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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第三章

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09:ダンジョン内に走る亀裂

 

 そうして賑やかに−−俺のみ邪に−−夕食を終える。

 ダンジョンの中には風呂は無いが、ペンライトを水色に灯して水を出し赤に切り替えて沸かせば湯は無限だ。タオルを湯に浸して体を拭けば多少の汚れは拭えるし、気分も晴れる。


「本当はお嬢様にちゃんとした入浴時間を提供するため、ドラム缶を担いで来ようと思ったんです。ですがそれが23才のオッサンモドキギルド長にばれ、えげつないローキックで制止されました」

「……バイオレンスですね」

「バイオレンスと老婆が行き来する、野菜を買えるギルドです」


 適当に説明しつつ、お湯を張った容器とタオルをお嬢様と西部さんに渡す。


「ほわほわ光って至高のシフォンケーキが振る舞われるギルドでもあるのよ」


 とはお嬢様なりのフォローだろう。もっとも、西部さんの頭上に浮かんでいたクエスチョンマークが一つ増えるだけだが。

 そうしてお嬢様と西部さんがテントの中へと入る。二人が中で体を拭いて、俺は外で……。


「もしも二人きりだったら、背中を拭いて欲しかったの」


 とは、テントの出入口からひょこっと顔を出したお嬢様の一言。俺の返事も聞かずにすぐさま引っ込んでしまうあたり、相変わらず小悪魔だ。

 追いかけたい。

 追いかけてテントの中に入って、小さく肌のきめ細かな背中を拭いてさしあげたい……。


「駄目だ、落ち着け俺。テントの中には西部さんもいる。追いかけたら『ダンジョンで下半身の欲望に負けたお兄さん』になってしまう……」


 これは実刑は免れない。

 そう己に言い聞かせ、欲望を押しとどめるようにタオルで汗を拭き、それだけでは押しとどめられないと頭から氷水を被った。

 それでようやく欲望が消え去るのだから相当である。だが欲望が消え去ったのなら、純粋な気持ちで下心なくお嬢様の背中を拭いて差し上げることが出来るのではなかろうか。

 そうだ、下心なんて無い、欲望は綺麗に消え去った。さぁ早速テントに……。


 ……いや、まだ大分残ってるな。氷水じゃ消えないか。


 いっそ煮えたぎる熱湯でも被ってしまおうか。それでも欲望は高まりそうだけど。

 そんなことを思いつつ、少し熱めの湯に浸したタオルで体を拭った。



 そうして就寝の準備を整える。重要で欠かせない、寝る前のホットミルクタイムだ。

 小さな鍋にミルクを入れ、赤く灯した炎で暖める。


「西部さんもどうぞ。よく眠れますよ」

「はい、ありがとうございます」

「お嬢様、今日はお疲れでしょうから少し甘めにしましょうか」

「クピクピ」

「相変わらずもう飲んでる」


 注ぐより先にお嬢様がコップに口をつけている。

 ダンジョン内でも水色に光る液体は健在なようで、むしろ周囲が暗いせいか普段よりも光が強い。

 初見の西部さんがぎょっと目を見張り、お嬢様とコップを交互に見やった。もっともな反応である。


「し、詩音ちゃん……それは……?」

「ホットミルク……。ミルクを温めたものよ」

「違うの、ホットミルクが分からなかったわけじゃないの。色が、光が……そ、そまりさぁん……」


 わけが分からなくなったのか、西部さんが俺へと視線を向けてくる。回答を求めるような視線だ。

 散々後回しにしたりされたりしてきたが、もしかしたら、今がお嬢様の水色の液体の謎を解くまたとないチャンスなのかもしれない。


「お嬢様、お嬢様はいつもなにを」


 何を飲んでいるんですか、と、そう俺が問いきるより先に、お嬢様がふわと欠伸を漏らした。

 出鼻をくじかれ、思わず言葉を飲み込んでしまう。今回もなのか……!


