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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第五章

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12:愛のオムライス騎士とタコさんウィンナー

 


「というわけで、今回の商品である少年二人は奥にある建物の中です。出品者やその周辺の人達もそこにいるみたいですよ」

「なるほどな。だそうだコラット」

「厳重に警備はしているようですが、建物の規模を考えるにそう大人数とは思えませんね。数で囲めば制圧は楽でしょう。あくまで俺の主観ですが、闘技会常連は今回の出品に難色を示している方々もいるので、参戦者全員が敵に回ることもなさそうです」

「だってさ、コラット」


 俺の話にベイガルさんが頷き、その都度手元で光っているコラットさんに声を掛ける。

 そうして俺が一部始終を話し終えると、コラットさんがふわりと飛び上がった。


「今の話をシアム王子達に伝えればいいのね」

「あぁ、悪いな」


 ベイガルさんの労いを聞いて、コラットさんが一度ポワと光った後……。

 ふっとその光を消した。


「死んだ!?」


 と思わず俺が驚いてしまったのも無理はない。

 だが次の瞬間に「うぐっ」とうなり声をあげたのは、何かが俺の鳩尾に突っ込んできたからだ。容赦のないこの威力は……。


「コラットさん……ご健在なようでなにより……。というか光を消せたんですね……」

「精霊が常に光ってると思ったら大間違いよ。でもあまり長くは持たないから行ってくるわ」


 コラットさんの言葉に、ヒュンと軽い音が続く。どうやら飛び上がったようだ。普段のように光っていたなら夜の闇に舞い上がる光の玉が見れただろう。

 彼女ならばシアム王子達がどこにいてもすぐさま駆けつけ、事情を伝える事が出来る。闘技会の参加者もまさか精霊が荷担しているとは思わず、ベイガルさんに内通を疑いをかけて警戒するだけだ。


 この闘技会に着いた直後、ハリアンさんに疑われた際にベイガルさんが言った、

『ギルド長として来たわけでもなければ噂の第二王子としてでもない』

 という言葉は嘘ではない。

 事実彼は今回の件では一切動かず、お嬢様達の保護者兼護衛のみである。ギルド長や第二王子として国に内通する事はしない。


 ……あくまで、ベイガルさんは。


「それでコラットさんに内通役を任せるって、分かっちゃいましたが相当性格が悪いですね」

「ギルド長かつ第二王子となれば、俺が『何もしない』と言っても疑いは掛かる。俺がどこかへ行かないか、不審な行動をとらないか、終始ずっと見張られてるからな」


 己に監視の目を引きつけて精霊を動かす。随分な作戦ではないか。

 だが俺も無関係を装いつつ情報を引っ張ってきているのでとやかくは言えないだろう。

 つまり性格が悪いのはお互い様ということだ。

 そんなことを話していると、「そまり」と声が掛かった。この愛らしい声は……と振り返れば、もちろんお嬢様の姿。


「料理の準備が出来たわ。そまりを労うために腕によりをかけて作ったのよ!」


 こっちにきてとお嬢様が俺の袖を引っ張ってくる。

 その可愛らしい誘いを断ることなど出来るわけが無く、俺はベイガルさんに向き直ると真剣な顔つきで「後は任せました」と告げた。

 もっとも、真剣な顔つきを保てたのもその間だけ。すぐさまお嬢様へと視線を戻せば己の表情が緩むのが分かった。




「愛を込めたオムライスを食べて戦う私の騎士……。そまりは愛のオムライス騎士、略してオム騎士(オムナイト)ね」

「ならば俺は見事優勝を勝ち取り、オム騎士(オムナイト)から英雄へと……オム英雄(オムスター)になりましょう」

「そまり……いえ、オム英雄(オムスター)……! すてき!」


 感極まったお嬢様がぎゅっと俺に抱きついてくる。細い腕が俺の腰に回され、小さな体が俺にぴったりとくっつく。なんて愛らしい。

 そのうえ俺がいま食べているのはお嬢様が愛を込めて作ってくれたオムライス。お嬢様に抱きつかれつつ、お嬢様の手料理により愛を味わう、これほど幸せなことがあるだろうか。

