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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第四章

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01:ギルド長会議


 各地のギルド長が集まるその一室は、一言でいうならば『むさ苦しい』に尽きる。

 なにせ集まった者達は皆男。世の中には女のギルド長が居ないわけではないが数は少なく、生憎と今回の召集対象に含まれていない。その結果、このむさ苦しい男所帯だ。

 そのうえ問題があがると皆が険しい表情を浮かべ、中には唸り声をあげて考え込む者も居る。


 むさ苦しく男臭くて息をしたくない。

 ギルドに帰りたい……。


 そう考え、ベイガルが己を落ち着かせるため紅茶に口をつけた。

 最近自分が管理するギルドは年若い少女が二人駐在するようになり、随分と華やかになった。元より務めていた受付嬢達も「若い子と一緒だと若返る」と話しているし、現に以前とは活気も空気も違う。

 ゆえにこの暑苦しい男祭りはくるものがある。

 だが今はそれに文句をつけている場合ではない。そう己に言い聞かせ、手元の資料に視線を落とした。


「ドラゴンとは珍しいですね」


 そう隣に座る男に話しかければ、頷いて返された。

 ベイガルの倍近い年数をギルド長として務めている男だ。彼すらも珍しがっている。


「俺が冒険者の時は何度か報告があったが、ここ数年はからっきしだったな」

「俺は話に聞いたのも一度だけですね。それも緊急だったんで解決後に聞かされただけです」


 そう話しつつ、議会の進行役に視線をやる。

 険しい表情の進行役は皆が資料を一読したことを確認すると、話し始めの合図とでも言いたげにコホンと咳払いをした。

 ちなみに、この進行役もまた男なのは言うまでもない。もちろん冒険者上がりなので鍛えられておりむさ苦しい。



 ドラゴンの姿が発見されたと報告が上がり始めたのは、約一か月前。

 だが害のあるものではなく、亜熱帯地域に根城を構え大人しくしているという。人を襲う事もなく、人の住居に踏み込むことしない。

 となればドラゴンの稀少性から定期観察程度に止めておくのが普通なのだが、一点問題があった。


 少女が一人囚われている。


 身元の分からない不思議な服装の女性だという。――『不思議な服装』という言葉に、ベイガルの眉間に皺が寄った――

 そのうえ少女は言葉こそ通じるものの良く分からない話をし続け――眉間の皺が更に深まる――、挙句まるでドラゴンと意思の疎通が出来ているかのように連れ添って去ってしまったのだという。

 この話にギルド長達がおかしなものだと首を傾げ合った。他の獣ならばまだしもドラゴンならば、並の冒険者だって恐怖を感じるものだ。それを恐れず、果てには意思の疎通……そんな話は聞いたことが無い。

 そんな暑苦しい疑問符で充満する室内の中、ベイガルだけが苦悶の表情で額を押さえていた。


「ベイガル、どうした?」

「ナンデモアリマセン」

「何かあったとしか思えないんだが」

「ダイジョーブデス」


 なんとか平静を取り繕い、改めて資料を読み直す。

 先程は雑談交じりに読み流していたが――基本誰も資料なんて真面目に読まない。きちんと読みこむような根から真面目な奴は、ギルド長なんてピンキリな仕事はしない――確かに怪しい記述が幾つもある。

