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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第四章

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09:一難がまだここに居るのにまた一難

 

 ふかふかした猫っぽいやたらと大きな生き物に追われ、ベイガルさんと共に全力で走る。

 泥濘が足に纏わりついて邪魔をするが、それは猫っぽいものも同様。だが向こうは生い茂る草木をその巨体で薙ぎ倒しているぶん有利だ。

 ニャァニャァと鳴きながら俺達を追いかけてくる。そのたびに地面が揺れるが、それに足を取られれば終わりだ。


「くそ、ニャーとさえ鳴かなければ……あいつがふかふかしてニャーとさえ鳴かなければ攻撃出来るのに!」

「今そんな事気にしてる場合じゃないだろ! とっととその武器(ペンライト)であいつをぶっ叩け!」


 ベイガルさんに怒鳴られ、俺も覚悟を決めて足を止めると共に振り返り、追いかけてくる猫っぽい生き物に向き直った。

 ふかふかした毛をたなびかせ、黒い瞳孔をこれでもかと丸くさせ、俺を凝視して駆けてくる。猫……っぽいやたらと大きな生き物。

 だが猫じゃない、あんなに大きな猫なんていない……。あれは異世界特有の異世界生物、けっして猫ではない。

 そう己に言い聞かせ、俺はペンライトを握りしめた。色は……一応、害の少なさそうな緑色にしておく。


「よし、これで一発で仕留めれば……」


 大丈夫、と言いかけた俺の言葉に、猫っぽい生き物の鳴き声が被さった。


 ニャァァアン!!


 と。

 轟音でありつつもどことなく可愛さを残したその鳴き声は……悔しいかな、まぎれもない猫の鳴き声だ。キャット感100%。

 その瞬間、俺の脳裏にお嬢様の顔が浮かんだ。

『そまり、ふかふかしてニャーって鳴く生き物は優しく可愛がってあげてね』

 そう上目遣いで見つめてくるお嬢様の愛らしさと言ったらない。


 だからこそ俺はグルリと振り返り、再び走り出した。

 だって攻撃なんて出来るわけが無い! お嬢様と約束したんだから!


「俺の中のお嬢様が! お嬢様が悲しそうな目で見つめてくる! 猫を抱きしめつつ俺を見つめて『猫ちゃん虐めるの?』って切なそうに問いかけてくる!!」

「こんなこと言ってる場合じゃないと分かってるが言わせてもらう! バーカバーカ!そまりのバァーカ!」

「ひとのことバカって言う方がバカなんですよ! このオッサンバカ!」

「おい待て、それだと俺がおっさんに目がないみたいだぞ!」


 ベイガルさんと低レベルな――自覚はしている――罵り合いをしつつ、泥濘をひたすらに走る。

 その間も猫っぽいやたらと大きな生き物は俺達を追いかけている。これは体力勝負になるのか……。

 そんな中、ベイガルさんが「そうだ!」と何やら思いついたように声をあげた。


「そまり、ピンクだ! その武器をピンクに光らせろ!」

「ピンクって……そうか!」


 ベイガルさんの言わんとしていることを察し、彼の言う通りに手早くペンライトのスイッチを押してピンクに光らせる。

 普段の依頼では使う事のない色だ。以前にコラットさんが魅了と言っていた。

 相手に好意を抱かせるものであり、好意を利用して言いなりにする事も出来る。

 便利ではあるが、生き物討伐や採取にはあまり意味がないので、基本使わずにいた。だってお嬢様の好意以外いらないし、お嬢様の好意はちゃんと俺に……いや流石に惚気てる場合じゃない。


 普段は使わない魅力、だが今ならば……。

 そう考え、俺は足を止めると共に再び猫っぽい生き物へと向き直った。こちらへと駆けてくる猫っぽい生き物に見えるよう、手にしていたピンク色のペンライトを大きく振るう。


 猫っぽい生き物が轟音をあげながら俺の目の前まで駆け寄り、そして一度しなやかな体躯を縮こませると、真っ直ぐに飛躍して残りの距離を一気に詰めてきた。

 巨大なふかふかの体が瞬きをする間もなく眼前に迫り、そして速度と重量の合わせ技で俺を押し潰す。


「そまり!」


 咄嗟に聞こえてきたのは、俺を心配するベイガルさんの声。

 ……それに続くのは。



 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。



 と、まるで地鳴りのような猫の喉の音。

 それとふがふがふんすふんすと煩い猫の鼻息。


「……そまり、生きてるか?」

「重い……。あと猫の息が生臭い……」

「大丈夫そうだな。よし問題解決。舐め回されないうちにさっさと這い出てこい」


 心配する様子が皆無なベイガルさんの言葉を聞きつつ、ふかふかした猫っぽい生き物の体から這い出る。

 出てきた俺にたいして鼻先を擦り寄せ全身を擦り付けようとしているあたり、どうやら魅了の効果は抜群のようだ。俺の仲間イコール敵ではないと判断したのか、ベイガルさんに向ける瞳にも警戒や敵意の色は無い。

