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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第五章

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07:かわいいものカフェの新メニュー

 

 保城さん達をレストランへと送り届ければ、今日の礼としてオムライスの材料をもらった。


「ありがとう、雪ちゃん、瑠璃ちゃん。これでマチカさんとベイガルさんにオムオムムムム(ご馳走できるわ)


 感謝を示すお嬢様の愛らしさと言ったら無い。

 二人にぎゅっと抱きつき、次は自分達のところに遊びに来てねと誘う。保城さん達も嬉しそうに答えている。

 この短時間でもうお嬢様は彼女達の大親友になったのだ。なんて素晴らしいのだろうか。お嬢様のコミュニケーション能力は世界を救う。

 お嬢様が平和の象徴になれば、国籍人種問わず人々は手をとり、世界から争いが無くなるだろう。


 そうなったらお嬢様を独占したくて俺が世界の敵になりかねないけど。




 そうして村へと戻り、ギルドに向かう。

 お嬢様と西部さんはオムライスの作り方を相談しており、そこにヒュンと小さな光の玉が飛び込んできた。お嬢様の周りをクルクルと回るのはコラットさんだ。

 お嬢様が嬉しそうに手を差し出せば、その手の平にコラットさんがふわりと止まり……。


「隙あり!」


 と、お嬢様が両手で覆うようにして、コラットさんを捕まえようとした。さながらまっく●くろすけを捕獲するメ●のごとく。

 だがコラットさんはそれすらも読んでいたのか、閉じこめられる寸前にヒュンと飛び上がって逃げ出してしまった。そのうえ反撃と言わんばかりにお嬢様の鼻を突っつき回す。


「きゃー! 杏里ちゃん、撤退よ! ギルドに逃げるのよー!」

「えぇ、私も!? ま、待ってコラットさん、私は別に捕まえようなんて……きゃー!」


 共犯と見なしたのかコラットさんが西部さんまで突っつきだせば、二人が戦略的撤退と走り出した。もちろんそれをコラットさんも追う。

 熱い戦いだ。いつものことすぎて、居合わせた者達は「若い子は元気が良くて羨ましい」と微笑ましそうに眺めるだけだが。


「お嬢様ってばなんてお転婆ガールなんでしょう。見てください、逃げる後ろ姿にも愛らしさが漂っています」

「……あの、そまりさん」

「優れたお嬢様の事ですから、きっといつかコラットさんを捕まえることでしょう。その時のための上質の虫かごを用意しておかねばなりませんね」

「……そまりさん、今更なんですが無理言っちゃってすみません」

「虫かごを首から下げるお嬢様。あぁなんて腕白でキュート。やんちゃな幼心を忘れず、それでいて時に妖艶なハンター。俺もお嬢様の虫かごに入りたい」


 うっとりと俺が語れば、犬童さんの視線が次第に冷ややかなものへと変わっていった。

 これはそろそろきちんと話を聞くべきだろうか。俺だって空気を読むぐらいは出来る。……だいぶ冷ややかにならないと読めないし読む気にならないけど。

 コホンと咳払いをして話を正せば、犬童さんも本題に戻ったと判断したのか申し訳なさそうに俺を見上げてきた。

 騙し討ちで闘技会に参加させた事に後ろめたさを感じているのだろう。


「まぁ良いですよ。自分がいかに扱いやすくてちょろいかは自覚していますから。……それに、今回はちょっと気になることがありますし」

「気になること?」

「えぇ、ですがこちらの話ですのでお気になさらず。ところで犬童さん、お嬢様がうちわを作る際には万全のサポートをお願いします。お嬢様が楽しく満足いくように、最高の時間を提要してください。お嬢様のワクワク工作タイムのためでしたら、俺は喜んでゴ□リになります」


 全てはお嬢様が楽しく過ごすため。

 そしてあわよくばお嬢様にファンサービスを求められたい。

 そう俺が力説すれば犬童さんがゆっくりと目を細め、「急ぎましょう」と足早に歩き出した。




オムー(そまり、おかえり)


