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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第四章

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14:王都からの手紙

 

 ドラゴンの件から二週間が経った。

 既にギルドの一角では『可愛いものカフェ』が営まれ、ギルドという場所に似合わぬ長閑な空気を漂わせている。経営も順調。オーナーこと犬童さんは接客嫌いで表に出てこないが、西部さんが代理で切り盛りをしている。

 最初こそあまりの温度差とドラゴンの存在に身構えていた冒険者達も、次第に慣れ始め、それどころか積極的にカフェでお茶をするようになった。歴戦の将といったいで立ちの冒険者がふかふかの猫やドラゴンを膝に乗せてコーヒーを飲む姿はなんとも言えない。


「人のこと言えた義理じゃないのは分かってますが、ここのギルドの人達もそうとう適応力が高いですよね」

「適応力高くて大雑把な性格してないと、冒険者なんてピンキリな仕事は務まらないからな」

「なるほど、書類に関して誰より大雑把なギルド長が仰ると説得力が違う」


 納得したと言いたげな声色で返せば、向かいに座るベイガルさんがギロリと睨み付けてきた。

 ちなみに場所はギルド内、いつも俺とベイガルさんが話すテーブル。……なのだが、そのテーブルも可愛いものカフェに組み込まれた今、俺達は客としてテーブルに着いている。

 ベイガルさんの膝の上にはオシーが乗っており、それを撫でつつコーヒーを飲む彼は満更でもなさそうだ。


 そんな俺達に、ドラゴンを一匹抱っこしながらお嬢様が近付いてきた。

 お嬢様はこのカフェの手伝いもしており、エプロン姿のなんと愛らしいことか。マチカさんの依頼で野菜を買い、三時のティータイムを仕切り、そして新たにカフェの店員……。

 素晴らしい、お嬢様はなんて多才なのだろうか!

 もちろん隙あらばコラットさんを捕獲しようとするのも忘れない。ハンターの精神も持ち合わせているのだ。可愛くてワイルド!


「コーヒーのおかわりはいかが?」

「ああ、貰おうか」

「そまりも、私特製のウィンナーコーヒーなら飲むでしょう?」

「もちろんです!」


 お嬢様が自ら淹れてくださったコーヒーならば飲まないわけがない。

 ウィンナーが浮かんでても気にならない!



 そうしてしばらくコーヒーを飲みつつ雑談を続けていると、一人の青年がギルドに入ってきた。

 マイクス君だ。居合わせた冒険者や受付嬢達が挨拶を告げる。それらに対し穏やかかつ丁寧に返すマイクス君はやはり好青年だ。

 ……が、さすがに可愛いものカフェを見ると引きつった笑みを浮かべた。

 気持ちはわからなくもない。殺伐とあるべきギルドにカフェ、それも仕切りにはレースが飾られ、ふかふかのラグが敷かれ、その上を可愛らしい動物がコロコロと転がっているのだ。

 その温度差といったらない。初めて訪れた者はだいたい一度動きが止まる。


「噂には聞いてたけど、本当にカフェをやってるんですね……」

「えぇ、これが案外順調に営んでます。ちなみにご新規さんにはサービスでウィンナーコーヒーのウィンナーが二本になりますよ」

「いえ、結構です……。それに今回は届け物を持ってきただけで、渡したら直ぐに次に行かなきゃいけないんです」


 曰く、今回は近隣の村にも届け物があるようで、そちらに寄ってエルフ達の森にも顔を出して……と多忙らしい。基本は気ままな旅らしいが、時には仕事が重なってあちこち走り回る羽目になるという。

 せっかく来たのに残念だと話すマイクス君の表情は、それでもどこか誇らしげだ。きっとこの仕事が好きで、多忙もまた良しと感じているのだろう。生き生きとしている。


「そまりさんに手紙です」

「俺にですか?」

「えぇ、受取にサインをお願いします」


 話しながらマイクス君が一通の封筒を差し出してくる。

 王都にあるアクセサリーの仕立て人からの手紙だ。きっと俺が依頼しておいたドラゴンの髭と鱗のネックレスが完成したのだろう。


 それを受け取れば「これも」とマイクス君が更に二通の封筒を取り出した。

 一目で高級と分かる純白の封筒。真っ白な紙には黒いインクで名が綴られ、蝋封で留められている。二通とも同じ代物で、封蝋の家紋も同じだ。差し出し人は同一人物なのだろう。