 それどころか、俺達を見つめるとゆっくりと瞳を閉じた。猫が友愛を示す仕草だ。


 これで小さな猫ならばよかっただろうに……。

 巨体なだけに、鼻先を擦り寄せられるだけでもバランスを崩しそうになる。かなりの重量でぐいぐいと来られると圧が凄い。


「でもまぁ\ゴロゴロゴロ/、攻撃されるよりは\ゴロゴロゴロ/懐かれる方がマシですね」

「そうだな、こいつを連れてれば\ゴロゴロゴロ/ほかの動物がいても\ゴロゴロゴロ/不用意に近付いてこないだろ」


 ゴロゴロゴロ。

 会話の最中にも猫が喉を鳴らす。

 俺達が歩きだしても同様、邪魔をするまいと考えたのか数歩後を着いてきてくれるのは有難いが、それでもゴロゴロと聞こえてくる。

 これが通常サイズの猫であったなら、微かに喉の音が聞こえてきて、振り返れば猫が着いてくる……と、ほのぼのした光景になっただろうに。

 ただ今はズシンズシンと足音がして、終始ゴロゴロと地鳴りのような音がうるさい。そのうえ何か興味をもったのか地面や岩場を嗅ぐ時にはふんすふんすふがふがと鼻息まで聞こえてくる。


 ……うるさい。

 とてもうるさい。


「この依頼を終えるのが先か、猫の鼻息でノイローゼになるのが先か……。いやでも、猫を守る為にノイローゼになったと知ったら、きっとお嬢様も褒めてくださるはず。猫を撫でるついでに、俺のことも……」

「ぶつぶつ気持ち悪いこと呟くなよ。さっさと進むぞ。……ほら、お前も来い、置いてくぞ。足元気を付けろよ」

「ベイガルさん、既に情が湧いてません?」

「馬鹿言うな。こんな厄介な生き物に情なんて湧くわけないだろ。あぁ、もうほら、そんな草調べてないで着いてこい、オシー」

「名前つけてません? ねぇ、名前つけてません??」


 ねぇ? と俺が疑いの視線を向けるも、ベイガルさんは「そんなまさか」と一蹴してくる。

 だが確実に「オシー」と呼んでいる。猫っぽいやたらと大きな生き物改めオシーも、名前をつけられたことが嬉しいのかニャンと大きな鳴き声で返事をして小走りめに駆け寄ってきた。

 小走りでも振動がするのだが、オシーの返事を聞くベイガルさんは満足そうな表情をしている。


 ……飼う気だ。

 このおっさん、秒で情が湧いて飼う気でいる。


 だが考えてみれば、ベイガルさんは異世界から来たという身元不明にも程がある俺達を拾い、果てには西部さんの面倒まで見ているのだ。

 面倒見が善過ぎて情が湧き易いのだろう。


「俺はベイガルさんがそのうち誰かに利用されないか不安でなりません。主に俺のような人物に」

「安心しろ、いざという時にはとんでもない(ガード)が動くから」

(ガード)?」

「こっちの話だ。それより、そろそろドラゴンの目撃情報があった場所だ。慎重に行くぞ。ほらオシー、お前もふらふらしないでちゃんと着いてこい」

「やっぱり情が湧いてません?」


 ねぇ? と俺が再び疑惑の視線を向ければ、再びベイガルさんが「そんなわけないだろ。なぁオシー」と一蹴してきた。

 いやこれ明らかに情が湧いてるだろ……。

 と思いつつ、それを言及したところで堂々巡りなのでここまでに止めておく。仮にギルドの休憩スペースで交わすいつものやりとりならばあと二往復ぐらい繰り返していたところだが、今はそんなことをしている場合ではない。

 近くにドラゴンが居るのかもしれない……。

 そう考えれば、妙に空気が重々しく感じられる。周囲が暗くなる、まるで頭上に何か現れ日の光を遮ったかのように……。


 いや、”まるで”ではない。

 実際に何かが俺達の頭上に現れ、日の光を遮ったのだ。

 先程まで居なかったはずのものが、突如として俺達の頭上に現れ浮遊している。真っ赤な巨体と羽を広げたそれは……ドラゴンだ。


「なっ……いつのまに!?」


 思わず声を荒らげてしまう。

 いくら油断していた頭上とはいえ、これだけの巨体を見過ごすはずがない。本当に、“突如として”頭上に現れたのだ。

 まさに神出鬼没。魔法のようではないか。


 だが驚愕している俺達を他所にドラゴンは羽を一度揺らすと、生い茂る草木をものともせずに俺達の目の前に降り立った。

 地面が揺れる。突然のことに驚いたのは俺達だけではないようで、鳥が一斉にして飛び去っていった。

 体の色と同色の赤い瞳がギロリとこちらを睨み付けてくる。


「……ベイガルさん、ドラゴンですね」

「あ、あぁ……ドラゴン、だな……」

「警戒しているようですが。件の少女とやらは居ませんね、どっかで見てるんでしょうか?」

「……そう、かもしれないが。どう考えてもドラゴンが俺達を見つめてる気がするんだが」

「ですねぇ……。魅了効きますかね」


 ペンライトをピンク色に灯らせて、ドラゴンを刺激しないようにそっと頭上に掲げる。

 そうして視線をこちらに誘導するように、ゆっくりと大きく左右に振れば……。



 目の前にいたはずのドラゴンの姿が、まるでサァと音たてるように消えていった。

 だがそれに驚愕している余裕は無く、咆哮と共に俺の体に何かがぶつかり、耐えることも出来ずに吹っ飛ばされた。




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