 不思議な服装の少女、言葉は通じるものの理解出来ない話をし、果てには存在しない国の話をし、ドラゴンと共に去っていく……。


 これはあれか、今回もあれなのか……。


 そう嫌な予感をひしひしと感じていると、進行役が「それで」と再び話し始めた。


「王宮からも騎士隊を手配したらしいが、ドラゴンを前に太刀打ちできなかったらしい。ドラゴンスレイヤーも今回は頼めそうにない」


 ドラゴンが出現した際、討伐であろうと調査だろうとまず呼ばれるのがドラゴンスレイヤーと呼ばれる者達だ。

 過去ドラゴンを倒し功績を認められた者にのみ与えられる称号で、これを名乗るだけで相応の実力があると一目置かれる。

 ……が、いかんせんドラゴンの出現頻度が低いだけに、該当する者は極僅かだ。

 そのうえ殆どの者がドラゴンと対峙してから数年経過している。引退している者も居り、若く現役でも二度と危険な目に遭うのは御免だと断る者もいる。

 とりわけ今回は危険なドラゴンではなく緊急性も薄いため、誰も応じてくれなかったのだという。


「かといって国からの要請を断るわけにもいかないだろ。今回は各ギルドから手練れを集めて向かわせようと思う」


 数で押すという事なのだろう。

 なんともこの場に合ったむさ苦しい作戦だ。だが相手が大人しいドラゴンならば、寄せ集めでも人数次第ではいけるかもしれない。討伐は無理でも、少女の保護くらいは……。

 そうベイガルが考えたのとほぼ同時に「手練れと言ってもなぁ」と嫌味ったらしい声が割って入ってきた。

 また始まったとベイガルの眉間に皺が寄る。隣に座る男がポンと肩を叩いてきたのは同情と労いだろうか。


「手練れと言っても、出せそうな奴がいない弱小ギルドもあるよな」

「はいはい、そうだな」

「どことは言わないけど、弱小ギルドは勘弁してやらないとな」

「はいはい、うちだな」


 逐一嫌味を込めた発言にベイガルがうんざりとした口調で返す。

 これ見よがしに馬鹿にされるのは気分が悪いが、事実なので反論も出来ない。

 なにせベイガルが管理するギルド『猫の手』は、弱小ギルド。下の上、見栄を張って中の下。まさに猫の手状態。


 ちなみに、これには大きく二つ理由がある。

 まず一つが立地だ。王都からそこそこ近く、自然が溢れて住むには最適。だが王都に近いゆえに冒険者が定着しない。

 なにせ王都のギルドには依頼が溢れており、相場も高い。上手くいけば身分の高い者の依頼を受けて有力なコネを得るチャンスもある。

 反対に平穏を求める冒険者は王都から離れていく。つまり中途半端なのだ。


 二つ目が他でもないギルド長であるベイガル自身。

 仲介料は最低限で良いとエルフ達の依頼を受けたり、誰も引き受けずたらい回しになっていたダンジョン散策を自腹で拾ったり……。運営資金に困らないので、仲介料が雀の涙でも――むしろ自腹でも――手を出してしまうのだ。

 実力があり稼ぎたい冒険者とは方向性が合わない。


 おかげでギルドの中でも弱小に位置し、こういったギルド長の集まりでは肩身の狭い思いをしている。……はずである。

 本来なら。神経が図太くなければ。


「あんまり言ってくれるなよ。俺だって立場弁えて毎回お茶請け持ってきてるだろ」

「お茶請けどうこうの話じゃねぇだろ」

「なら食べるな」


 ぴしゃりと言い切り、返せと訴えて相手の皿へと手を伸ばす。

 砂糖漬けの花が乗ったシフォンケーキ。例の至高の一品だ。

 ギルド長という身分でも到底手に入れ難い品で、毎度このレベルのお茶請けを持ってくるベイガルは戦力外ながら有難がられ、お茶好きの年輩ギルド長からは目をかけられている。

 ――そこには「このレベルの品物を用意出来るツテがある」と考えられての事なのは言うまでもないが――

 だがそれがまた若いギルド長達には不満なのだろう、毎度噛みついてくる一部に対して溜息を吐き……次いでニヤリと口角を上げた。


「確かにうちのギルドは弱小だ。最近はシフォンケーキリーダーと二代目紅茶リーダーが加わったが、やつらは戦力外だ」

「何が起こってるんだお前のギルドは」

「相変わらず婆さんは野菜を買いに来る」

「まだ来てるのかあの婆さんは」

「だけど、強い新人が入った。それもかなりの手練れだ」


 得意気に告げれば、相手も、それどころか他のギルド長すらも意外だと言いたげに視線を向けてきた。


「以前にギルドの手練れを集めて大蛇を洞窟に追いこんだだろ。そいつはあの大蛇を一人で討伐した」

「な……あの蛇をか!?」

「あぁ、それも軽々とな。ぶった切った首持って平然と帰ってきた」


 そう語れば室内がざわつきだした。

 ギルドの登録試験に利用していた大蛇は、今回のようにギルド長が顔を突き合わせてどうしたものかと悩み、そして人海戦術に出たのだ。

 それでも洞窟に追いやるのでいっぱいだった。それをそまりはあっさりと、まるで試験のついでとでも言いたげに討伐してしまった。


「いやだが、そんな強い冒険者がいるなら噂にならないわけがない」

「見た目は普通の奴だからな、むしろ軟弱にも見える。それに他のギルドには興味が無いらしい」


 仮にそまりがもう少し迫力のある外見をしていれば、畏怖も込めて噂にもなっただろう。

 だが当人は品の良い執事服を纏い、武器は光る棒のみ。内容こそ無礼極まりないが口調も上品だ。

 そのうえ常に「お嬢様、お嬢様」と小柄な少女を追い慕っている。

 おかしな奴が来た、という理由で噂になるかもしれないが、強い奴が来た、という理由では噂にはなり難い。落差が激しすぎる。


「そいつはエルフと獣人の族長にも貸しがあり、あの獣人ラナーも一目置いてるんだ」

「あのラナーが……。本当にそいつ人間なのか?」

「……多分」

「なんで間があいた」

「とにかく、そいつならドラゴンも恐れるものじゃない。むしろ大蛇の時みたいにぶった切らないよう注意させなきゃいけないかもな」


 そうベイガルが話せば、他のギルド長達もこの異例の冒険者の話に聞き入っている。

 そうして進行役が「分かった」と一度頷き、


「今回は”猫の手”に一任しよう」


 と決議を下した。

 室内に賛同を示す拍手が湧く。先程まで噛みついていた男こそ不満そうにしているが、流石にこの流れで異論を唱える気はないようだ。

 そうして決まったと室内に漂っていた重苦しい空気が一瞬にして和らぐ。近況を報告する者、雑談を始める者、多忙なのか急ぐように席を立つ者……と様々だ。

 そんな中、ベイガルは隣に座る男に励ましがてらに肩を叩かれ、


「さて、どうやって言いくるめるか……」


 と計画を練り始めた。



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