 ギルドに入れば、エプロン姿のお嬢様に迎えられる。

 どうやら既にオムライスの調理に取り掛かっていたらしく、ギルドの奥からひょこと上半身だけだしてくる姿はまさに調理中の新妻。

 なんて愛らしいのだろうか。思わず俺も「オム(ただいま戻りました)」と返しておく。

 そうして調理場へと戻るお嬢様を見届け、ギルドの一角に腰掛けた。

 可愛いものカフェの定番席。向かいに座るのはベイガルさんだ。手元に広げた書類を見下ろしながら、視線すらよこさずに「ごくろうさん」と労ってくる。

 ちなみに膝にはオシーが丸まって眠っており、資料に何か書き込むとオシーの頭を撫で、再び書き込み、頭を撫で……と繰り返している。


「それで、どうだった?」

「お嬢様は変わらぬ愛らしさでした」

「はいはいようございました。で?」

「ベイガルさんの予想通り、レストランで働いているのは俺達と同じ日本人です。大場瑠璃さんと、保城雪さん。見たところ彼女達は特に害はなさそうですね」


 彼女達の能力は料理に特化したもので、分野外への応用も難しそうだ。そもそも本人達がレストラン経営を望んでいる。

 拾ってくれたという老夫婦や周囲のおかげで身分証明も出来ているようだし、ギルドへ登録する必要もないだろう。


 手短に説明すれば、話を聞いていたベイガルさんがなるほどと頷いた。

 だがいまだ視線は手元に落とされたままだ。

 人の説明を聞く態度ではないが、俺も俺でギルドの奥――もちろんお嬢様が調理をしに戻っていた方向である――を見つめているのでお互い様である。時折お嬢様がチラとこちらを覗いて「あとちょっとよ」「もう少し待っててね」と言ってくれるのだ。

 素晴らしい新妻。たまに華麗なターンを決めてエプロンの翻りを見せつけてくるのもたまらない。


「そっちは問題ないようでよかったが、ちょっと面倒な案件が入ってな。どうにかそまりを言いくるめて仕事を押し付けたいんだが、どう思う?」

「どうもこうも、なんでそう本人を目の前にして言いくるめるとか言うんですか」

「お前に心の準備をさせてやろうという優しさだ」


 きっぱりとベイガルさんが言い切る。いったいこの人は何を言っているんだろうか。

 だがいつもなら文句を言ってやるところだが、俺は不敵に笑って見せた。余裕の笑みに、ベイガルさんがおやと意外そうな顔をする。


「ベイガルさんが俺を言いくるめて面倒な仕事を押し付けようと考えていても、今回は無理ですよ。なぜなら俺は、すでに犬童さんに言いくるめられて面倒な別件を押し付けられていますからね!!」

「それは胸を張って言えることか?」

「俺のちょろさも先着順です。今回は他所をあたってください」


 残念でした、とベイガルさんを煽ってみる。

 これは気分が良い。根底には犬童さんに言いくるめられたという事実があるものの、それを無視すれば、日ごろ俺を良いように使ってくるベイガルさんに一矢報いてやったということだ。

 犬童さんに言いくるめられていてよかった。いや、良くはないんだけど。


「そまりは無理となると、どうするか……」


 さすがに先着がいれば無理強いも出来ないのだろう、ベイガルさんが唸るような声をあげてガシガシと頭を掻いた。

 あてが外れた、とその表情が物語っている。

 そうして盛大に溜息を吐き、手元の資料を片し始めた。ひとまずこの件は後にとでも考えたのか。

 ふわりとオムライスのにおいが漂ってきたのはちょうどこのタイミングだ。ベイガルさんの膝で眠っていたオシーが顔を上げ、慣れぬ香りにスンスンと周囲を嗅いでいる。


「せっかくお嬢様が作ってくださったオムライスですし、仕事のことは後にしたらどうですか」

「そうだな。まぁ、今回はニホンジン絡みじゃないし、ほかに強そうなやつにでも押し付けるか」

「いやー、残念でしたねぇ。俺も別件が入ってなければ聞いてあげないこともなかったわけではないんですが」

「それはつまり聞く気もないわけだな。しかし秘密裏の地下闘技会だからな、誰に押し付けるか……」

「は?」


 ベイガルさんがポツリと呟いた言葉に、勝ち誇っていた俺の勝利宣言もぴたりと止まる。


 今、なんて言った……?

