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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第五章

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15:決着と収束

 


 精霊の力で固められた拳で鳩尾に埋めるように殴りつければ、ハリアンさんの口からくぐもった声が漏れた。体をくの字に曲げ、中途半端に開けた口を数度はくはくと動かす。

 次いで彼の黒目がぐるりと上を向き、次の瞬間ドザと音をたててその場に崩れた。腹を押さえた状態でうずくまり、細かに痙攣している。

 試しに声を掛けてもピクリともしない。気絶しているのか、辛うじて意識はあるが反応出来ないのか、どちらにせよ起きあがるのは不可能だろう。


 俺の勝利と、そして優勝者が決まったことを告げる声が高らかに響く。

 だがその声は最後までは発せられず、なだれ混むように突撃してきた騎士達によってかき消されてしまった。


 騎士達は完全武装をしており、姿を現すや瞬く間に周囲を包囲し一人また一人と捕らえていく。

 高台に立ち指示を出すのは、側近の騎士に背後を守らせるシアム王子だ。彼の指示のもと、各部隊の長が細かな指示を出し……と、騎士達は見事に統率がとれている。

 対して、闘技会の参加者達に統率などあるわけがない。個々がばらばらに動き事態を理解出来ぬままに捕まっていき、不意をつかれたこともありろくな抵抗が出来ずにいる。

 中には逃走を図る者もいるが、逃げおおせたと思っても闇夜から騎士の手が伸び、あちこちで悲鳴や暴言が飛び交う。


「これは見事な統率力。さすが国の騎士だけありますね」


 見事なものだと感心しつつ喧噪を見守っていると、右手に捕らえた精霊が暴れ出した。

 くすぐったいので手を開けば、ひゅんと音をあげて光の玉が飛び上がる。「ハリアン!」と案じて飛んでいく声は年若い青年の声に近い。

 ――以前にコラットさんから精霊に性別は無いと聞いたことがある。彼女は相手の理想の姿に成り変われるのだ。だが性別が無いとはいえコラットさんは日頃から女性らしい言葉を使い、最近はハニートラップ以外で人の姿になるときは専らお嬢様の色違いである。対して目の前の精霊は声や言葉遣いから男性のイメージを抱かせる――


「ハリアン、起きろって! なんかやばいぞ!」

「無理だ……もろにくらいすぎて立ち上がれねぇ……。お前だけ逃げろ……」

「ばかなこと言うなよ! くそ……!」


 しきりに精霊がハリアンさんを呼ぶ。周囲を飛び回り、時にはぶつかって起きあがるように促している。

 だが騎士達があらかた制圧し終えるのを見ると、いよいよ自分達の番だと察したのか、ひときわ強く輝くと人の体へと姿を変えた。見目の良い青年だ、年の頃ならば俺と同い年くらいか。

 次いで彼はハリアンさんの体をいとも簡単に担ぎ上げてしまった。


 だがすぐには逃げず、じっと俺を睨んでくる。きっと俺の次の行動を警戒しているからだろう。

 あとたぶん鷲掴みにしたことも引きずっているに違いない。一見すると年若い青年の外見だが、瞳にはかなり恨みがましそうな色がある。俺のせいだが。

 そんな警戒たっぷりの視線に対して、俺はぱっと両手を開くことで敵意がないことを示した。


「ハリアンさんは今回の件とは無関係そうですから、このままご帰宅頂いて構いませんよ」

「……いいのか?」

「重要人物は優先的に押さえているでしょうし、一人二人逃げたところで変わりませんよ。それに、俺の仕事はもう終わりです」


 闘技会の勝敗はついたし、騎士隊の制圧は終わった。俺がこれ以上戦う理由はない。

 そう話せば、怪訝そうな表情ながらに精霊が頷いた。担いだハリアンさんを軽く揺らして「逃げるぞ」と一声掛ける。

 それを聞いて、ハリアンさんがゆっくりと顔を上げた。俺の一撃がまだ響いているのか、眉根を寄せ、随分と険しい表情をしている。――「吐きそう」というハリアンさんの言葉に、精霊が眉間に皺を寄せた。どうやら精霊であっても人の吐瀉物は嫌らしい――


「……完全に俺の負けだ。ここまで見事に負けたのは久しぶりだな。……う、まだ腹に響いてる」

「血尿間違いなしな勢いで殴ったんで、真っ赤な尿を見て俺のことを思い出してください」

「お前はそれで思い出されて嬉しいのか……? だがまぁ、負けた身じゃ文句も言えないな……」


 己の負けを認めるハリアンさんの声色は未だ苦しそうだが、それでいてどこか嬉しそうでもある。根っからの勝負好きな彼にとって、負けはしたが『自分より強い奴と戦ったから良し』といった具合なのだろう。