 だが片方の封筒は妙に分厚い。

 ミチミチしてる。

 便箋数十枚を無理に詰め込んだようで、今にも破裂しそうだ。

 マイクス君はそんな二通の手紙を、薄い方を俺に、分厚い方をベイガルさんに差し出してきた。


「わざわざありがとうございます。料金は?」

「前払いで貰ってるから大丈夫です。返事も受け取ってくるように依頼されているんで、明日また同じ時間に寄りますね」


 軽く頭を下げ、マイクス君がギルドを去っていく。

 おかわりのコーヒーを持ってきたお嬢様が彼を見つけ、穏やかに笑って挨拶を告げた。隣にはお嬢様の手伝いをしていた西部さんも居る。


「マイクス君、お仕事お疲れさま。コーヒーはいかが?」

「ありがとうございます。でも急ぎで隣の村に行かなきゃいけないので……」

「それならせめてウィンナーだけでも」

「い、いえ、それも大丈夫です」


 マイクス君がやんわりとながら断る。どうやらウィンナーコーヒーはお気に召さなかったらしい。ソーセージ派だろうか。

 そうしてマイクス君はお嬢様の隣に立つ西部さんに視線をやった。西部さんが穏やかに笑い、マイクス君の仕事を労う。

 二人は以前にベイガルさんを仲介して会っており、同年代という事もあって直ぐに打ち解けた。

 とりわけマイクス君は髪も瞳も日本人に近しい色合いをしており、西部さんも親しみを持ちやすかっただろう。


 ……この、俺の向かいでウィンナーコーヒーのウィンナーを食べつつ「若者の集まりはいいなぁ」と呟くオッサンモドキとは悉く真逆である。

 ベイガルさんの銀髪と緑色の瞳は日本人には馴染みがなさすぎる。


「それじゃ、僕はもう行きます。そまりさん、急ぎで申し訳ありませんが明日までに返事の準備をお願いします」

「分かりました。明日の同じ時間に、ここで」

「はい。あとベイガルも、今回こそ、本当に、返事を書いておいてよ。ベイガルからの返事が有れば追加料金貰えるんだから」

「ははは、そいつは残念だったな」


 ベイガルさんが笑いながら無理だと宣言する。

 それに対してマイクス君が肩を落として溜息を吐くのは、きっとこのやりとりを何度も繰り返しているのだろう。疲労さえ感じさせる呆れの表情でギルドを去っていった。

 年若い好青年をあそこまで困らせるとは、なんとも嫌なオッサンモドキである。




 そうしてマイクス君が去っていき、改めて俺は手元の封筒に視線を落とした。

 達筆な字で――もちろん異世界の文字なのだが――綴られているのは俺の名前。差出人は……この国を治める王だ。

 意外すぎる人物の名にいったい何の用だと封筒を開ければ、中には質の良い便箋が一枚。


 今回の件の労いと、賛辞と、そしてドラゴンスレイヤーに任命するにあたり王都に来るようにというお達し。

 それらが品の良い言葉で綴られている。つまるところ任命式というやつだ。


「バナナスライサーってわざわざ任命式やるんですね」

「ついにドラゴンの方も侵食し始めたか……ドラゴンスレイヤーな。式というよりは顔を見せに来いってことだ」

「なるほど。それとギルド長も同行するように書かれてます。……というか、ギルド長同行については四回くらい文面に書いてあるし、最後に赤文字で大きく書いてあるんですが」


 便箋をベイガルさんに見せつける。

 品の良い白い便箋に堂々と書かれた赤字、今までの厳かな空気を台無しにする『要:ギルド長同行』の文字。それがあちこち。

 むしろこのしつこさは、呼びたいのはドラゴンスレイヤー()ではなくギルド長(ベイガルさん)な気がしてくる。

 それを訴えれば、ベイガルさんが手帳を開き真剣な表情で「呼び出しはいつだ?」と尋ねてきた。


「十日後ですね」

「そうか。残念だがその日は腹が痛くなるんだ」

「仮病は長期計画には向きませんよ」


 真剣な表情で仮病を使うベイガルさんを窘めれば、彼は心の底から嫌そうな表情で「腹が痛くなる」と念を押してきた。必死か。

 次いでチラと他所を向く。彼の視線の先に居るのは……お嬢様だ。ご新規さんがドラゴンをどう撫でて良いのか分からずにいるのを見て、自分が率先して撫でてアドバイスをしている。なんという優しさに満ち溢れた店員なのだろうか、俺はお嬢様を撫でまわしたい。

 そんなお嬢様をベイガルさんが呼べば、パタパタとエプロンを翻して駆け寄ってきた。


「どうなさいました? おかわりですか?」

「いや、コーヒーは平気だ。ところでお嬢さん『一日ギルド長』に興味は無いか? 是非お嬢さんに頼みたいんだが」

「まぁ、一日ギルド長!? そんな大役を私に任せてよろしいのですか?」

「大丈夫だ、お嬢さんにも出来る……いや、お嬢さんにしか出来ないことだ!」

「私にしか!?」

「そうだ、このギルドを救うため、一日ギルド長を務めてくれないだろうか!」

「お任せください!」


 妙に熱のこもった口調のベイガルさんに煽られ、お嬢様が意気込む。

 その瞳は使命感を宿し、燃えているようにさえ見える。

 逸る気持ちを抑えきれなくなったのか、グイとベイガルさんに身を寄せると彼の手をぎゅっと握った。……お嬢様が手を握った。その瞬間、ベイガルさんの表情がサァと青ざめた……気がする、多分。俺の視線はベイガルさんの手を握るお嬢様の手に釘付けでよく見えないが。