 この際なので犬童さんと西部さんが「進化した」だの「ビーボタン!ビーボタン!」だのと話しているのは無視である。


 そんな中、オムライスを食べていたベイガルさんが「そういえば」と手元にあった箱を取り出した。

 ランチボックスと呼ぶにはいささか大きすぎる。豪華な重箱ぐらいの高さはある箱だ。


「さすがに今回なにもしないわけにはいかないからな、一応作ってきた」

「オッサンモドキの手作り料理ですか? 三十代の渋い料理となると酒のつまみでしょうか」

「相変わらず失礼だな。というかお嬢さんが食べたいって言うから作ってきたんだ、なんでもこれがないと始まらないとか」


 それを聞き、お嬢様がパッと表情を明るくさせた。

 ……と、同時に俺がベイガルさんを睨みつけたのは、お嬢様からリクエストされたという嫉妬である。なぜお嬢様はベイガルさんにリクエストしたのか、俺に言ってくれれば何だって作ったのに……。

 だがそんな嫉妬もお嬢様にはお見通しなのだろう、まるで子どもを宥めるような柔らかな笑みで俺の腕をツンと突いてきた。


「そまりのオムライスは私が作ったんだから、それで良いじゃない。それにベイガルさんにはみんなで食べる分を用意して貰ったのよ」

「みんなで……。というか、いったい何を用意してもらったんですか? それがないと始まらないとは?」

「タコさんウィンナーよ!!」


 カッ! とお嬢様が目を見開き、気合いたっぷりな返事をしてくる。


「そういえばお嬢様はお弁当にはタコさんウィンナー必須でしたね」

「タコさんウィンナー無くして勝利なし。さぁベイガルさん、食べましょう!」


 お嬢様がいそいそとフォークを手にする。よっぽど楽しみだったのだろう。食いしん坊な一面もまた可愛らしい。

 だがそんなお嬢様に対して、ベイガルさんは箱を手にしたまま険しい表情をしている。眉間に皺を寄せ、なんとも言い難い表情だ。


「どうしたんですか?」

「いや、今回は闘技会とただでさえ物騒なうえ国絡みの大事にした手前、俺もなんとか希望には応えてやろうと思ったんだ。だが『タコさんウィンナー』と言われても何の事だかさっぱり分からなくてな」

「この世界にはタコさんウィンナーは無いんですか? ウィンナーはあるのに」

「無いな。ウィンナーはただ調理して食うものだ、タコじゃない」


 きっぱりとベイガルさんが断言する。

 だが確かに、思い返してみればこちらの世界にはタコさんウィンナーはおろか、料理を飾る習慣自体が無い。

 といっても盛りつけがおざなりなわけではなく、綺麗な焼き目をつけたり色どりを意識したりはする。だがそれより先、ケチャップで絵を描いたり、ウィンナーをタコに模したり、そういった盛りつけを越えるデコレーションの概念が無いのだ。


「それでも分からないなりに応えようとしてな……」


 ベイガルさんがそっと箱のふたを開ける。

 自然と誰もが箱の中を覗き込み……、



 妙にリアルに再現されたタコと目が合い、悲鳴をあげた。



 それはそれはリアルなタコなのだ。吸盤も、ぎょろりとした目も、八本足の躍動感も、ウィンナーを駆使して巧みに再現されている。

 ……そう、律義にウィンナーで作られているのだ。

 その造形は見事の一言。詳しく言うなら『見事な再現力』、更に詳しく言うなら『見事に無駄な再現力』。

 あまりのリアルさにお嬢様が高い悲鳴をあげ、西部さんが慄き、犬童さんが唖然としている。


「これはもはや『タコさん』ではなく『頭足類八腕形上目タコ目の蛸』ですね」

「やっぱり違ったか。一応つなぎも全部ウィンナーで作ったんだけどな」

「俺が言うのもなんですが、一番たちが悪いのって『出来ちゃう馬鹿』だと思いません?」

「同感だ。途中から絶対に違うという確信があったんだが、出来るところまではやろうと思ってこの様だ」


 悟ったような声色でベイガルさんが話し、ズブッと蛸の……もといタコさんウィンナーの脳天にフォークを突き刺した。

 精巧につくられた蛸の造形からウィンナーを一本抜きだして俺に差し出してくるのは、食えという事なのだろう。ならばと俺も受け取り、蛸の頭部を形作っていたウィンナーを口に入れた。当然だがウィンナーの味である。口に入れた瞬間に漂った磯の香りはたぶん幻覚だろう。

 間違いなくウィンナーであることを説明すれば、お嬢様や犬童さんが遅る遅るとフォークで蛸を突きだした。一口食べてほっと安堵の表情を浮かべる。

 それほどまでに蛸の再現度が高いのだ。無駄な労力と才能、ここに極まれり。


 だけどベイガルさんが斜め上な対応をするのも仕方あるまい。

 オムライスもタコさんウィンナーも、この世界には無いのだから。


 やっぱりそういうことかと小さく呟き、出番だと呼びに来るハリアンさんの声を聞いて立ち上がった。



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