 それどころか逃げる身でありながら「またな」とまで言ってのけるのだ。彼を担いでいた精霊の青年さえも呆れに似た表情を浮かべている。

 そんなハリアンさんと青年を交互に見やり、俺もまた「ではまたご縁があれば」と別れの挨拶を告げ……、


「そういえば、連れの精霊が青年に姿を変えたってことは、ハリアンさんはその手の趣味をお持ちなんですか?」


 と、質問した。

 だってコラットさんは相手の理想の姿になるし、それを考えれば、あの精霊が青年の姿になったということはつまり……。


 そんな俺の純粋な質問に対して、担がれたままのハリアンさんはゆっくりと片手を上げ……、


 びしっと勢いよく中指を立てた。





「あのジェスチャーを肯定と取るか否定と取るか……」


 そう呟きながら去っていくハリアンさん達を見送る。

 精霊の力か、それとも制圧が落ち着き始めた頃に逃げたのが却って良かったのか、騎士の追っ手もうまく撒けているようだ。次第に姿が見えなくなり、夜の闇に消えていった。――最後までハリアンさんは中指を立てていた――

 そうして彼等の姿が見えなくなるのとほぼ同時に、「そまり!」とお嬢様の声が聞こえてきた。

 振り返れば愛らしいお嬢様がパタパタと駆け寄り、ポスンと俺に抱きついてくる。


「お嬢様、応援ありがとうございます。お嬢様の応援があっての勝利です」

「戦うそまり、素敵だったわ。でも怪我はない? 怖い思いはしていない?」

「ご心配には及びません。至って健康。むしろお嬢様の投げキッスという大胆な応援により、とりわけ元気な一部が更に」

「破廉恥なのは駄目なのよ!」


 お嬢様がぎゅっと俺に抱きついて咎めてくる。なんて可愛らしい。

 これにはたまらず俺も謝罪をし、ぐりぐりと額を押しつけてくるお嬢様を宥めた。もちろんこのお嬢様の仕草も俺の欲望を駆り立てるのだが、それを言えば更に抱きつかれて咎められ、それにより俺の欲望が……とエンドレスなので今はやめておく。

 ……今は、やめておく。時間があれば延々と繰り返したいところだが。


「ところで、合図ってお嬢様の投げキッスだったんですね」

「えぇ、そまりが戦っている間に皆で相談したのよ」


 曰く、俺への合図を伝え損ね、どうしたものかとお嬢様達は考えたらしい。

 ただの応援では気付かれにくく、かといって直接的な表現や言葉を口にすれば周囲に感づかれかねない。

 そこでお嬢様が投げキッスという合図を提案したというわけだ。

 それも俺を指名せず、あえてステージに立つ俺とハリアンさんに向けて……。


「合図と気付けばそれで良いし、気付かなくてもそまりは嫉妬してハリアンさんを倒すでしょう?」

「なるほど、つまり俺の嫉妬心さえもお嬢様の手のひらの上だったと言うことですね。勝利の女神でいて、俺を巧みに操る小悪魔な一面も持ち合わせるとは。完敗です」


 拍手と共に誉め称えれば、お嬢様が俺に抱きついたまま見上げてきた。得意げな表情がまた愛らしい。

 だが事実、お嬢様の作戦のおかげで俺は精霊の拘束を解けたのだ。我ながら呆れてしまうほどの嫉妬心である。だがお嬢様はそれを受け入れ、そのうえ理解して使いこなしてくれているのだから問題ない。


 お嬢様の天才的な名案をもってして、今回の作戦は無事成功を収めたのだ。


 そして同時に俺の依頼も完了である。

 思い返してみれば、闘技会の裏できな臭い者達が暗躍していたり、その目を盗んで国の騎士達が動いたりしていたが、俺からしてみれば分かりやすくシンプルな依頼だった。結局のところ俺に課せられた役割は『戦って勝つ』これだけだ。

 それでも一仕事終えたと一息吐けば、ベイガルさんが労ってきた。傍らには西部さんや犬童さんも居り、彼女たちも感謝や労いの言葉を告げてくる。


「そういや、ハリアンはどこに行った?」

「逃げましたよ。無関係そうですし、捕まえるのは俺の仕事じゃありませんからね」

「そうか。まぁあいつ一人ぐらい逃げても構わないだろ。重要人物は全員捕まえたし、賞品の二人も保護出来たからな」


 ベイガルさんがクイと顎で一方を示す。

 見れば、こちらに向かって歩いてくる数人の騎士。それと……彼等に抱えられるようにして歩く二人の少年の姿。ボロボロの衣服とやつれきった姿を哀れんで誰かが貸してやったのか、上等そうな外套を肩に掛けている。

 痛々しく悲壮感が漂う、まさに保護されたばかりと言った姿だ。


 上津(うえづ)哲弥てつや柴崎(しばざき)賢壱けんいち


 いまだ恐怖心が残っているのろう、彼等は自分達を支える騎士すらも恐ろしいといいたげに俯いている。

 授かった能力のおかげか目立った傷こそないものの、見て分かるほどに震え、やつれた体を縮こませしきりに謝罪の言葉を呟き続けているあたり、今日までどれだけ酷い目にあっていたかが伺える。

 彼等のようすに安堵の色は欠片もない。だがそれも当然だ。

 彼等からしてみれば、己を保護する騎士もまた異世界の人間なのだ。自分達に暴力を振るい、挙げ句に闘技会に売り払った者達との違いなど分かるわけがない。


 だが犬童さんが小さく彼等の名前を呼ぶと、跳ねるように顔を上げた。

 彼等の目が犬童さんと西部さんを捕らえる。

 まるで信じられないものを見たと言いたげに二人の目が見開かれ……そしてようやく保護された実感を得たのか、その場に頽れて泣き出した。





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