 なんだか聞き覚えのあるような単語が出た気がするが。


 だが当人は俺に聞き返されるとは思っていなかったのか、片づけた書類をよそに放ってしまった。

 膝の上でしきりに周囲を嗅いでいるオシーを撫で、たまに鼻を突っつき、そのうえおやつを注文するから一緒に食事をしようとオシーを誘っている。

 溺愛か。いや、問題はそこではない。


「ベイガルさん……今回のその、面倒な案件って……」


 もしかして……と震える声で尋ねれば、思考はすっかりとオムライスに切り替わっていたベイガルさんが不思議そうにこちらを向いた。

 今更なにをと言いたいのだろう。あれだけ勝ち誇って断ったのだから当然だ。

 ……だけど。


「もしかしてその案件って……無許可で行われている……報酬が人間という闘技会のことでは……」


 違うと言ってくれという願いを込めつつ問う。

 それに対してオシーを撫でていたベイガルさんは意外だと言いたげに目を丸くさせ、


「なんだお前、知ってたのか」


 と、はっきりと返してきた。


「オムオムオーム」

「お待たせしまオムー」


 とオムライスをトレーに乗せたお嬢様と西部さんが現れたのはちょうどそのタイミングである。



 ベイガルさんが言っていた『面倒な案件』とは、ほかでもない先程俺が犬童さんに言いくるめられて参戦することになった闘技会だった。

 せっかく今回は断ったというのにこの仕打ち。もはや絶望しかない。

 だが周囲にはオムライスの香りが漂い、そのうえコーンスープを用意したようでその香りまで加わった。可愛いものカフェの動物達も気になるのか高い声で鳴き、ギルドとは思えない周囲に穏やかな空気に満ちている。


 絶望する俺を置いて、世界は輝いている……。


「辛い……闇落ちしそう……。ベイガルさん、オムライスの絵は俺に描かせてください……」

「別に良いけど、その精神状態で変なもの描くなよ」

「大丈夫です。幸せそうに卵を抱える鶏の夫婦を描くだけです……」

「鶏……? まぁ、鶏なら別にいいか」


 勝手にしろとベイガルさんが告げてくる。

 それを聞いて俺は立ち上がると、いそいそとオムライスを運んでくるお嬢様と西部さんのもとへと向かった。

 西部さんのトレーには一人前のオムライス。対してお嬢様のトレーには小皿に盛られた一口サイズのオムライスがいくつか並んでいる。

 これはベイガルさんの分と、そして聞きなれぬ料理に興味を持ったギルドの受付嬢や冒険者達の試食用だという。無関係な者達にまで振舞うとは、なんてお嬢様は優しいのだろうか。

 だが俺の目的は西部さんが持つトレーに乗っているベイガルさん用のオムライスだ。

『お嬢様手作りのオムライスを俺以外の男が食べる』という事実も腹立たしいことこのうえないのだが、「みなさん召し上がってオムー」と笑顔で告げるお嬢様の邪魔は出来ない。天使だ。


