは。夜分遅くに申し訳ありません」


 と、飄々とした態度のそまりである。

 手元にあるのは青く灯るペンライト。軽く振れば鈴のような高い音と共に細かな氷の欠片が舞い落ちていく。

 先程の氷壁は己がやったのだと、すべて計算の内だと、そう暗に告げているのだ。

 それを察し、件の男が深く息を吐いた。目深に被ったフードを軽くいじるのは、髪を掻く仕草のかわりだろうか。


「まいったなぁ。まさか仕組まれていたなんて。……二人のことも全部嘘だったんですか」

「えぇ、一芝居打たせて頂きました」

「まんまとしてやられたってことか……。どこまで知ってるんですか、なんて聞くのは野暮ですかね」


 苦笑しつつ男が肩を竦める。

 冗談めかすような口調、よりあどけなさを感じさせるが、今のこの状況では白々しさと薄ら寒さを強めるだけだ。

 だがそれに対してもそまりは平然とした態度を崩さず、「どこまで、と聞かれましてもねぇ」と間延びした声で返した。普段より言葉尻を幾分伸ばすのは、男の冗談めかす口調を煽りと取り、ならばとこちらも煽って返しているからだ。


「結局のところ、今の段階ではまだ俺の推測の域を出ていませんから、何とも言えませんね」

「推測なのにここまでやるんですか?」

「むしろ推測だからこそやるんですよ」


 互いに明確な言葉を濁して会話を続ける。

 どちらも態度や声色に抑揚はなく、口調に反して目つきは鋭い。事情を知らぬ者には穏やかな会話のように聞こえるかもしれないが、実際は腹の探り合いだ。

 だがいつまでも探り合って会話を続けるのは無駄と判断し、そまりが結論付けるようにはっきりとした口調で「推測でしたが」と続けた。


「君が来た時点で、俺の仮定は少なくとも一つは正解であったと分かりました。ねぇ、()()()()()


 わざとらしく名前を挙げるそまりの問いかけに、向かい合う男が黙り込んだ。

 次いでゆっくりとフードを捲る。

 吹き抜けた風が彼の髪を揺らし、隠されていた顔が露わになる。まだあどけなさの残る爽やか少年といった顔つき。だが黒い瞳はこの暗がりのせいか、それとも今の状況のせいか、笑っているというのに光が一切ない。

 彼らしくない表情だ。だがその姿は確かに……。


「……本当に、マイクス君なのね」


 切なげに名を呼んだのは、物陰に隠れていた詩音。

 その隣には杏里と秋奈の姿もある。……それと、本来ならばギルドで上津達を待っているはずのベイガルも。

 誰もがみな信じられないと言いたげな表情を浮かべている。

 これにはマイクスも虚を突かれたか、意外だと言いたげに目を丸くさせた。


「まさか皆来てるなんて。そまりさん、こういうのって普通は、秘密裏に動いて男同士で決着をつけるものじゃないですか?」

「普通がどうあれ俺のやり方で進めさせて頂きます。それに、俺だけ動いたって意味がないでしょう。そもそもの発端は俺もお嬢様も関係のないところなんですから」

「……いやだな、それすらも知ってるんですか」

「これもまた俺の推測でしかありませんけどね。ですから……」


 言いかけ、そまりが小さく息を吐く。

 そうして改めるように目の前に立つマイクスを見つめ……。


「答え合わせをしましょう、マイクス君。……いえ、()()()()()、とお呼びした方がよろしいでしょうか」


 そう口角を上げてそまりが尋ねれば、目の前に立つマイクスが……。



 否、霧須豪斗が、嫌悪を隠し切れぬと目元を歪ませた。





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