「この諾ノ森詩音、必ずや一日ギルド長の務めを果たしてみせます!」

「そ、そうか、意気込んでくれるのは良いが手は放してくれないか」

「誰に任せるかさぞや悩んだ事と思います。ですがご安心ください。諾ノ森の名に懸けて、いえ、このギルドの一員として、ご期待以上の成果をあげてみせましょう!」

「分かったから! 頼むから手を離してくれ! そまりに殺される!」


 ベイガルさんの必死な悲鳴に、お嬢様がはたと我に返って慌てて手を離す。

 はしゃいでしまったことを恥じ「私ってば」と照れつつ謝罪をする姿はなんとも奥ゆかしい。頬を押さえる手は白く細くしなやかで、その手は今の今までベイガルさんの手を握っていた……。

 俺ではなく、ベイガルさんの手を……。


「いいかそまり、今のは不可抗力だ。俺にはまったく他意はない。そもそも俺から触ったわけじゃないからな」

「そんなに必死にならないでください。分かってますよ」

「分かってるならペンライトをしまえ」


 引きつった表情のベイガルさんに窘められ、いつの間にやら片手にあったペンライトを腰元にしまう。

 どうやら無意識に構えていたらしく、曰くお嬢様がベイガルさんの手を握っている最中に物凄い速さで色を切り変えまくって脅していたらしい。無意識って怖い。

 お嬢様が俺の嫉妬に気付き「独占欲ね」と甘い声で笑った。次いでこの事を西部さんに話すべく、ギルドの奥へと去っていった。

 その後ろ姿のなんと愛らしい事か。


「とにかくお嬢さんが受けてくれるならこれで問題ない。任命式には、俺の代理としてお嬢さんと行ってくれ」

「必死過ぎるにもほどがありますよ。国からのお達しなんだから、大人しく王都に行ったらどうですか」

「良い宿をとってやろう。お嬢さんと一泊、そこでネックレスを渡す……どうだ?」

「最高ですね! 部屋には薔薇の花を敷き詰め、浴槽にはアロマキャンドルを浮かせてください!」

「やだよ面倒くせぇ。でもこれで万事解決だ」


 互いに顔を見合わせ、よしと頷き合う。

 ベイガルさんも王宮に行かずに腹も痛くならずに済むし、俺はお嬢様と王都で夢のような一泊……。これぞまさにwin-winというやつだ。

 王命? 国からのお達し? そんなものよりお嬢様との素敵な一泊である。

 お嬢様が一日ギルド長を務めることで、全ての問題が解決してしまう……なんてお嬢様は素晴らしいのだろうか。

 そんなお嬢様と一泊、それもネックレスを贈るのだからキスを……。


 考えれば考えるほど滾ってしまう。

 俺の中の天使と悪魔とニャルラトホテプも「キース、キース!」と手拍子で囃し立ててくる。俺の中のはずなんだが、この手のノリは大嫌いだ。


 そんなことを考えていると、お嬢様と西部さんが楽しそうに話ながら現れた。


「一日ギルド長なんて、詩音ちゃん凄いね。頑張ってね」

「ギルド長なんて務めたこと無いから不安だけど、私やり遂げるわ!」

「でも王都かぁ……。王子様に会えるってことだよね」


 良いなぁ、と西部さんが呟けば、お嬢様が楽しみだと笑って頷いた。

 どうやら『王子様』に対しての憧れはお嬢様より西部さんの方が強いらしく、話す声はどことなく上擦っている。曰く、昔から『王子様が出てくる物語』が好きでよく読んでいたのだという。きっとお嬢様がエルフに憧れていたのと同じなのだろう。

 理想の王子様でも思い浮かべているのか、ほぅと吐息を漏らす西部さんはまさに夢心地といった表情だ。お嬢様がクスクスと笑って西部さんを見つめている。

 そんな二人のやりとりを眺めつつ、目の前でギルド代理の書類を作るベイガルさんに向き直った。


「いまいちピンとこないんですが、王子様ってだけで憧れるものなんですかね」

「そうかもな。まぁでも、実際は憧れるほどのもんじゃないけどな」


 興味無いと言いたげに書類を書き進めながらベイガルさんが話す。

 まるで深く知っているような口調ではないか。だが俺がそれを言及するより先に、ベイガルさんは書類を書き終え、マイクス君から受け取った分厚い封筒を手に取った。

 そうして徐に立ち上がると、


「よし、芋を焼こう!」


 と宣言しだした。

 このオッサンモドキ、返事拒否どころか読まずに焼却処分するつもりのようだ。






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