「温かいものを飲んだら眠くなってきちゃったわぁ」

あれ(水色の液体)温かいんですか」

「ふわ……。私、先に寝るわ」


 おやすみぃ……とお嬢様が目をこすりつつテントの中へと入っていく。なんて愛らし後ろ姿なのだろうか。堪らない。

 堪らない……から、今回も水色の液体の事は置いておこう。お嬢様の愛らしさの前には些細なことである。……諦めたわけじゃないからな!


 ということで、残されたのは俺と西部さん。

 これといって話す事もなく沈黙が続く中、西部さんが深く息を吐くと共に今までの事を話し出した。




 話は俺達がこの異世界に来た直後に遡る。

 森の中で西部さん達と遭遇した後だ。正確に言うのであれば、俺がち○こ能力について話し、彼女達にドン引きされた後。

 それから俺達は虹色のワニを倒し、森を出てベイガルさんに拾われて今に至る。

 一方西部さん達は森の中を歩き、一人が授かったダンジョン作成の能力のもとにこの拠点を構えたのだという。


「私は物を探す能力で、食べ物を探す事が出来たんです。他にも物の保管とか、調理に役立つ能力の子もいて……」

「随分と地味ですね」

「はい。でもここで暮らすには便利な能力でした」


 西部さんの能力は物探し。だが対象があやふやだったり距離があれば漠然とした場所しか分からず、周辺や障害物等までは分からないのだという。

 千里眼というには買い被りすぎか。だが確かに、右も左も分からない場所での食料確保には役に立つ。

 他にも腐敗を遅らせる保管や対象物の詳細を知る鑑定といった能力を持った者達がおり、細々とだが生活の基盤を築いていったらしい。森の中で見せつけられた炎や地面を操る能力も、食材を焼いたりがたついた地面を整地したりするのに使われていたのだという。

 どれも野営向きな能力だ。


「運良く野営向きな能力の子達が集まったのか、もしくは野営向きだから集められたのか、はたまた野営向きな能力を与えられたのか……」

「そまりさん?」

「いえ、何でもありません。話の続きをお願いします」


 不思議そうに見つめてくる西部さんに対し、声色を取り繕って返す。どうやら考え込んで渋い表情をしていたようで、軽く微笑んでみせればそれで安心したのか再び話し出した。

 今の西部さんの状況を見るに、先程の疑問を尋ねたところで回答は望めそうにない。むしろ混乱させてしまう恐れがある。

『野営向きだから集められた』もしくは『野営向きな能力を与えられた』という可能性は、『誰が、どうして、なんのために』という疑問を呼ぶ。考えようにも判断材料が少なく、西部さんの混乱と不安を招くだけだ。


「えっと、それで……。時々は喧嘩したり言い合ったりしたけど、なんとか生活してたんです」


 懐かしむように西部さんが話す。年若い男女の集まりにしては秩序を保って過ごせていたようだ。

 指揮を取っていたのはリーダー格の少年達。彼等のもと生活が安定していたというのなら、あの森の中で俺が感じたヒエラルキーは良い方向に働いていたのだろう。


 時として、人は誰かに指示を出されると己の必要性を感じて安心するものだ。

 ーーむしろ誰かの指示が無いと、誰かのためじゃないと何も出来ない無能だっている。そういう者からしてみれば、上に立ってくれるものは救世主だーー


 そのまま何も起こらずに居たなら、多少の衝突こそあど支え合って平穏に過ごせていたのかもしれない。

 そう語る西部さんの口調は切なげだ。今この状況を考えれば『そうであったなら良かった』という願望に近い。


「でも、菅谷君達が来て……」

「菅谷?」

「はい。同じ学校の男の子達で……。すごく怖い子なんです」


 西部さんが呟くように話す。その声色は細く、菅谷という少年達のことを思い出したのだろう、カップを持つ手が震えている。

 よっぽ恐ろしい少年達なのだろう。そんな者達と合流すればどうなるか……。

 考えるのも気分が悪いとホットミルクを一口飲んだ。

 西部さんが辛そうな表情で話し続けるが、あまり楽しい話は聞けそうにない。




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