「西部さん、ベイガルさんのオムライスには俺がケチャップを掛けます……」

「はい、ちゃんと用意してあります。そまりさん、大丈夫ですか? なんだか様子が……」

「いえ、現役女子高生の掌で転がされていたと思っていたら、その回転のままオッサンモドキの掌に投げ渡されて闇落ちしかけているだけですから、お気になさらず……」

「ひぇ、オムライスを作っている間になにが……!」


 西部さんが高い声で慄く。

 それでもオムライスと容器に移したケチャップを机に置いた。

 残念ながらこの世界にはディスペンサー形式の容器はない。それでも近しいものを用意したようで、聞けば保白さん達が開発したものを一つ譲り受けていたらしい。

 素人細工の容器だが、そもそもオムライスに絵柄を描くサービスのためと考えれば、この程度で十分だろう。


「でも、チューブも太いし細かな絵は無理そうです」

「お任せください。俺はかつてお好み焼きに『マヨネーズを注ぐ女』を精巧に描いた男ですから」

「牛乳ではなく……?」

「えぇ、お好み焼きなのでソースとマヨネーズで描きました。それはさておき、ベイガルさんのオムライスには……」


 ケチャップの入ったボトルを取り、ゆっくりとケチャップを垂らす。

 慎重かつ時に大胆に描けば、見ていた西部さんが切なげな表情を浮かべだした。

「私はなんてことを……!」と己の腕を掴んでいるあたり、たぶん幸せそうな鶏夫婦を目にし、卵を割った罪悪感に駆られだしたのだろう。




「お、お待たせしまし、た……これがオム……オム……わ、私はなんてことを……なんてひどいことを……! 私が幸せな鶏を……!」

「ベイガルさん、これがオムライスというものです」

「なんで西部が情緒不安定になってるんだ」


 わけがわからないと言いたげなベイガルさんを制して、彼の目の前にオムライスを置く。

 さすがにプロや保城さん達のようなトロリ具合とは言わないが、それでもふんわりとした柔らかさのあるオムライスだ。


 そ子に描かれているのは、幸せそうに卵を抱きしめる鶏夫婦。


 ベイガルさんが不思議そうに鶏夫婦を見つめ……。


「オムライスって……卵料理か……」


 と切なげに呟いた。盛大に肩を落としている。

 ゆっくりと顔を上げて俺を見てくるが、その瞳にはこれでもかと責めるような色が見える。なんてものを描いてくれたと言いたげだが、許可したのはベイガルさんだ。

 その隣では、西部さんが罪悪感に苛まれ「私が、私が卵を……」と打ちひしがれている。


 それでも気持ちを切り替えたのか、ベイガルさんがスプーンを手にオムライスを食べ始めた。

 さすがに鶏夫婦を抉る際は怪訝な顔をしていたが、それ以外に関しては気に入ったようだ。

 お嬢様が配っている試食も好評のようで、先ほどからお嬢様と犬童さんが厨房に戻っては試食を配ってと慌ただしそうに行き来している。

 皆口々にオムライスを褒め、中には調理方法を聞いており、カフェのメニューに追加したらきっと人気が出るだろう。


 それを微笑ましくかつ嫉妬しながら眺め……ふと思い立ってベイガルさんへと視線を戻した。

 彼はオムライスを食べ進め、ケチャップやケチャップライスについて西部さんに聞いている。


 鶏夫婦の絵はすでに崩され、今はもう原型もない。

 せっかく描いたのにもう崩してしまったのかと訴えれば、責めるような冷たい視線を返されてしまった。「二度とお前には描かせない」という口調が厳しい。

 彼からしてみれば、「卵料理と知っていれば描かせなかった」といったところだろう。オムライスの実態を知らなければ、鶏だって猫や兎の絵とたいして差はない。



 だから許可をしたのだ。

 オムライスが卵料理だと知らなかったから。

 ……この世界にはオムライスは無いのだから。



 俺の中で一つの考えが浮かぶ。

 いや、もとより浮かんでいた考えが今この瞬間に確信を得た、というべきか。

 その確信を与えてくれたのは、珍しそうに異世界の料理を食べるベイガルさんだ。彼の言動は俺達と違う『異世界の人の反応』それそのものである。


「ベイガルさん……」

「どうした?」


「貴方が居てくれてよかった。ありがとうございます」


 確信を得た高揚感で感謝を告げる。

 次の瞬間……、



 ギルド内に一瞬にしてざわつきがあがり、今までにないほどの警戒と混乱が入り乱れる。西部さんは「そまりさんが壊れた!」と叫び、犬童さんが信じられないものを見たと驚愕の表情を浮かべた。

 一転して張り詰めた空気にオシーをはじめ猫やドラゴン達が戸惑い、中には威嚇の声をあげるものまでいる。

 先ほどまでギルドらしからぬ長閑で楽し気な空気に満ちていたというのに、今は冷ややかで重苦しい空気が漂っている。

 そんな中、カラン……と高く響くのは、ベイガルさんの手から落ちたスプーンが床に転がる音だ。


「お前が死ぬのか、それとも俺が死ぬのか……」


 青ざめ、震える声で呟く。


 さすがにこれには俺も闇落ちしかけるというもの。

 淀んだ瞳で「ひどい」と呟けば、お嬢様が「さすがにこれはオム()なのよ」と切なげに俺を宥めてくれた。



投稿期間が空いてしまい申し訳ありません……!

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